株式の遺言信託の終了と遺言執行者の株主権―東京高等裁判所平成28年10月19日判決

亡くなった方が遺言で、同族会社の株式を孫に遺し、孫が成人するまでは弁護士に株式を信託して管理させ、株主としての権利の行使も全部その弁護士が行うと定めていた場合に、相続の後、その株式の株主権を誰が行使できるのかが争われた判例です。遺言で遺言執行者及び受託者に指定された弁護士は、自らが株主権を行使すべきであったと主張しましたが、会社は、孫と、遺留分を主張したもう一人の孫を株主として扱って臨時株主総会を開きました。東京高等裁判所平成28年10月19日判決は、遺言信託は終了しており、弁護士は遺言執行者の地位に基づいても株主権を行使できないと判断し、株主総会の決議の不存在確認と取消しを求めた弁護士らの控訴を棄却しました。
本記事では、判決が、譲渡制限株式を遺言信託で移転する場合にも会社の承認が必要であるとした理由、受益者の親権者による受益権の放棄と遺留分をめぐる合意を有効とした理由、遺言執行者であることだけを根拠に株主権を行使することはできないとした理由を、判決本文に沿って整理します。同族会社の株式を含む遺産について、遺言の内容に納得できない相続人にも、遺言で株式を受け取ることになった相続人にも、遺言による株式の承継がどこで制約を受けるかを考えるうえで参考になる判決です。
ご注意(上級審・関連する裁判について)
本件の第一審判決の本文は、本記事の作成時点では入手できておらず、第一審の判断は、控訴審判決(東京高等裁判所平成28年10月19日判決)の記載から分かる範囲でのみ紹介しています。第一審の判決本文を入手した後に、本記事に加筆します。
- 裁判例の基本情報
- 当事者の表記
- 事案の概要―同族会社の株式を孫に遺す遺言と、その後の経営権をめぐる争い
- 事案の経緯の時系列
- 遺言の内容
- 判断の前提となった法令
- 当事者の請求と主要な主張
- 結論を左右した争点
- 第一審の判断
- 控訴審の判断
- 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
- 各主張を採用し又は排斥した理由
- 遺言は、本件株式を受託者に移転する遺言信託と解された
- 遺言信託による譲渡制限株式の移転にも、会社の承認が必要
- みなし承認の可能性があっても、受益権の放棄により信託は終了した
- 清算受託者が株券を給付しないまま、孫2人の地位を争うのは信義則違反
- 遺留分減殺請求は受託者に対してされたものと評価され、遺留分をめぐる合意は有効
- 遺言執行者であることだけを根拠に、株主権を行使することはできない
- 別件訴訟の判決の理由中の判断に、既判力は生じない
- 遺言者の意図は、法律上の制約により実現できなかった
- 本案①―孫2人を株主として扱ったことに瑕疵はない
- 本案②―自己株式について組合に招集通知を発したことに瑕疵はない
- 本案③―孫MRN氏の2万3,950株を自己株式として扱ったことは瑕疵だが、不存在事由には当たらない
- 本案④―瑕疵は軽微であり、取消請求は裁量棄却
- 主文及び結論
- 審級ごとの結論の推移
- 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
- よくあるご質問
- 関連する記事と御相談のご案内
裁判例の基本情報
| 裁判所 | 東京高等裁判所第11民事部 |
|---|---|
| 裁判日 | 平成28年10月19日 |
| 事件番号 | 平成28年(ネ)第1474号 |
| 裁判の形式 | 判決 |
| 事件の種類 | 株主総会の決議の不存在確認(主位的請求)及び取消し(予備的請求)を求める訴えの控訴事件 |
| 審級 | 控訴審(第一審判決は判決本文に「原判決」として記載されています) |
| 結論 | 控訴棄却。控訴費用は控訴人らの負担 |
| 上訴の状況 | 判決本文からは、その後の上訴の有無及び確定は確認できていません |
この表は、判決本文の冒頭及び主文の記載に基づいて当事務所が作成したものです。
審級ごとの裁判
| 審級 | 裁判所・裁判日・事件番号 | 裁判の形式 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 第一審 | 裁判所名、判決日及び事件番号は控訴審の判決本文に記載がなく、確認できていません | 判決 | 遺言執行者兼受託者の弁護士の訴えのうち、取締役選任決議及び2つの契約承認決議に係る訴えを却下し、監査役選任決議に係る請求を棄却。取締役の請求を全部棄却 |
| 控訴審 | 東京高等裁判所平成28年10月19日、平成28年(ネ)第1474号 | 判決 | 控訴棄却(第一審判決の結論を維持) |
第一審判決の本文は確認していません。本記事では、第一審判決の内容を、控訴審の判決本文に記載された範囲でのみ説明し、それ以上を推測で補っていません。
当事者の表記
判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決本文が用いた符号も、そのままでは使わずに次の表記へ置き換えています。
| 本記事の表記 | 立場 |
|---|---|
| 弁護士WTN氏 | 控訴人(第一審の原告)。遺言で受託者及び遺言執行者に指定された弁護士で、遺言執行者への就任を承諾し、信託の引受けもしました。株主総会の当時、不動産賃貸会社SNBの監査役でした |
| 取締役NKJ氏 | 控訴人(第一審の原告)。株主総会の当時、不動産賃貸会社SNBの取締役でした。遺言で不動産の6分の1を遺すとされた者です |
| 不動産賃貸会社SNB | 被控訴人(第一審の被告)。不動産賃貸等を目的とする株式会社で、株式の譲渡には取締役会の承認を要する定めがあります |
| 被相続人HRK氏 | 平成20年に死亡した遺言者。不動産賃貸会社SNBの株式19万7,000株を保有し、同社の取締役でした。同社の創業者の養子である夫HSM氏の妻です |
| 孫SYT氏 | 二男TDK氏の長男。遺言で株式を遺すとされた孫で、判決は、遺言信託の受益者及び残余財産の帰属権利者と解しました。株主総会の当時は未成年者でした |
| 孫MRN氏 | 長男KZO氏の長女。被相続人HRK氏の法定相続人の一人です。遺言で相続人から廃除するとされましたが、廃除の申立ては却下されました。遺留分を主張した遺留分権利者です |
| 長男KZO氏 | 被相続人HRK氏の長男。不動産賃貸会社SNBの株式4万7,900株を保有し、同社の代表取締役でしたが、平成20年3月に被相続人より先に死亡しました |
| 二男TDK氏 | 被相続人HRK氏の二男で、法定相続人の一人。孫SYT氏の親権者です |
| 二男の妻GNR氏 | 二男TDK氏の妻で、孫SYT氏の親権者です |
| 長男の妻CHY氏 | 長男KZO氏の妻で、孫MRN氏の母。不動産賃貸会社SNBの取締役を務め、本件では会社側の補助参加人です。控訴審の判決本文では会社の代表取締役として表示されています |
| 代表取締役PKN氏 | 長男KZO氏の後任として不動産賃貸会社SNBの代表取締役となった者。会社側の補助参加人です |
| 組合理事PRJ氏 | 事業協同組合UKMの理事で、不動産賃貸会社SNBの取締役。会社側の補助参加人です |
| 組合理事QSM氏 | 事業協同組合UKMの理事で、不動産賃貸会社SNBの取締役。本件株主総会を招集した代表取締役の権利義務を有する者です |
| 事業協同組合UKM | 中小企業等協同組合法に基づいて設立された組合。かつて不動産賃貸会社SNBの株式20万4,900株を保有していました |
| 縁者RYO氏 | 被相続人HRK氏の縁者。遺言で不動産の6分の1を遺すとされた者です |
| 弁護士SDK氏 | 裁判所の仮処分命令により選任された不動産賃貸会社SNBの代表取締役職務代行者 |
| 監査役TVM氏 | 本件株主総会で監査役に選任された者 |
| 賃貸ビルWKB | 公園の敷地内にあった地下1階付き3階建ての建物。不動産賃貸会社SNBが1階を除く部分を、事業協同組合UKMが1階部分を所有していました |
判決本文は、控訴人らを「一審原告ら」、会社を「一審被告」と呼び、被相続人HRK氏が保有していた株式19万7,000株を、被相続人の名前を付けた呼称で呼んでいます。本記事では、この株式を「本件株式」と呼びます。判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。
事案の概要―同族会社の株式を孫に遺す遺言と、その後の経営権をめぐる争い
不動産賃貸会社SNBと株主の構成
判決の認定によれば、不動産賃貸会社SNBは昭和26年に設立された株式会社で、不動産賃貸等を目的としています。発行済株式の総数は48万株で、株式の譲渡には取締役会の承認を要するとの定めがあります。設立後の実際の主要な営業は、公園の敷地内にある賃貸ビルWKBのうち1階を除く部分を所有し、その賃貸により利益を得ることでした。
被相続人HRK氏が死亡した時点の株主名簿上の主な株主は、次のとおりです。割合の欄は、発行済株式の総数48万株を分母として当事務所が計算したもので、判決本文には記載がありません(事業協同組合UKMの約43%は判決本文の記載です)。
| 株主名簿上の株主 | 株式数 | 割合 |
|---|---|---|
| 事業協同組合UKM | 20万4,900株 | 約43%(判決本文の記載) |
| 被相続人HRK氏 | 19万7,000株 | 約41.0%(当事務所の計算) |
| 長男KZO氏(死亡) | 4万7,900株 | 約10.0%(当事務所の計算) |
| その他の株主(法人1社及び個人) | 合計3万200株 | 約6.3%(当事務所の計算) |
もっとも、事業協同組合UKMの株式20万4,900株は、平成18年までに不動産賃貸会社SNBの株主総会で承認された交換(会社が所有する賃貸ビルWKBの地下1階と、組合が所有する株式との交換)により、会社の自己株式となっていました。株主名簿の名義書換はされていませんでした。判決は、本件株式19万7,000株が、議決権のある株式27万5,100株(48万株から自己株式となった20万4,900株を除いたもの)の7割以上を占める支配株式であったと述べています。
経営をめぐる対立の中で、被相続人は遺言を作成した
判決の認定によれば、長男KZO氏は、不動産賃貸会社SNBの代表取締役として、取締役である被相続人HRK氏及び長男の妻CHY氏と協調しながら、事業協同組合UKMの意見とは一線を画して会社を経営してきました。長男KZO氏が平成20年3月に死亡した後、後任の代表取締役PKN氏が組合寄りの方針で経営したため、被相続人HRK氏、長男の妻CHY氏及び孫MRN氏はこれに対抗しようとしていました。
ところが、平成20年8月中旬に長男の妻CHY氏が代表取締役PKN氏らの側に寝返るような行動をとったため、被相続人HRK氏は、同月17日に自筆証書遺言を作成しました。判決は、遺言の主要な内容を、孫MRN氏の廃除、本件株式の遺言信託と孫SYT氏への帰属、弁護士WTN氏の遺言執行者への指定などとしています。被相続人HRK氏は、その後も意向に沿わない行動をとり続けた長男の妻CHY氏に、平成20年9月1日、絶縁状を送付しました。
被相続人HRK氏は、平成20年9月に死亡しました。長男KZO氏が先に死亡していたため、被相続人HRK氏の法定相続人は、長男KZO氏の長女である孫MRN氏と、二男TDK氏の2名でした。
遺言信託をめぐるその後の経緯
相続の開始後、弁護士WTN氏は、遺言執行者への就任を承諾し、遺言で指定された受託者として信託の引受けもして、本件株式のうち14万4,700株分の株券の占有を取得しました(残りの5万2,300株は、相続開始の当時に帰属が係争中でしたが、後に被相続人HRK氏の遺産であることを確認する判決が確定しました)。その後の主な経緯は次のとおりです。
- 廃除の申立ての却下:弁護士WTN氏は、遺言執行者として孫MRN氏の廃除を家庭裁判所に申し立てましたが、平成22年4月15日に申立てを却下する審判があり、その後確定しました。
- 遺留分減殺請求:孫MRN氏は、遺言により遺留分を侵害されたとして、平成20年11月12日から17日までの間に、受遺者である孫SYT氏、二男TDK氏、取締役NKJ氏及び縁者RYO氏に遺留分減殺請求の通知をするとともに、その事実を遺言執行者である弁護士WTN氏に通知しました。
- 受託者への譲渡の不承認:弁護士WTN氏は、会社に対し、受託者である自分への本件株式の譲渡の承認を求めました。平成21年5月26日の取締役会では、代表取締役職務代行者である弁護士SDK氏が棄権し、取締役である長男の妻CHY氏が反対したため、議案は否決されました。弁護士WTN氏は監査役としてこの取締役会に出席し、否決をその場で現認して議事録に押印しました。
- 受益権の放棄:平成23年2月16日、孫SYT氏の親権者である二男TDK氏及び二男の妻GNR氏は、受託者である弁護士WTN氏に対し、遺言信託の受益権を放棄する旨の意思表示をしました。判決は、親権者は、本件株式を孫SYT氏に取得させる意図でこの放棄をしたと認定しています。
- 遺留分をめぐる合意:平成23年10月13日、孫SYT氏の特別代理人である弁護士、二男TDK氏及び孫MRN氏の間で、本件株式を孫SYT氏が9万8,727株、孫MRN氏が9万8,273株取得する旨の合意がされました(判決はこれを「本件遺留分減殺合意」と呼んでいます)。
- 孫2人への譲渡の承認:平成24年1月18日の取締役会で、この合意に基づく孫SYT氏及び孫MRN氏への譲渡が全員一致で承認され、株主名簿も書き換えられました。ただし、この取締役会は、後に不存在が確定する株主総会決議で選任された代表取締役が招集したものでした。
このほか、長男KZO氏が保有していた4万7,900株は、長男の妻CHY氏と孫MRN氏が2万3,950株ずつ取得することに確定しました。孫MRN氏の2万3,950株については、平成23年3月31日、被相続人HRK氏が会社に負っていた相続債務3,233万2,500円の代物弁済として、被相続人HRK氏の相続人である孫MRN氏が会社に譲渡することになり、会社はこれを自己株式として扱いました。
別件訴訟で、過去の株主総会決議の不存在が確定した
この間、不動産賃貸会社SNBでは、取締役の選任・解任をめぐる株主総会決議の効力が次々に争われました。平成20年8月27日の株主総会での取締役NKJ氏の解任決議と、平成22年4月1日の株主総会での取締役NKJ氏の解任決議、弁護士WTN氏の監査役解任決議並びに長男の妻CHY氏及び代表取締役PKN氏の取締役選任決議の効力を争う訴訟(判決は「別件訴訟」と呼んでいます)では、これらの決議全部の不存在を確認する判決が、平成26年5月13日に確定しました。
判決によれば、別件訴訟の判決理由の骨子は、自己株式である組合の株式について事業協同組合UKMに議決権を行使させ、本件株式の一部(平成20年8月27日の株主総会)又は全部(平成22年4月1日の株主総会)について被相続人HRK氏又は弁護士WTN氏に議決権を行使させなかった点に重大な瑕疵があるというものでした。また、別件訴訟の控訴審判決の理由中には、弁護士WTN氏は遺言執行者としての地位に基づき本件株式の株主としての権限を行使できるとの判断が示されていました。
会社は、孫2人を株主として扱って臨時株主総会を開いた
別件訴訟の判決の確定を受けて、代表取締役の権利義務を有する組合理事QSM氏は、平成26年5月28日に取締役会を開き、臨時株主総会を開催すること、遺言による孫SYT氏の本件株式の取得を追認すること、本件遺留分減殺合意による孫SYT氏及び孫MRN氏の株式の取得を追認することなどを可決しました。弁護士WTN氏は、この取締役会で、別件訴訟の判決理由中の判断と異なるとして反対の意見を述べましたが、容れられませんでした。
会社は、孫SYT氏を9万8,727株、孫MRN氏を9万8,273株、事業協同組合UKMを20万4,900株、長男の妻CHY氏を2万3,950株の株主として扱い、招集通知をしました。孫MRN氏が長男KZO氏から相続した2万3,950株は、代物弁済により自己株式になったものと扱われました。
平成26年6月10日の臨時株主総会(以下「本件株主総会」といいます)では、次の決議がされました。
- 代表取締役PKN氏、組合理事PRJ氏及び長男の妻CHY氏を取締役に選任する決議
- 監査役TVM氏を監査役に選任する決議(弁護士WTN氏を監査役とする議案は否決されました)
- 会社と事業協同組合UKMとの間の、賃貸ビルWKBの地下1階の所有権と会社の株式20万4,900株との等価交換契約の合意解約を承認する決議
- 会社と事業協同組合UKMとの間の、賃貸ビルWKBの地下1階及び地上2階の売買契約を承認する決議
事業協同組合UKMは事前に欠席を通知して議決権を行使せず、少数株主の一部も欠席しました。議決権が行使された24万4,750株は、全部がこれらの議案に賛成しました。孫SYT氏(未成年者)の議決権は親権者の代理人である長男の妻CHY氏が、孫MRN氏の議決権は代理人である長男の妻CHY氏が、それぞれ行使しています。
弁護士WTN氏と取締役NKJ氏は、本件株主総会の決議の不存在確認と、予備的に取消しを求めて訴えを提起しました。
事案の経緯の時系列
| 時期 | 出来事(判決本文の記載による) |
|---|---|
| 平成18年まで | 事業協同組合UKMの株式20万4,900株と会社の賃貸ビルWKBの地下1階の交換が株主総会で承認され、その後の履行により組合の株式は自己株式となる(名義書換はされず) |
| 平成20年3月 | 代表取締役の長男KZO氏が死亡。後任の代表取締役PKN氏が組合寄りの方針で経営 |
| 平成20年4月26日 | 株主総会で組合理事PRJ氏、組合理事QSM氏及び取締役NKJ氏が取締役に選任される(この選任の効力は争われていません) |
| 平成20年8月12日 | 株主総会で代表取締役PKN氏らの取締役解任決議等(後に不存在確認判決が平成22年2月25日に確定) |
| 平成20年8月13日 | 取締役NKJ氏が代表取締役に就任 |
| 平成20年8月17日 | 被相続人HRK氏が自筆証書遺言を作成。同日、受託者への信託譲渡を承認する取締役会決議がされたが、判決は効力を有しないと認定 |
| 平成20年8月27日 | 株主総会で取締役NKJ氏の解任決議(後に別件訴訟で不存在が確定) |
| 平成20年9月1日 | 被相続人HRK氏が長男の妻CHY氏に絶縁状を送付 |
| 平成20年9月 | 被相続人HRK氏が死亡。弁護士WTN氏が遺言執行者への就任を承諾し、信託を引き受ける |
| 平成20年10月1日 | 取締役NKJ氏らの職務執行停止と、弁護士SDK氏を代表取締役職務代行者に選任する仮処分命令 |
| 平成20年11月12日から17日 | 孫MRN氏が受遺者らに遺留分減殺請求を通知し、その事実を遺言執行者に通知 |
| 平成21年5月26日 | 取締役会で、受託者である弁護士WTN氏への本件株式の譲渡承認議案が否決される |
| 平成21年8月26日 | 代表取締役PKN氏及び長男の妻CHY氏が取締役を辞任 |
| 平成22年4月1日 | 株主総会で取締役NKJ氏の解任、弁護士WTN氏の監査役解任等の決議(後に別件訴訟で不存在が確定) |
| 平成22年4月15日 | 孫MRN氏の廃除の申立てを却下する審判(その後確定) |
| 平成23年2月16日 | 孫SYT氏の親権者が遺言信託の受益権を放棄 |
| 平成23年3月31日 | 孫MRN氏の2万3,950株を、相続債務3,233万2,500円の代物弁済として会社に譲渡することとなる |
| 平成23年10月13日 | 本件遺留分減殺合意(孫SYT氏9万8,727株、孫MRN氏9万8,273株) |
| 平成23年11月21日 | 別件訴訟の事実審の口頭弁論が終結 |
| 平成24年1月18日 | 取締役会で孫SYT氏及び孫MRN氏への譲渡を承認。株主名簿を書換え |
| 平成26年5月13日 | 別件訴訟の判決(決議全部の不存在確認)が確定 |
| 平成26年5月28日 | 取締役会で本件株主総会の招集を決議し、孫2人の株式の取得を追認 |
| 平成26年6月10日 | 本件株主総会で取締役・監査役の選任等の決議 |
| (時期の記載なし) | 第一審判決。弁護士WTN氏の訴えの一部を却下し、その余の請求及び取締役NKJ氏の請求を棄却 |
| 平成28年10月19日 | 東京高等裁判所が控訴を棄却 |
判決本文では、死亡日などの日が伏せられている箇所があります。本記事では、判決本文で分かる範囲で記載しています。
遺言の内容
判決に別紙として添付された遺言の文言
判決に別紙として添付された遺言の文言は、次のとおりです(当事者の表記を置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています)。
私の財産のうち株券は〔二男TDK氏〕の子供〔孫SYT氏〕にあげる。一九七、〇〇〇株です。
私の不動産は六分の一を〔取締役NKJ氏〕に
六分の一を〔縁者RYO氏〕にあげる
六分の四は〔二男TDK氏〕にあげる
〔長男の妻CHY氏〕と〔孫MRN氏〕は相続人から廃除する。
株券は〔孫SYT氏〕が成人するまで弁護士〔WTN氏〕が信託管理し株券の権利行使は全部同弁護士が行使する。
弁護士〔WTN氏〕を遺言執行者に指定する。約束を守ってください
遺言には、株式を孫SYT氏に「あげる」という文言と、孫SYT氏が成人するまで弁護士WTN氏が「信託管理」し、権利行使は全部同弁護士が行うという文言が並んでいます。この遺言を、孫SYT氏への遺贈と読むのか、弁護士WTN氏への遺言信託と読むのかが、後に見る判断の出発点になりました。
判断の前提となった法令
判決が判断の前提とした主な法令の内容は、次のとおりです。以下は当事務所による条文の要約であり、条文や判決本文の引用ではありません。
- 会社法831条1項・2項(株主総会の決議の取消しの訴えと裁量棄却):株主等は、招集の手続や決議の方法が法令・定款に違反する場合などに、決議の取消しを訴えで請求できます。ただし、招集の手続又は決議の方法の違反については、違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は請求を棄却することができます(裁量棄却)。
- 会社法133条2項・174条(一般承継と譲渡制限株式):判決は、これらの規定を参照して、相続などの一般承継による株式の移転には会社の承認は不要であると述べています。
- 会社法145条1号(承認のみなし):会社が、譲渡の承認の請求の日から一定の期間内に、承認をするかどうかの決定の内容を通知しなかった場合などには、承認をしたものとみなされます。
- 信託法3条2号(遺言信託):遺言により、特定の者に財産の譲渡等をする旨と、その者が一定の目的に従い財産の管理又は処分等をすべき旨を定める方法で、信託をすることができます。
- 信託法99条・163条1号(受益権の放棄と信託の終了):受益者は、受託者に対して受益権を放棄する旨の意思表示をすることができます。信託の目的を達成したとき、又は達成することができなくなったときは、信託は終了します。
- 民法1015条(遺言執行者の地位。当時の規定):判決当時の民法1015条は、遺言執行者を相続人の代理人とみなす旨を定めていました。
判決当時の遺留分の制度は、遺留分権利者が遺贈等の効力を失わせる「遺留分減殺請求」の仕組みでした。平成30年の民法改正(令和元年7月1日施行)により、遺留分の制度は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する仕組みに改められています。また、民法1015条も、同じ改正で、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は相続人に対して直接にその効力を生ずる旨の規定に改められています。現在の事案では、現行の条文で確認する必要があります。
当事者の請求と主要な主張
控訴人らの請求
控訴人ら(弁護士WTN氏及び取締役NKJ氏)は、第一審判決の取消しを求め、主位的に、本件株主総会の各決議が不存在であることの確認を、予備的に、各決議の取消しを求めました。なお、控訴人らは、決議の無効確認の訴えは提起せず、株主総会を招集した取締役会の決議の違法は、決議の不存在事由や取消事由としては主張しないと述べています。
控訴人らの主な主張
判決本文に記載された控訴人らの主張の要点は、次のとおりです。
- 原告適格:弁護士WTN氏は、監査役選任決議が取り消されれば監査役となる者であるとともに、遺言信託の受託者として、又は遺言執行者として、本件株式の株主権を行使できる。取締役NKJ氏は、株主総会の当時の取締役である。
- 受益権の放棄と遺留分をめぐる合意は無効:受益権の放棄と本件遺留分減殺合意は、遺言の執行を妨げる行為に当たり無効である。親権者が裁判所を欺罔し代理権を濫用したものとして民法93条ただし書の類推適用により無効であり、違法な動機を達成するためのものとして公序良俗に反し無効である。合意は、孫SYT氏の特別代理人である弁護士が欺罔され又は錯誤によりしたもので無効である。
- 別件訴訟の判決による遮断:受益権の放棄と遺留分をめぐる合意の主張は、別件訴訟の確定判決の既判力又は信義則により遮断される。
- 株券の不交付:本件株式の株券は孫SYT氏及び孫MRN氏に交付されていないので、両名への譲渡は効力を生じない。
- 遺留分減殺請求の相手方:孫MRN氏の遺留分減殺請求の意思表示は、法定の期間内に受託者である弁護士WTN氏に到達していない。
- 遺言執行者の議決権:遺言執行者は相続財産に含まれる株式について議決権を行使できる。議決権の代理行使を株主又は親族に限る定款の規定は任意代理人に関するもので、法定代理人である遺言執行者には当てはまらない。
- 決議の瑕疵:会社は、本件株式の株主権を弁護士WTN氏に行使させず、自己株式について前の株主である事業協同組合UKMに招集通知を発し、孫MRN氏が相続した2万3,950株を自己株式として扱って招集通知を発しなかった。決議が存在すると法的に評価できないほど手続の違法が著しく、少なくとも取消事由に当たる。
会社の主な主張
- 会社の株式は譲渡制限株式であり、受託者への譲渡について会社の承認はない。受益権の放棄によって遺言信託は終了し、本件遺留分減殺合意によって孫SYT氏及び孫MRN氏が本件株式を取得し、遺言の執行も終了した。
- 遺言執行者は、相続財産に含まれる株式について議決権を行使することはできない。仮に遺言執行者が相続人の代理人の地位に立つとしても、定款は議決権を代理行使できる者を株主又は親族に限っている。
- 株主でない者への招集通知の発送は手続上の瑕疵に当たらない。事業協同組合UKMは欠席しており議決権を行使していない。孫MRN氏の2万3,950株は代物弁済により自己株式となった。
- 仮にこれらが法令に違反するとしても、重大な法令違反に当たらず決議に影響を及ぼさないから、取消請求は裁量棄却されるべきである。
以上は、いずれも当事者の主張であり、裁判所が認定した事実ではありません。
結論を左右した争点
判決本文の判断の構成からみると、結論を左右した争点は次のとおりです(争点の整理は当事務所によるものです)。
- 弁護士WTN氏は、本件株式の株主権を行使できるか。遺言をどう解釈するか、譲渡制限株式を遺言信託で移転するのに会社の承認が必要か、遺言信託は終了したか、受益権の放棄と本件遺留分減殺合意は有効か、遺言執行者の地位に基づいて株主権を行使できるか、別件訴訟の判決がこの判断を妨げるかが問題となりました。これにより、弁護士WTN氏の訴えのうち、監査役選任決議以外の決議に係る部分が適法かどうかが決まります。
- 本件株主総会の招集の手続に、決議の不存在又は取消しの事由となる瑕疵があるか。孫SYT氏及び孫MRN氏を本件株式の株主として扱ったこと、自己株式について事業協同組合UKMに招集通知を発したこと、孫MRN氏の2万3,950株を自己株式として扱ったことが問題となりました。
- 瑕疵がある場合に、取消請求を裁量棄却できるか。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
第一審の判断
第一審判決の本文は確認していません。控訴審の判決本文から分かる第一審の判断は、次の範囲にとどまります。
- 弁護士WTN氏の訴えのうち、取締役選任決議、等価交換契約の合意解約の承認決議及び売買契約の承認決議に係る訴えを、全部却下した。
- 弁護士WTN氏の訴えのうち、監査役選任決議に係る訴えについては、請求を全部棄却した。
- 取締役NKJ氏の請求を全部棄却した。
第一審判決がどのような理由でこれらの結論に至ったかは、控訴審の判決本文には記載がなく、分かりません。
控訴審の判断
第一審判決の結論を維持し、自ら理由を示した
控訴審判決は、控訴を棄却し、第一審判決の結論を維持しました。控訴審判決は、第一審判決の理由を引用する形をとらず、訴えの適法性と本案のそれぞれについて自ら理由を示しています。そのため、控訴審が第一審の理由のどの部分を維持し、又は改めたのかは、判決本文からは分かりません。
控訴審判決の理由の構成は、次のとおりです。
| 判断の対象 | 控訴審の判断 |
|---|---|
| 取締役NKJ氏の訴え | 株主総会の当時の取締役であり、原告適格がある。訴えは適法 |
| 弁護士WTN氏の訴え(監査役選任決議に係るもの) | 決議の取消しにより監査役となる者として原告適格がある。訴えは適法 |
| 弁護士WTN氏の訴え(その他の決議に係るもの) | 本件株式の株主権を行使することができないから、不適法であり却下を免れない |
| 本案(決議の不存在・取消しの事由) | 孫2人を株主として扱った点と組合に招集通知を発した点に瑕疵はない。孫MRN氏の2万3,950株を自己株式として扱った点は手続上の瑕疵だが、決議が法的に存在しないと評価すべきほどの瑕疵ではない。瑕疵は軽微で決議に影響を与えたとはいえないから、取消請求は裁量棄却すべきである |
裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
認定された事実
判決が認定した事実のうち、判断の基礎となった主なものは次のとおりです(判決本文の認定事実の要約です)。
- 不動産賃貸会社SNBの株式は譲渡制限株式であり、その譲渡には取締役会の承認を要する。
- 平成21年5月26日の取締役会で、受託者である弁護士WTN氏への本件株式の譲渡承認議案が否決され、弁護士WTN氏はその場で否決を現認して議事録に押印した。その後に会社の承認があったことを認めるに足りる証拠はない。
- 平成23年2月16日、孫SYT氏の親権者は、受託者に対して受益権を放棄する旨の意思表示をした。親権者は、残余財産の帰属の権利を放棄する意図はなく、本件株式を孫SYT氏に取得させる意図で放棄をした。
- 平成23年10月13日、孫SYT氏の特別代理人である弁護士、二男TDK氏及び孫MRN氏の間で本件遺留分減殺合意がされた。
- 本件株式の権利関係は、裁判所の最終の判断があるまで不安定な状態に置かれていた。遺言信託に遺留分減殺があった場合の権利関係は、専門家の間でも意見が分かれる状態であった。
- 弁護士WTN氏は、本件株式の株券の大部分を占有したまま、孫SYT氏への給付をしていない。
判断の枠組み
判決は、まず遺言の内容を解釈して遺言信託の内容を確定し、次に、その遺言信託が終了したかどうか、終了後の清算がどうなるかを検討しています。そのうえで、遺留分をめぐる合意の効力と、遺言執行者としての株主権の行使の可否を判断し、別件訴訟の判決がこれらの判断を妨げないことを確認しました。最後に、遺言者の意図と法律上の制約との関係を整理して、弁護士WTN氏は本件株式について株主権を行使できないと結論付けています。
本案については、招集の手続上の瑕疵を3つに分けて検討し、それぞれ瑕疵の有無と程度を判断したうえで、裁量棄却の要件に当てはめています。
各主張を採用し又は排斥した理由
遺言は、本件株式を受託者に移転する遺言信託と解された
判決は、遺言の個々の条項、遺言のその他の記載との関連、遺言作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況(組合側の人物との対立、長男の妻CHY氏及び孫MRN氏との対立等)などを総合的に考慮して、遺言信託の内容を次のとおり解釈しました。
| 項目 | 判決が解釈した内容 |
|---|---|
| 信託財産 | 本件株式 |
| 信託の目的 | 孫SYT氏のための本件株式の保存、管理 |
| 受託者 | 弁護士WTN氏 |
| 受益者 | 孫SYT氏 |
| 受益権の主要な内容 | 会社から自益権に係る給付(配当等)を受けて受益者に交付する。共益権(議決権・株主提案権・帳簿閲覧権・訴訟提起権など)は受託者が自己の判断により行使する |
| 信託の終了事由 | 孫SYT氏の成人 |
| 残余財産の帰属権利者 | 孫SYT氏 |
判決は、遺言は、相続開始時に本件株式を受託者である弁護士WTN氏に取得させ、信託の終了時に残余財産の帰属権利者である孫SYT氏に取得させることを意図したものと推認されるとしました。また、孫SYT氏の成人の前に信託法163条所定の別の終了事由が生じた場合には、その事由により信託が終了し、終了事由が何であっても残余財産の帰属権利者は孫SYT氏であると解しています。
判決は、本件株式について、遺言信託とは別に遺贈や始期付遺贈が定められたと解することはできないとしました。孫SYT氏に遺贈したうえで受託者との信託契約の締結を指示したと解することは遺言信託の定義を超えた解釈であり、負担付遺贈と解することも不自然であるとしています。始期付遺贈と解することについては、次のとおり述べています。
「始期付遺贈(〔孫SYT氏〕の成人時に〔孫SYT氏〕に遺贈する。)は、いわゆる後継ぎ遺贈(無効である。)に類するものであるので、始期付遺贈と解することには無理がある。」
遺言信託による譲渡制限株式の移転にも、会社の承認が必要
判決は、譲渡制限株式の移転と会社の承認について、次のとおり判断しました。
「譲渡制限株式であっても、一般承継による株式の移転には、会社の承認は不要である(会社法一三三条二項、一七四条参照)。しかしながら、遺贈は一般承継ではないから、遺贈による譲渡制限株式の移転には、会社の承認が必要である。そして、本件のような遺言信託は、株式を遺言者から遺言信託の受託者に移転するものである(信託法三条二号)が、これも一般承継ではないから、遺言信託による譲渡制限株式の移転にも、会社の承認が必要である。」
そのうえで、平成21年5月26日の取締役会で受託者への譲渡承認議案が否決され、その旨が弁護士WTN氏にその場で通知されたと解されることから、判決は、次のとおり判断しました。
「そうすると、本件遺言信託は、〔弁護士WTN氏〕が〔本件株式〕の譲渡を受けることができず、信託受託者の役割を果たすことができないため、信託の目的達成不能により終了したものと解される(信託法一六三条一号)。」
みなし承認の可能性があっても、受益権の放棄により信託は終了した
判決は、譲渡不承認の取締役会が、取締役の選任・解任決議の効力が争われている最中に、職務代行者が棄権し取締役1人だけが不承認の議決権を行使したものであったことから、不承認の決議の効力が否定され、会社法145条1号により承認がされたものとみなされる可能性があるとして、さらに検討しました。
判決は、仮にみなし承認があったとしても、平成23年2月16日の受益権の放棄により、遺言信託は目的達成不能により終了したとしました。その理由として、次のとおり述べています。
「受益者全員が受益権を放棄した場合には、信託は目的達成不能により終了する(信託法一六三条一号)と解されるからである。」
控訴人らは、受益権の放棄は親権者の代理権の濫用であり、違法な動機を達成するためのものであると主張しました。判決は、信託が孫SYT氏の成人まで続けば親権者は本件株式の管理処分に関与できないのに、受益権の放棄で信託を終了させれば親権者が関与できるようになるとして、親権者の利益を図ったとみる余地が全くないわけではないと述べました。しかし、遺言信託は受託者への譲渡承認が得られずに頓挫した状態にあり、孫MRN氏との遺留分の紛争を解決する必要もあったため、遺言信託を継続することに合理性を認め難い状態にあったことも事実であるとしました。特に、遺言信託に対する遺留分減殺があった場合の法律関係は極めて難解であり、遺言信託を存続させたままでは紛争の解決が困難であったとしています。そして、親権者が孫SYT氏の利益を無視して自己又は第三者の利益のみを図っていたことその他の代理権の濫用や違法な動機を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はないとして、控訴人らの主張を採用しませんでした。
清算受託者が株券を給付しないまま、孫2人の地位を争うのは信義則違反
判決は、遺言信託は終了により清算手続に入り、受託者である弁護士WTN氏は清算受託者として、残余財産の帰属権利者である孫SYT氏に本件株式を給付すべき義務を負うとしました。残余財産の権利は、信託の終了と同時に移転するのではなく、清算受託者が残余財産の給付行為(株券の交付)をした時に初めて移転すると解されるとしています。
そのうえで、判決は、本件では清算手続が早期かつ容易に実行可能であるのに、弁護士WTN氏は信託の終了を否認したまま清算受託者としての義務を果たそうとしていないとして、次のとおり述べました。
「このような者が、自らの残余財産給付義務(株券交付)の不履行の事実を差し置いて、〔孫SYT氏〕(ひいては〔孫MRN氏〕)の株主たる地位を争うのは、信義則違反であって許されない。」
遺留分減殺請求は受託者に対してされたものと評価され、遺留分をめぐる合意は有効
判決は、孫MRN氏は廃除を免れ、遺言により遺留分を侵害されていたから、遺贈と類似した効果を持つ遺言信託に対しても遺留分減殺請求をすることができる地位にあったとしました。そして、遺言信託に対する遺留分減殺請求の意思表示は受託者に対して行うべきところ、孫MRN氏が平成20年11月に遺言執行者である弁護士WTN氏に宛ててした通知は、受託者に対する遺留分減殺請求の意思表示と法的に評価できるとしました。判決は、その理由として、弁護士WTN氏が受託者でもあること、孫SYT氏が受益者兼残余財産の帰属権利者であること、遺言信託が経済的には本件株式の孫SYT氏への遺贈という機能を果たしていること、孫SYT氏には現実に減殺の意思表示がされたこと、遺言信託に対する遺留分減殺の法律関係は難解であり、相手方の適格等について細密な正確さを要求することは遺留分権利者に無理を強いる結果となることを挙げています。
本件遺留分減殺合意について、判決は、孫SYT氏と孫MRN氏の間の遺留分の紛争を解決する目的で、清算手続の実行により孫SYT氏に帰属することが確実な本件株式について、将来清算受託者から給付を受けた際に、さらに孫SYT氏から孫MRN氏へその一部を譲渡する旨を定めた合意として有効であると解しました。判決は、その理由として、次の点を総合しています。
- 遺留分権利者と遺留分侵害者は、遺留分に関する争いを当事者間の合意で解決することができること
- 遺言信託に対して遺留分減殺がされるとどのような法律関係が生じるのかは定説がなく、学者の間でも理解が分かれている現状の下では、当事者間の合意による早期の紛争解決を選択すべき合理性があること
- 遺言執行者は、遺留分の紛争に関しては何らの権限も有しないと解されること
- 合意の時点で遺言信託は終了し、清算手続が行われるべき段階に入っていたが、弁護士WTN氏は何ら清算手続を実行しようとしていなかったこと
合意が親権者の代理権の濫用や違法な動機によるもの、特別代理人である弁護士が欺罔され又は錯誤に陥ってしたものであるとの控訴人らの主張についても、判決は、これを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はないとして採用しませんでした。
遺言執行者であることだけを根拠に、株主権を行使することはできない
控訴人らは、遺言執行者は相続人の代理人であり、遺言執行者として本件株式の議決権を行使できると主張しました。判決は、次のとおり判断しました。
「遺言執行者の権利義務は、遺言の内容により定まる。遺産の中に株式がある場合であっても、遺言執行者の地位にあることだけを根拠にして当該株式の株主権を行使することはできない。」
判決は、本件の遺言では、本件株式については受託者の権限が重要であり、遺言執行者の職務として考え得るのは、株券の占有を取得して受託者に交付すること、会社に受託者への譲渡承認を請求することくらいであるとしました。受託者と遺言執行者が同じ弁護士WTN氏である本件では、これらは受託者として自ら行えば足り、遺言の文言によれば、株主権(特に共益権)の行使は遺言執行者としての権限ではなく受託者としての権限であることが明らかであるとしています。
民法1015条について、判決は次のとおり述べました。
「民法一〇一五条が遺言執行者を相続人の代理人と定めるのは、遺言の趣旨に沿って行われた遺言執行者の行為の効果を相続人に帰属させるための法技術にとどまる。同条は、遺言執行者に対して一般的に幅広く相続人を代理する権限を認めたものではない。」
判決は、別件訴訟の控訴審判決の理由中の判断(弁護士WTN氏は遺言執行者としての地位に基づき本件株式の株主としての権限を行使できる)は、当裁判所の採用するところではないと明言しました。また、遺言執行者は遺留分に関する争いについては何らの権限も有しないことなどを考慮すると、受益権の放棄と本件遺留分減殺合意は、遺言の執行を妨げる行為には当たらないとしました。
別件訴訟の判決の理由中の判断に、既判力は生じない
控訴人らは、別件訴訟の確定判決の既判力により、受益権の放棄と遺留分をめぐる合意の主張は遮断されると主張しました。判決は、次のとおり述べました。
「既判力が生じる事項(既判力の客観的限界)は、訴訟物に関する判断であって、本案判決の確定判決主文に包含するものに限るのが原則である。」
判決は、別件訴訟では判決主文に記載された取締役・監査役の選任決議・解任決議の不存在について既判力が生じるにとどまり、弁護士WTN氏が遺言執行者として株主権を行使できるとの理由中の判断には既判力は生じないとしました。訴訟要件である原告適格についての判断も、理由中の判断であり既判力は生じないとしています。
判決は、訴訟上の信義則(争点効類似の効力)についても検討し、次の理由から、別件訴訟の判決理由と異なる主張をすることは信義則に反しないとしました。
- 別件訴訟では多数の論点が散漫に争点となっており、遺言執行者の権限の論点は唯一の中心的な争点として攻撃防御が尽くされたものではない。別件訴訟の理由中の判断は、遺言執行者の権限の範囲を非常に幅広に捉えたもので、最近の下級審裁判例においては珍しい判断である。
- 会社は別件訴訟でも受益権の放棄を主張していたが、判決理由で判断が示されず、主要な争点とは認識されていなかった。
- 本件遺留分減殺合意は平成23年10月13日、会社が孫2人への譲渡を承認したのは平成24年1月18日(追認は平成26年5月28日)で、別件訴訟の事実審の口頭弁論終結日(平成23年11月21日)との関係で、別件訴訟でこの主張をすることは必ずしも容易ではなかった。
遺言者の意図は、法律上の制約により実現できなかった
判決は、結論の部分で、遺言者である被相続人HRK氏の意図について、会社の経営権を組合関係者、長男KZO氏の相続人(長男の妻CHY氏及び孫MRN氏)及び二男TDK氏には譲らずに、幼い孫SYT氏に将来は経営権を譲ることを前提に、それまでの間は弁護士WTN氏に経営を管理させることにあったものと推認しました。そのうえで、次のとおり述べています。
「遺言者の意図は、遺言の解釈の枠内で、かつ法律上可能な範囲で、できるだけ実現されることが望ましい。」
しかし、判決は、会社の株式が譲渡制限株式であることから本件株式の遺贈や信託譲渡が制約を受けること、遺留分権利者である孫MRN氏が本件株式の上に相応の権利を有することを認めざるを得ないこと、孫SYT氏の親権者の親権を完全に排除することはできないこと(受益権の管理処分については親権者の権限行使を認めざるを得ないこと)などの事情を挙げ、次のとおり結論付けました。
「そうすると、本件においては、遺言者の意図の実現に障害となる法律上の制約があり、本件遺言の解釈の枠内においては、〔被相続人HRK氏〕の前記意図の実現には無理があったものというほかはない。」
以上により、判決は、弁護士WTN氏は本件株式について株主権を行使できないから、同氏の訴えのうち監査役選任決議に係るもの以外は不適法であるとしました。
本案①―孫2人を株主として扱ったことに瑕疵はない
控訴人らは、株券が孫2人に交付されていないことなどを理由に、孫2人を株主として扱ったことは違法であると主張しました。判決は、弁護士WTN氏が清算受託者としての義務の履行を怠っているために孫SYT氏が株券の給付を受けられず、本件遺留分減殺合意による孫2人への株式の分割帰属も完全には実現できない状態にあると指摘したうえで、次のとおり述べました。
「ところで、株式の譲渡の対抗要件を満たしていない株式譲受人を会社(〔不動産賃貸会社SNB〕)側から株主と認定して権利行使させることは、不可能ではない。」
判決は、会社が平成26年5月28日の取締役会で孫SYT氏への譲渡と孫2人への分割帰属を追認しており、弁護士WTN氏が義務を履行すれば、既に会社の譲渡承認を受けた孫2人が直ちに株券を取得して対抗要件を具備できることから、会社が孫2人を株主と認定して権利を行使させることは可能であり、この点に手続の瑕疵はないとしました。さらに、少なくとも、自らの義務懈怠により孫2人の権利取得を妨害している弁護士WTN氏と、共同歩調をとる取締役NKJ氏が孫2人の権利の欠缺を主張することは、権利の濫用であって許されないとしています。
本案②―自己株式について組合に招集通知を発したことに瑕疵はない
判決は、組合の株式は会社の自己株式であったのに、会社が事業協同組合UKMに招集通知をしたことについて、次のとおり述べました。
「株主でない者に株主総会招集通知を発することは、適切な行為であるとはいえないが、それだけで直ちに手続上の瑕疵を発生させるものではない。」
そして、事業協同組合UKMが、別件訴訟の確定判決の理由中で組合の株式が会社の自己株式と判断されたことを踏まえて欠席を事前に通告し、実際に欠席して議決権を行使しなかったことから、手続上の瑕疵はなく、少なくとも決議が法的に存在しないと評価すべきほどの大きな瑕疵は存在しないとしました。
本案③―孫MRN氏の2万3,950株を自己株式として扱ったことは瑕疵だが、不存在事由には当たらない
判決は、孫MRN氏が代物弁済として2万3,950株を会社に譲渡したことについて、本件株主総会の前に会社の株主総会や取締役会の決議(会社法156条、157条等)があったことの証明がなく、決議なしに自己株式を取得できる場合(会社法155条、会社法施行規則27条8号)に当たることの証明もないとしました。そのため、孫MRN氏が9万8,273株のほかに2万3,950株を有すると扱わなかったことは、手続上の瑕疵であるとしました。
しかし、判決は、次の点を考慮して、決議が法的に存在しないと評価すべきほどの大きな瑕疵であるとはいえないとしました。
- 招集通知自体は孫MRN氏に送付され、その代理人が出席して9万8,273株の議決権を正当に行使したこと
- 2万3,950株については、孫MRN氏自身が会社に譲渡した自己株式という認識を有しており、自発的に議決権を行使しなかった可能性が高いこと
- 議決権を行使したとしても、現実に行使した9万8,273株と同様に議案に賛成した可能性が非常に高く、決議の可否に影響を与えないこと
本案④―瑕疵は軽微であり、取消請求は裁量棄却
判決は、本件株主総会の時点で、発行済株式の総数48万株のうち、議決権のない自己株式が20万4,900株、残りの27万5,100株のうち欠席が6,400株、議決権を行使しなかったのが孫MRN氏の2万3,950株であり、出席した24万4,750株の全部が議案に賛成したと整理しました。そのうえで、次のとおり判断しました。
「そうすると、前記の手続上の瑕疵は、いずれも軽微であり、本件株主総会の審議や決議の内容に影響を与えたとはいえないから、会社法八三一条二項により裁量棄却すべきである。」
主文及び結論
判決の主文は、次のとおりです(判決本文の主文をそのまま引用したものです)。
「一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は一審原告らの負担とする。」
主文の「一審原告ら」は、控訴人である弁護士WTN氏及び取締役NKJ氏を指します。判決は、末尾で、控訴人らの控訴は理由がないから棄却するとしています。これにより、弁護士WTN氏の訴えのうち監査役選任決議以外の決議に係る部分を却下し、その余の請求と取締役NKJ氏の請求を棄却した第一審判決の結論が維持されました。
審級ごとの結論の推移
| 項目 | 第一審判決 | 控訴審判決(東京高等裁判所) |
|---|---|---|
| 弁護士WTN氏の訴えのうち、取締役選任決議及び2つの契約承認決議に係るもの | 却下 | 維持(株主権を行使できないから不適法) |
| 弁護士WTN氏の訴えのうち、監査役選任決議に係るもの | 請求棄却 | 維持(原告適格はあるが、不存在事由はなく、取消請求は裁量棄却) |
| 取締役NKJ氏の請求 | 請求全部棄却 | 維持(原告適格はあるが、不存在事由はなく、取消請求は裁量棄却) |
| 理由 | 控訴審の判決本文に記載がなく、分かりません | 控訴審が自ら理由を示した |
| 訴訟費用 | 控訴審の判決本文に記載がなく、分かりません | 控訴費用は控訴人らの負担 |
第一審の欄は、控訴審の判決本文に記載された範囲で作成しています。
判断の射程―参考となる点と一般化できない点
以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。
参考となる点
- 遺言で譲渡制限株式を遺しても、会社の承認がなければ移転が制約を受けること。判決は、相続などの一般承継と異なり、遺贈や遺言信託による譲渡制限株式の移転には会社の承認が必要であるとしました。本件では、受託者への譲渡が取締役会で否決されたことが、遺言信託が終了した理由の一つとされています。同族会社の株式を特定の相続人や孫に遺す遺言があっても、会社の承認の有無によって、遺言どおりに株式が移転するとは限らないことを示しています。
- 遺言執行者であることだけでは、株主権を行使できないこと。判決は、遺言執行者の権利義務は遺言の内容により定まるとし、遺言執行者の地位だけを根拠に遺産である株式の株主権を行使することはできないとしました。遺言執行者に指定された人が株主総会で議決権を行使しようとする場面で、遺言の文言がその権限を与えているかを確認する必要があることを示しています。
- 遺言信託に遺留分を主張する場合の相手方。判決は、遺言信託に対する遺留分減殺請求の意思表示は受託者に対して行うべきとしつつ、本件では、遺言執行者に宛てた通知を受託者に対する意思表示と評価しました。法律関係が難解であることから、遺留分権利者に細密な正確さを要求しない判断を示した点は、遺言の内容に納得できない相続人にとって参考になります。
- 遺留分の紛争を、株式を分け合う合意で解決できること。判決は、遺留分権利者と遺留分侵害者が当事者間の合意で遺留分の争いを解決できるとし、遺言信託の法律関係が未解明な状況で早期解決を選ぶ合理性を認めて、本件株式をほぼ半分ずつ取得する合意を有効としました。遺言の効力をめぐる争いが長引く場合に、当事者間の合意で解決する道があることを示しています。
- 未成年の受益者の親権者による受益権の放棄。判決は、親権者が受益権を放棄して信託を終了させたことについて、親権者の利益を図ったとみる余地が全くないわけではないとしつつ、信託の継続に合理性を認め難い状態にあったことなどから、代理権の濫用等を認めませんでした。遺言者が親権者の関与を排除しようとしても、親権を完全に排除することはできないと述べた点も含め、遺言で未成年の孫に株式を遺す場合の限界を示しています。
- 過去の裁判の理由中の判断は、次の裁判を拘束しないこと。判決は、別件訴訟の控訴審判決の理由中の判断を採用しないと明言し、既判力は判決主文に包含するものに限られるとしました。株式をめぐる紛争が何件もの訴訟に分かれて続く場合には、前の判決の理由を前提にできるとは限らないことに注意が必要です。
- 株主総会の手続上の瑕疵があっても、裁量棄却される場合があること。判決は、相続人の株式の一部を自己株式として扱った点を手続上の瑕疵と認めながら、決議への影響がないことなどから裁量棄却しました。株主総会の決議を争う場合には、瑕疵の有無だけでなく、決議の結果への影響まで検討する必要があります。
一般化できない点
- 遺言の解釈は、本件の遺言の文言と事情に基づくものです。判決は、遺言の文言、遺言作成当時の事情、遺言者の置かれていた対立関係などを総合して、本件の遺言を遺言信託と解しました。株式を「あげる」と書いた遺言が一般に遺言信託と解されるわけではありません。
- 遺留分の制度は、判決の後に改正されています。本件は遺留分減殺請求の制度の下での事案です。平成30年の民法改正(令和元年7月1日施行)により、遺留分は遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利とされています。現在の制度の下では、遺留分を主張する相続人が、遺留分の権利として当然に株式そのものを取得するとは考えられません。本件の合意のように株式を分け合う解決は、当事者間の合意によるものです。
- 民法1015条も改正されています。判決は、遺言執行者を相続人の代理人とみなす当時の規定を前提に、その意味を限定して解釈しました。現在の条文は改正されており、現在の事案では現行の条文を前提に検討する必要があります。
- 受託者と遺言執行者が同じ人物であった事案です。判決は、受託者と遺言執行者がいずれも弁護士WTN氏であることを前提に、遺言執行者として行うべき職務は受託者として自ら行えば足りるとしました。両者が別の人物である場合に同じ結論になるかは、本判決からは分かりません。
- 清算受託者の義務懈怠という個別の事情があります。株券の交付を受けていない孫2人を株主として扱ったことについて、判決は、弁護士WTN氏が清算受託者としての株券の給付を怠っていることを重視し、権利の濫用にも言及しています。株券の交付がない譲受人を株主として扱うことが一般に許されるとしたものではありません。
- 上訴の有無及び確定は確認できていません。判決本文からは、その後の上訴の有無及び確定は確認できていません。
株式の信託をめぐって、受託者の権限や信託の終了について争いが生じている方は、次のページを御覧ください。
よくあるご質問
遺言で同族会社の株式を孫に遺すと書かれていれば、孫はすぐに株主になれますか。
会社の株式が譲渡制限株式である場合は、そうとは限りません。本判決は、相続などの一般承継による株式の移転には会社の承認は不要であるが、遺贈や遺言信託による移転は一般承継ではないから会社の承認が必要であるとしました。本件では、受託者への譲渡を会社の取締役会が否決したことが、遺言信託が終了した理由の一つとされています。
遺言執行者に指定された弁護士は、相続した株式の議決権を行使できますか。
遺言執行者であることだけを根拠に行使することはできない、というのが本判決の判断です。判決は、遺言執行者の権利義務は遺言の内容により定まるとし、本件では、株主権の行使は遺言執行者ではなく受託者としての権限であるとしました。遺言執行者が議決権を行使しようとしている場合は、遺言の文言がどのような権限を与えているかを確認することが大切です。
遺言で株式を他の相続人に遺された場合、遺留分を主張できますか。
遺留分を有する相続人であれば、主張することができます。本件では、遺言で相続人から廃除するとされた孫MRN氏について廃除の申立てが却下され、孫MRN氏の遺留分減殺請求を前提に、本件株式をほぼ半分ずつ分け合う合意が有効とされました。ただし、現在の民法では、遺留分は遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利とされています。株式そのものを取得するには、当事者間の合意などが必要になると考えられます。
遺言で信託がされている場合、遺留分の請求は誰に対してすればよいのですか。
本判決は、遺言信託に対する遺留分減殺請求の意思表示は受託者に対して行うべきであるとしました。そのうえで、本件では、遺言執行者に宛てた通知が受託者に対する意思表示と評価されましたが、これは遺言執行者と受託者が同じ人物であったことなどを踏まえた判断です。遺言信託が含まれる遺言について遺留分を主張する場合は、受託者、受益者、受遺者など、相手方となり得る人に漏れなく意思表示をしておくことが安全です。
未成年の孫が受益者となっている信託を、親が終わらせることはできますか。
本件では、受益者である未成年の孫の親権者が受益権を放棄し、判決は、これにより信託は目的達成不能により終了したとしました。親権者の代理権の濫用であるとの主張は、信託の継続に合理性を認め難い状態にあったことなどから、証拠がないとして退けられています。もっとも、これは本件の事情の下での判断であり、親権者による受益権の放棄が常に有効とされるわけではありません。
株主総会の招集通知に誤りがあれば、決議は必ず取り消されますか。
必ず取り消されるとは限りません。本判決は、相続人の株式の一部を自己株式として扱った点を手続上の瑕疵と認めましたが、その相続人も他の株式で議決権を行使して賛成していたことなどから、瑕疵は軽微で決議に影響を与えたとはいえないとして、取消請求を裁量棄却しました。
関連する記事と御相談のご案内
同族会社の株式を含む遺産について遺言がある場合は、遺言の文言が遺贈、遺言信託その他のどれに当たるか、会社の株式が譲渡制限株式かどうかと会社の承認の有無、遺言執行者や受託者に与えられた権限、遺留分の主張の有無と相手方を整理したうえで、誰が株主権を行使できるのかを検討します。非上場株式の相続全般については非上場株式・自社株式の相続の総合案内で、株式の相続・遺産分割に関するその他の裁判例は株式相続・遺産分割の裁判例の解説記事一覧で御案内しています。
株式の相続・遺産分割に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所
03-6435-8418
受付時間 8:00~21:00(土日祝含む)
資料がすべてそろっていない段階でも御相談いただけます。御相談は事前予約制です。秘密は厳守します。
この記事の位置付け
同族会社の株式を孫に遺し、成人まで弁護士に信託して議決権を行使させるとした遺言をめぐり、遺留分を主張した相続人がいる場面で株主権を誰が行使できるかが争われた判例を、遺言信託の終了と遺言執行者の権限の観点から解説します。
非上場株式・自社株式の相続に関する当事務所の対応は、非上場株式・自社株式の相続の総合案内のページで御案内しています。
具体的な御相談をお考えの皆様へ
同族会社の株式について遺言や遺留分をめぐって相続人の間で意見が対立し、誰が株主権を行使するかが問題になっている場合の当事務所の取扱内容及び対応の進め方は、次のご案内をご覧ください。