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被相続人名義の特別口座に残った振替株式と、後に判明した株式の遺産分割協議の認定―神戸地方裁判所尼崎支部令和4年6月6日判決

公開 2022年6月6日更新 2022年6月6日

▶ 遺産分割トラブルの協議と調停の進め方

夫が亡くなってから25年以上がたち、亡くなった夫の名義のまま特別口座に記録されていた振替株式について、遺産分割でその株式を取得したとされる妻の子が、妻の権利を前提に、夫の相続人の一人の子(相続人の相続人)に対して、自分の口座への振替手続の申請をするよう求めた場面の判例です。神戸地方裁判所尼崎支部令和4年6月6日判決は、相続人全員が当初作成した遺産分割協議書にはこの株式の記載がなかったものの、その後に母がこの株式を取得するとの遺産分割協議が改めて行われたと認め、相手方に、4つの特別口座に記録された株式全部について、原告名義の口座を振替先口座とする振替手続の申請を命じました。

本記事では、判決本文に基づいて、株式の記載のある遺産分割協議書が証拠として提出されていないのに、なぜ再度の遺産分割協議の成立が認められたのか、相手方が主張した当時の相続人の病状がなぜ採用されなかったのか、そして判決がどのような形で名義の移転を命じたのかを整理します。遺産分割で取得したはずの株式が亡くなった方の名義のまま残っており、他の相続人やその相続人の協力が得られずに名義を移せないでいる相続人の方にとって、何を確認し、どのような手段を採り得るかを考える材料になる判決です。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 夫の遺産について、妻と夫の子らが遺産分割協議書を作成した
    2. その後、株式を亡HSK氏が取得する内容の相続税の修正申告書が提出された
    3. 株式は、被相続人の名義のまま特別口座に記録された
    4. 亡HSK氏も亡YSM氏も死亡し、亡HSK氏の子が亡YSM氏の子を訴えた
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 当事者の請求と主要な主張
    1. 原告NTK氏の請求
    2. 主要な主張の対比
  6. 結論を左右した争点
  7. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 裁判所が証拠により認定した事実
    2. 判断の枠組み―書面がなくても、間接事実から遺産分割協議の成立を認定する
  8. 第一審の判断
    1. 再度の遺産分割協議の成立を認めた
    2. 亡YSM氏の病状に関する被告KWS氏の供述を採用しなかった
    3. 振替手続の申請義務を認め、取得時効は判断しなかった
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 各主張の結論の一覧
    2. 書面がないことを理由とする主張を退けた理由
    3. 亡YSM氏の病状と他の相続人との対立の主張を退けた理由
  10. 主文及び結論
    1. 振替手続の申請を命じる判決の意味(当事務所による一般的な説明)
  11. 審級ごとの結論の推移
  12. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  13. よくあるご質問
    1. 遺産分割で親の株式を取得したのに、株式が亡くなった親の名義の特別口座に残ったままです。どうすれば自分の名義にできますか。
    2. 他の相続人(又は亡くなった相続人の子)が振替の手続に協力してくれません。どうすればよいですか。
    3. 遺産分割協議書を作った後で、協議書に載っていない株式が見つかりました。その株式はどうなりますか。
    4. 遺産分割協議書が見つからなくても、遺産分割協議が成立したと認めてもらえるのですか。
    5. 親は長年、その株式の配当金を受け取っていました。それだけで時効により株式を取得したといえますか。
    6. 相手方は、当時の相続人が病気で判断できる状態ではなかったから協議は無効だと言っています。
  14. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 神戸地方裁判所尼崎支部 令和4年6月6日 令和2年(ワ)第856号 判決 請求認容。被告に、4つの特別口座に記録された各株式について、原告名義の口座を振替先口座とする振替手続の申請を命じ、訴訟費用は被告の負担

この判決に対する控訴の有無、及び判決の確定については、確認できていません。判決本文には、上訴に関する記載はありません。また、判決本文には、この事件の別の審級の判決への言及もありません。この表は、判決本文の冒頭、主文及び理由の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決本文が用いた符号(アルファベット1文字の符号)も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文で伏せられている銘柄名、地名、税務署名は、本記事でも記載しません。

本記事の表記 立場
被相続人TMB氏 平成5年に死亡した方。本件で振替手続の対象となった株式(判決本文の「本件株式」)は、平成5年8月22日の時点でTMB氏の遺産に属しており、その後、TMB氏名義の特別口座に記録されました
亡HSK氏 被相続人TMB氏の妻で、TMB氏の相続人の一人。原告NTK氏の母です。平成31年に死亡しました
原告NTK氏 原告。亡HSK氏とその前夫(既に死亡)との間の子です。被相続人TMB氏の子ではありません
WTN氏、SKR氏 被相続人TMB氏の子で、TMB氏の相続人。判決本文では、この訴訟の「分離前相被告」とされています(弁論が分離される前は共同被告であったことを示す表記です)
亡YSM氏 被相続人TMB氏の子で、TMB氏の相続人の一人。令和元年に死亡しました。被告KWS氏の親です
被告KWS氏 被告。亡YSM氏の子で、亡HSK氏の共同相続人であった亡YSM氏の相続人として訴えられた方です。出生から平成9年4月頃まで、亡YSM氏と同居していました
亡NGT氏 昭和37年に死亡した方。WTN氏、SKR氏及び亡YSM氏は、被相続人TMB氏と亡NGT氏との間の子です。判決本文には、このほかに、TMB氏と亡NGT氏との間の子で昭和59年に死亡した方が1名記載されています
有限会社MNK 被相続人TMB氏とその親族が経営してきた同族会社です。判決本文からは業種は明らかではありません。亡YSM氏と被告KWS氏は、その経営に関与したことはありませんでした
口座管理機関JKA、JKB、JKC、JKD 被相続人TMB氏名義の特別口座が開設されていた4つの株式会社。判決の主文では、それぞれの会社に対する原告名義の口座が振替先口座とされています

相続税の申告書を作成した税理士は、判決本文の符号を用いず「税理士」と記載します。判決本文を引用する部分では、当事者等の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。引用部分の数字は、判決本文の表記のままとしています。

事案の概要

夫の遺産について、妻と夫の子らが遺産分割協議書を作成した

被相続人TMB氏は平成5年に死亡し、妻である亡HSK氏と、子であるWTN氏、亡YSM氏及びSKR氏が相続人となりました。4名は、平成6年3月20日、TMB氏の相続について遺産分割協議書(判決本文の「本件協議書」)を作成しました。判決本文によれば、本件協議書には、後に振替手続の対象となった株式の記載はありませんでした。

判決本文の認定によれば、本件協議書とそれに基づく相続税の申告書では、遺産は次のように分けられていました。

  • 相続人の中で唯一遠方(別の県)に住み、有限会社MNKの経営に関与していない亡YSM氏は、約1500万円と、きょうだいの中で最も高額の預金を取得し、有価証券と不動産は取得しない
  • WTN氏とSKR氏は、有限会社MNKの出資のうち500口と預金等を取得し、SKR氏はさらに土地を取得する
  • 亡HSK氏は、その余の有価証券、建物及び預金等を取得する

4名は、税理士が作成した相続税の申告書(判決本文の「本件修正前申告書」)に押印し、申告書は税務署に提出されました。この申告書では、取得財産の価額は、亡HSK氏が4838万3699円、WTN氏が2094万7136円、亡YSM氏が1521万5278円、SKR氏が8148万0468円とされていました。

その後、株式を亡HSK氏が取得する内容の相続税の修正申告書が提出された

判決本文によれば、本件修正前申告書が提出された後、WTN氏とSKR氏は、税理士が作成した相続税の修正申告書(判決本文の「本件修正申告書」)に押印し、これが税務署に提出されました。本件修正申告書は、次の内容でした。

  • ある銀行の株式ほか14銘柄の株式(価格804万1790円)を亡HSK氏が取得する
  • 有限会社MNKの出資について、1口当たりの単価を3万1935円から4万5153円に変更する
  • 取得財産の価額を、亡HSK氏6462万0649円、WTN氏2755万6136円、SKR氏8808万9468円とする

ただし、証拠として提出された本件修正申告書には、亡HSK氏と亡YSM氏の印影は表示されていませんでした。また、本件修正申告書の内容と整合する遺産分割協議書は、証拠として提出されていません。

株式は、被相続人の名義のまま特別口座に記録された

本件で振替手続の対象となった株式は、平成5年8月22日の時点でTMB氏の遺産に属しており、その後、社債、株式等の振替に関する法律第128条第1項所定の振替株式となり、TMB氏名義の特別口座に記録されました。判決の別紙の株式目録によれば、特別口座は4つの口座管理機関(口座管理機関JKA、JKB、JKC、JKD)に開設されており、記録されていた株式は合計18銘柄でした。

特別口座 銘柄数 株式数の合計(当事務所の集計)
口座管理機関JKAの特別口座 6銘柄 399株
口座管理機関JKBの特別口座 9銘柄 848株
口座管理機関JKCの特別口座 2銘柄 169株
口座管理機関JKDの特別口座 1銘柄 19株

株式目録の株主名はいずれもTMB氏とされています。各銘柄の名称は判決本文で伏せられています。なお、本件修正申告書に記載されたある銀行の株式ほか14銘柄(15銘柄)と、特別口座に記録された18銘柄との対応関係は、判決本文には記載がありません。

亡HSK氏も亡YSM氏も死亡し、亡HSK氏の子が亡YSM氏の子を訴えた

亡HSK氏は平成31年に、亡YSM氏は令和元年に、それぞれ死亡しました。令和2年3月17日、WTN氏とSKR氏は、原告NTK氏の代理人からの照会に対して、TMB氏の相続人全員の遺産分割協議により、亡HSK氏が本件株式を単独で取得したことを認める旨の回答書を作成しました。

原告NTK氏は、亡YSM氏の子である被告KWS氏に対し、TMB氏名義の特別口座に記録された株式について、主位的には亡HSK氏が遺産分割協議によって取得した、予備的には亡HSK氏が時効によって取得したと主張して、原告名義の口座への振替手続の申請を求めました。判決本文では、WTN氏とSKR氏は「分離前相被告」とされており、当初はWTN氏とSKR氏も被告とされていたものの、弁論が分離されたことがうかがわれます。分離後のWTN氏とSKR氏に対する訴訟の経過は、判決本文には記載がありません。

判決本文には、原告NTK氏が、亡HSK氏の権利をどのような形で承継したのか(亡HSK氏の相続人が原告NTK氏のほかにいるかどうか、亡HSK氏の遺産の分割の有無など)の記載はありません。また、被告KWS氏のほかに亡YSM氏の相続人がいるかどうかも、判決本文からは分かりません。

事案の経緯の時系列

時期 出来事(判決本文の記載による)
平成5年 被相続人TMB氏が死亡(判決本文では月日は伏せられています)。亡HSK氏、WTN氏、亡YSM氏及びSKR氏が相続人となる
平成5年8月22日 この時点で、本件株式はTMB氏の遺産に属していた(前提事実)
平成5年12月頃 亡YSM氏がくも膜下出血で倒れる(被告KWS氏の供述。裁判所は、これを裏付ける客観的証拠は提出されていないとしました)
平成6年3月20日 4名の相続人が、本件株式の記載のない遺産分割協議書(本件協議書)を作成。その後、本件修正前申告書に押印し、税務署に提出
平成6年6月20日まで 遅くともこの日までに、本件株式を亡HSK氏が取得するとの再度の遺産分割協議が行われた(原告NTK氏の主張)
本件修正前申告書の提出後 WTN氏とSKR氏が、ある銀行の株式ほか14銘柄の株式を亡HSK氏が取得する内容の本件修正申告書に押印し、税務署に提出(日付は判決本文に記載がありません)
平成9年4月頃まで 被告KWS氏が、出生時から亡YSM氏と同居
その後 本件株式が振替株式となり、TMB氏名義の特別口座に記録される(日付は判決本文に記載がありません)
平成31年 亡HSK氏が死亡
令和元年 亡YSM氏が死亡
令和2年3月17日 WTN氏とSKR氏が、原告NTK氏の代理人の照会に対し、相続人全員の遺産分割協議により亡HSK氏が本件株式を単独で取得したことを認める回答書を作成
令和2年 原告NTK氏が訴えを提起(事件番号による。提起の月日は判決本文に記載がありません)
令和3年3月8日 原告NTK氏が、口頭弁論期日において、本件株式について取得時効を援用する意思表示
令和4年6月6日 神戸地方裁判所尼崎支部が、請求を認容する判決

当事者の請求と主要な主張

原告NTK氏の請求

原告NTK氏は、被告KWS氏に対し、4つの特別口座に記録された本件株式のそれぞれについて、各口座管理機関に対する原告名義の口座を振替先口座とする振替手続の申請をするよう求めました。請求の根拠として、主位的には、亡HSK氏が遺産分割協議により本件株式を取得したこと、予備的には、亡HSK氏が時効により本件株式を取得したことを主張しました。

主要な主張の対比

争点 原告NTK氏の主張 被告KWS氏の主張
亡HSK氏が遺産分割協議により本件株式を取得したか 4名の相続人は、本件協議書の作成時点では本件株式の存在を失念していた。遅くとも平成6年6月20日までに、本件株式を亡HSK氏が取得するとの再度の遺産分割協議を行い、これを前提とする相続税の修正申告を行った。亡HSK氏は、本件株式の配当金の振込先を、TMB氏名義の口座から亡HSK氏名義の口座に変更した 再度の遺産分割について遺産分割協議書は作成されておらず、相続税の修正申告書に亡YSM氏の印鑑は押されておらず、TMB氏から亡HSK氏への名義書換えも行われていないから、亡YSM氏を含めた有効な遺産分割協議はされていない。本件協議書は、亡YSM氏がくも膜下出血による入院から退院した後、思考力が完全に回復していない状況で、SKR氏に急かされて署名押印したものである。亡YSM氏は、思考力の回復後、自分だけが1000万円と少しの現金で押印させられたと不満を述べ、WTN氏やSKR氏と揉めるようになっており、さらに遺産分割協議ができる状況ではなかった
取得時効の成否 亡HSK氏は、本件株式を相続したことを前提に相続税の修正申告を行って相続税を支払い、10年以上にわたり配当金の支払を受けるなど真実の株主であると信じて行動し、その間、他の相続人は何らの異議も述べなかった。最初の配当金を受けた日から10年を経過した時点で、時効により本件株式を取得した 有効な遺産分割協議がされていない以上、亡HSK氏が善意かつ平穏に株主権を行使した事実はない。名義書換えが未了で、株主総会の招集通知も送付されず、株主権を十全に行使できる状態ではないから、配当金の振込先口座の変更だけで株主権を行使したとはいえない

上の表は、判決本文に記載された当事者の主張を当事務所が要約したものであり、裁判所が認定した事実ではありません。

結論を左右した争点

判決本文は、争点を、①亡HSK氏が遺産分割協議により本件株式を取得したか、②取得時効が成立するか、の2つとしています。裁判所は①を肯定し、そのため②については判断していません。

①で問題となったのは、本件株式の記載のある遺産分割協議書が証拠として提出されておらず、相続税の修正申告書にも亡HSK氏と亡YSM氏の印影がないという状況で、本件協議書の作成後に、本件株式を亡HSK氏が取得するとの再度の遺産分割協議が行われたと認めることができるか、という事実認定の問題でした。被告KWS氏は、書面がないことに加えて、亡YSM氏の当時の病状と、他の相続人との対立を挙げて、再度の協議ができる状況ではなかったと主張しました。結論を分けたのは、書面以外の事情、すなわち、他の相続人の認識、当初の遺産分割の内容、相続人それぞれの立場から見て、再度の協議が自然な流れといえるかどうかでした。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

裁判所が証拠により認定した事実

判決は、前提事実に加えて、証拠により次の事実を認定しました(判決本文の要約です)。

  • 本件修正前申告書の提出後、WTN氏とSKR氏は、ある銀行の株式ほか14銘柄の株式(価格804万1790円)を亡HSK氏が取得し、有限会社MNKの出資の1口当たりの単価を変更し、亡HSK氏、WTN氏及びSKR氏の取得財産の価額を修正する内容の本件修正申告書に押印し、本件修正申告書は税務署に提出された
  • 証拠として提出されている本件修正申告書には、亡HSK氏と亡YSM氏の印影は表示されていない
  • 有限会社MNKは、TMB氏とその親族が経営してきた会社であり、亡YSM氏と被告KWS氏がその経営に関与したことはない
  • 本件協議書の作成時から本件修正申告書への押印時までの間、亡HSK氏、WTN氏及びSKR氏は同じ県に、亡YSM氏は別の県に住んでいた
  • 被告KWS氏は、出生から平成9年4月頃まで、亡YSM氏と同居していた
  • WTN氏とSKR氏は、令和2年3月17日、原告NTK氏の代理人からの照会に対し、TMB氏の相続人全員の遺産分割協議により亡HSK氏が本件株式を単独で取得したことを認める旨の回答書を作成した

判断の枠組み―書面がなくても、間接事実から遺産分割協議の成立を認定する

判決は、遺産分割協議の成立を認めるための一般的な基準を述べてはいません。判決が行ったのは、再度の遺産分割協議の存在を認めるべき事情と、それを疑わせる事情とを並べ、両者を比較したうえで協議の成立を認めるという事実認定です。判決本文の構造を整理すると、次のとおりです(当事務所の整理です)。

再度の遺産分割協議の存在を認めるべき事情 それを疑わせる事情(判決が「考慮しても」とした事情)
他の相続人であるWTN氏とSKR氏が、亡HSK氏が本件株式を単独で取得するとの遺産分割協議の存在を認識していること(回答書) 証拠として提出された本件修正申告書には、亡HSK氏と亡YSM氏の印影が表示されていないこと
当初の遺産分割では、遠方に住み有限会社MNKの経営に関与していない亡YSM氏は、きょうだいの中で最も高額の預金を取得する一方で有価証券と不動産は取得せず、有価証券は亡HSK氏が取得するとされていたこと 本件修正申告書の内容と整合する遺産分割協議書が証拠として提出されていないこと
そのため、後に判明した本件株式について、亡HSK氏だけが取得するとの遺産分割協議を改めて行うことは、ごく自然な流れであること 当時の税務署で、相続税の修正申告に当たり、全相続人による申告書への押印や、その裏付けとなる遺産分割協議書の提出が必要とされたかどうかが、証拠上はっきりしないこと

判決は、右の欄の事情を考慮しても、左の欄の事情からすれば、再度の遺産分割協議が行われたと認めるのが相当であるとしました。書面が提出されていないことや印影がないことは、協議の存在を否定する方向に働く事情として正面から取り上げられていますが、それだけで協議の存在が否定されたわけではありません。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断

本件では、判決本文から確認できる審級は、神戸地方裁判所尼崎支部の第一審判決だけです。以下では、この判決の判断を争点ごとに紹介します。

再度の遺産分割協議の成立を認めた

判決は、まず、WTN氏とSKR氏の回答書から、両名が、本件株式を亡HSK氏が単独で取得するとの遺産分割協議の存在を認識していると認めました。そのうえで、当初の遺産分割の内容と、亡YSM氏の立場(相続人の中で唯一遠方に住み、有限会社MNKの経営に関与していないこと)に着目して、次のように述べています(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「後に判明した本件株式について、〔亡HSK氏〕のみが取得するとの遺産分割協議を改めて行うことは、ごく自然な流れというべきである」

判決は、亡YSM氏が当初の遺産分割で、預金を取得する一方で有価証券と不動産を取得しないこととされ、その余の有価証券は亡HSK氏が取得するとされていたことを踏まえています。当初の分け方で有価証券を取得することとされていた亡HSK氏が、後から見つかった株式も取得するという内容は、当初の協議の分け方に沿ったものだと評価したものと読めます(この読み方は当事務所によるものです)。

そして、本件修正申告書に亡HSK氏と亡YSM氏の印影がないこと、本件修正申告書と整合する遺産分割協議書が提出されていないこと、当時の税務署で全相続人の押印や遺産分割協議書の提出が必要とされたかどうかが証拠上はっきりしないことを考慮しても、次のように認めるのが相当であるとしました(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「〔亡HSK氏〕、〔WTN氏〕、〔亡YSM氏〕及び〔SKR氏〕は、平成6年3月20日より後に、本件株式を〔亡HSK氏〕が取得するとの遺産分割協議を行い、これに基づき、〔亡HSK氏〕が本件株式を取得したと認めるのが相当である。」

判決は、再度の遺産分割協議が行われた日を特定していません。原告NTK氏は遅くとも平成6年6月20日までに協議が行われたと主張していましたが、判決は「平成6年3月20日より後に」協議が行われたと認めるにとどめています。

亡YSM氏の病状に関する被告KWS氏の供述を採用しなかった

被告KWS氏は、本件協議書に署名押印した当時の状況について、次の趣旨の供述をしました(判決本文の要約です)。

  • 亡YSM氏は平成5年12月頃にくも膜下出血で倒れ、平成6年3月頃に退院したが、まだ思考力が不完全な状態であったところ、SKR氏に急き立てられ、本件協議書に署名押印させられた。その後、徐々に正気になって、騙されたと言うようになった
  • SKR氏は、署名押印をした日の昼前後に亡YSM氏と被告KWS氏の自宅を訪れ、亡YSM氏は同じ日の夜に署名押印をし、SKR氏はその自宅に一泊して帰った
  • 被告KWS氏は、亡YSM氏の思考力が不完全な状態であることを認識したうえで、SKR氏が訪れる前に、亡YSM氏に対し、遺産分割についての判断は慎重にすべきであると注意したが、その後は特に口出しをしなかった

判決は、まず、客観的な裏付けがないことを指摘しました(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「本件協議書の署名押印の際、〔亡YSM氏〕がくも膜下出血による退院直後で思考力が不完全な状態であったことを裏付ける客観的証拠は提出されていない」

さらに判決は、被告KWS氏の供述する状況を前提とすると、被告KWS氏は、亡YSM氏が遺産分割という重要な事柄について十分な検討ができない精神状態にあることを容易に認識できたうえ、亡YSM氏と一緒に本件協議書の内容を検討する時間的余裕もあったのに、亡YSM氏にさしたるフォローをしなかったことになり、不自然といわざるを得ないとしました。そのうえで、「〔被告KWS氏〕の上記の供述は採用できない。」と判断しました。

判決は、被告KWS氏の供述を、客観的証拠の欠如と、供述内容そのものの不自然さという2つの面から退けています。供述によれば、被告KWS氏は署名押印の当日に同じ家にいて、亡YSM氏の状態も認識していたことになりますが、その供述内容自体が、供述の信用性を下げる方向に働いた点が特徴的です。

振替手続の申請義務を認め、取得時効は判断しなかった

以上から、判決は、次のとおり結論付けました(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「〔被告KWS氏〕は、本件株式につき、〔原告NTK氏〕名義の預金口座を振替先口座とする振替手続の申請義務を負う。」

そして、主位的な主張である遺産分割協議による取得が認められたため、「争点(2)は判断の必要がない。」として、予備的な主張である取得時効については判断しませんでした。なお、理由中のこの部分では「預金口座」と記載されていますが、主文では、各口座管理機関に対する「原告名義の口座」を振替先口座とする振替手続の申請が命じられています。

各主張を採用し又は排斥した理由

各主張の結論の一覧

主張 結論 理由の要点
本件協議書の作成後に、本件株式を亡HSK氏が取得するとの再度の遺産分割協議が行われた(原告NTK氏) 採用 他の相続人2名が協議の存在を認識していること、当初の遺産分割の内容と亡YSM氏の立場からすれば、後に判明した株式を亡HSK氏だけが取得する協議を改めて行うのはごく自然な流れであること
再度の遺産分割協議書がなく、修正申告書に亡YSM氏の印鑑がなく、名義書換えもされていないから、有効な協議はない(被告KWS氏) 排斥 印影がないこと、協議書が提出されていないこと、当時の税務署の取扱いがはっきりしないことを考慮しても、協議の成立を認めるのが相当
亡YSM氏は病気で思考力が回復しておらず、他の相続人と揉めていて、さらに協議できる状況ではなかった(被告KWS氏) 排斥 病状を裏付ける客観的証拠がなく、被告KWS氏の供述する状況を前提とすると、被告KWS氏がさしたるフォローをしなかったことになり不自然
亡HSK氏は時効により本件株式を取得した(原告NTK氏の予備的主張) 判断せず 主位的主張が認められたため、判断の必要がない

書面がないことを理由とする主張を退けた理由

被告KWS氏は、再度の遺産分割について協議書がないこと、修正申告書に亡YSM氏の印鑑が押されていないこと、TMB氏から亡HSK氏への名義書換えがされていないことを挙げて、有効な遺産分割協議はないと主張しました。判決は、これらのうち、修正申告書に印影がないことと、整合する協議書が提出されていないことを、協議の存在を疑わせる事情として明示的に取り上げたうえで、それでもなお協議の成立を認めました。

判決がその決め手としたのは、第1に、TMB氏の相続人4名のうちの2名(WTN氏とSKR氏)が、亡HSK氏が本件株式を単独で取得したことを認める回答書を作成していることです。第2に、当初の遺産分割の内容と、亡YSM氏の立場からみて、後から見つかった株式を亡HSK氏だけが取得するとの協議を改めて行うことが、ごく自然な流れといえることです。判決は、修正申告の際に全相続人の押印や協議書の提出が必要とされたかどうかは証拠上はっきりしないとして、修正申告書に亡HSK氏や亡YSM氏の印影がないことを、協議がなかったことを示す決定的な事情とはみませんでした。

なお、被告KWS氏が挙げた名義書換えがされていないという点について、判決本文には、これに対する個別の判断の記載はありません。

亡YSM氏の病状と他の相続人との対立の主張を退けた理由

被告KWS氏は、亡YSM氏が本件協議書に署名押印した当時、くも膜下出血による退院直後で思考力が完全に回復しておらず、その後は他の相続人と揉めていたことから、さらに遺産分割協議ができる状況ではなかったと主張しました。判決は、病状を裏付ける客観的証拠が提出されていないことと、被告KWS氏の供述内容の不自然さを理由に、被告KWS氏の供述を採用しませんでした。

判決本文で直接判断の対象とされているのは、本件協議書に署名押印した際の状況に関する供述です。亡YSM氏が後に不満を述べて他の相続人と言い争っていたという主張について、判決本文には、これに対する個別の判断の記載はありません。判決は、その主張を踏まえても、前記の事情から再度の遺産分割協議の成立を認めるのが相当と判断したものと読めます(この読み方は当事務所によるものです)。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

1 被告は、別紙1株式目録記載1の各株式につき、〔口座管理機関JKA〕に対する原告名義の口座を振替先口座とする振替手続の申請をせよ。

2 被告は、別紙1株式目録記載2の各株式につき、〔口座管理機関JKB〕に対する原告名義の口座を振替先口座とする振替手続の申請をせよ。

3 被告は、別紙1株式目録記載3の各株式につき、〔口座管理機関JKC〕に対する原告名義の口座を振替先口座とする振替手続の申請をせよ。

4 被告は、別紙1株式目録記載4の株式につき、〔口座管理機関JKD〕に対する原告名義の口座を振替先口座とする振替手続の申請をせよ。

5 訴訟費用は被告の負担とする。

「被告」は被告KWS氏を、「原告」は原告NTK氏を指します。判決は、末尾で「よって、〔原告NTK氏〕の請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。」と述べています。原告NTK氏の請求は全部認められました。

主文は、4つの特別口座ごとに、その特別口座が開設されている口座管理機関に対する原告名義の口座を振替先口座として指定しています。特別口座に記録された株式の名義を移すには、特別口座のある口座管理機関ごとに手続が必要になることが、主文の形からも分かります。

振替手続の申請を命じる判決の意味(当事務所による一般的な説明)

以下は、判決本文に記載されたものではなく、当事務所による一般的な説明です。上場会社の株式は、株券を発行しない振替株式として、口座管理機関の口座の記録によって管理されています。株主の名義のまま証券会社等の口座に移されなかった株式は、発行会社が口座管理機関に開設した特別口座に、元の株主の名義で記録されています。特別口座の株式を相続人の口座に移すには、口座管理機関に振替の申請をする必要があり、口座管理機関の多くは、相続人全員の同意書や遺産分割協議書など、その相続人が株式を取得したことを示す書類の提出を求めています。

本件のように、他の相続人やその相続人が申請に協力しない場合には、その者を相手に、振替手続の申請を命じる判決を求めることが考えられます。振替手続の申請のような意思表示を命じる判決が確定すると、一般に、その意思表示をしたものとみなされると解されています(民事執行法第177条第1項)。本判決も、被告KWS氏に「振替手続の申請をせよ」と命じる形式をとっています。

審級ごとの結論の推移

項目 第一審判決(神戸地方裁判所尼崎支部令和4年6月6日) 上訴審
再度の遺産分割協議による亡HSK氏の株式取得 肯定 確認できていません
取得時効 判断せず 確認できていません
振替手続の申請請求(4つの特別口座) 全部認容 確認できていません
訴訟費用 被告の負担 確認できていません

判決本文には上訴に関する記載がなく、控訴の有無及び判決の確定は確認できていません。本記事は、第一審判決の判断を前提としています。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 遺産分割協議書に記載のない株式でも、後に改めて行われた遺産分割協議の成立が認められることがあること。本判決は、当初の遺産分割協議書に記載がなく、整合する協議書も提出されていない株式について、他の相続人の認識や当初の遺産分割の内容から、再度の遺産分割協議が行われたと認めました。協議書が見当たらないことだけで、直ちにその株式が未分割のままであると決まるわけではないことを示す例です。
  • 他の相続人の回答書が、協議の存在を認める重要な事情となったこと。本判決は、TMB氏の相続人のうちの2名が、照会に対して、亡HSK氏が本件株式を単独で取得したことを認める回答書を作成していることを、協議の存在の認定の出発点としました。協議書が残っていない場合に、協議に加わった他の相続人に当時の協議の内容を確認し、書面で回答を得ておくことの意味を示しています。
  • 当初の遺産分割の分け方との整合性が、後の協議の存在を推認させる事情となり得ること。本判決は、当初の遺産分割で有価証券を取得することとされていた亡HSK氏が、後に判明した株式も取得するという内容が「ごく自然な流れ」であるとしました。後から見つかった遺産の帰属が争われる場合には、当初の遺産分割協議書や相続税の申告書に表れた分け方の考え方を確認する意味があります。
  • 相続人の相続人に対して、振替手続の申請を求めることができた例であること。本件では、協議に加わった相続人の一人が既に死亡していたため、その子を相手として振替手続の申請を求め、それが認められました。遺産分割から長い年月がたち、関係者が亡くなった後でも、名義を移すための手段が残されていることを示す例です。
  • 病状を理由に協議の効力を争う主張には、客観的な裏付けが求められたこと。本判決は、署名押印した当時の思考力の低下を裏付ける客観的証拠が提出されていないことを、供述を採用しない理由の一つとしました。

一般化できない点

  • 本判決は、個別の事実関係に基づく事実認定の判断であり、遺産分割協議の成立を認めるための一般的な基準を示したものではありません。本件では、他の相続人2名の回答書があり、当初の遺産分割の内容と後の協議の内容が整合し、相続税の修正申告書も提出されていました。これらの事情がない場合に、同じ結論になるとは限りません。
  • 本件は、当初の遺産分割協議書の内容を変更する合意が問題となった事案ではなく、当初の協議書に記載のない株式について改めて協議が行われたかどうかが問題となった事案です。既に協議書で分け方が決まっている財産について、後に口頭で分け方を変えたと主張する場面に、本判決の判断がそのまま当てはまるとは限りません。
  • 本判決は、予備的に主張された取得時効について判断していません。配当金の受領や修正申告での相続税の支払などの事情が、株式の取得時効の成立にどのように評価されるかは、本判決からは分かりません。
  • 判決本文には、原告NTK氏が亡HSK氏の権利をどのような形で承継したのか、被告KWS氏のほかに亡YSM氏の相続人がいるかどうか、分離されたWTN氏とSKR氏に対する訴訟がどのように終わったのかの記載がありません。誰を相手にどのような請求をすべきかは、相続関係によって異なります。
  • 本件の株式は振替株式(上場会社等の株式)であり、株主名簿の名義書換えを会社に求める非上場株式の場合とは、名義を移す手続が異なります。
  • 本件の遺産分割協議は平成6年に行われたものであり、その後の民法の改正(遺産の一部分割の規定の整備など)が適用される事案ではありません。
  • 判決に対する控訴の有無、及び判決の確定は、確認できていません。

よくあるご質問

遺産分割で親の株式を取得したのに、株式が亡くなった親の名義の特別口座に残ったままです。どうすれば自分の名義にできますか。

特別口座に記録された株式を自分の口座に移すには、特別口座のある口座管理機関に振替の申請をする必要があります。一般に、口座管理機関は、相続人全員の同意書や遺産分割協議書など、その相続人が株式を取得したことを示す書類の提出を求めます(この説明は当事務所によるものです)。本件のように、特別口座が複数の口座管理機関に分かれている場合には、口座管理機関ごとに手続が必要になります。本判決の主文も、4つの特別口座ごとに、それぞれの口座管理機関に対する原告名義の口座を振替先口座として、振替手続の申請を命じています。

他の相続人(又は亡くなった相続人の子)が振替の手続に協力してくれません。どうすればよいですか。

本件では、遺産分割協議に加わった相続人の一人が亡くなっていたため、その子を相手として、振替手続の申請を命じる判決を求める訴えが提起され、その請求が全部認められました。協力しない方を相手に、遺産分割協議によって株式を取得したことを主張・立証して、振替手続の申請を命じる判決を求めることが考えられます。振替手続の申請のような意思表示を命じる判決が確定すると、一般に、その意思表示をしたものとみなされると解されています(民事執行法第177条第1項。この説明は当事務所によるものです)。

遺産分割協議書を作った後で、協議書に載っていない株式が見つかりました。その株式はどうなりますか。

本件では、当初の遺産分割協議書に記載のなかった株式について、その後、相続人全員で、母がその株式を取得するとの遺産分割協議を改めて行ったと認められました。判決は、当初の分け方からすれば、後に判明した株式を母だけが取得するとの協議を改めて行うことは「ごく自然な流れ」であるとしています。もっとも、本件では、その再度の協議の内容を記載した協議書が証拠として提出されず、協議の存在が訴訟で争われました。後から見つかった遺産について相続人全員で分け方を決めた場合には、その内容を遺産分割協議書として書面にし、全員が署名押印しておくことが、後の争いを避けるために重要です(この説明は当事務所によるものです)。

遺産分割協議書が見つからなくても、遺産分割協議が成立したと認めてもらえるのですか。

本判決は、株式についての協議書が証拠として提出されていなかったにもかかわらず、他の相続人2名が協議の存在を認める回答書を作成していたことや、当初の遺産分割の内容からみて自然な流れであることなどから、協議の成立を認めました。協議書がない場合でも、他の相続人の認識、相続税の申告書や修正申告書の内容、配当金の受取口座の変更など、協議の存在をうかがわせる事情を集めて立証することが考えられます。ただし、どの程度の事情があれば協議の成立が認められるかは、事案ごとの判断になります(この説明は当事務所によるものです)。

親は長年、その株式の配当金を受け取っていました。それだけで時効により株式を取得したといえますか。

本件の原告は、予備的に、母が10年以上にわたり配当金の支払を受けるなど真実の株主であると信じて行動していたとして、取得時効を主張しました。これに対して被告は、名義書換えが未了で株主総会の招集通知も送付されておらず、配当金の振込先口座の変更だけで株主権を行使したとはいえないと反論しました。しかし、本判決は、遺産分割協議による取得を認めたため、取得時効については判断していません。配当金の受領が株式の取得時効の要件との関係でどのように評価されるかは、本判決からは分かりません。

相手方は、当時の相続人が病気で判断できる状態ではなかったから協議は無効だと言っています。

本件でも、被告は、協議書に署名押印した当時、被告の親である相続人(既に死亡)がくも膜下出血による退院直後で思考力が完全に回復していなかったと主張しました。判決は、その状態を裏付ける客観的証拠が提出されていないことと、被告自身の供述によれば、被告は親の状態を認識しながら協議書の内容を一緒に検討する時間的余裕があったのに、さしたるフォローをしなかったことになって不自然であることを理由に、被告の供述を採用しませんでした。当時の判断能力を争う側には、診断書や入院記録など、客観的な裏付けが求められることになります(この説明は当事務所によるものです)。

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