弁護士法人M&A総合法律事務所株式相続トラブル110番
HOME / 判例 / 同族会社の株式の遺産分割と後継予定者の単独取得―東京高等裁判所平成26年3月20日決定

同族会社の株式の遺産分割と後継予定者の単独取得―東京高等裁判所平成26年3月20日決定

公開 2014年3月20日更新 2026年10月30日

▶ 非上場株式・自社株式の相続の総合案内

亡くなった方が同族会社の株式を持っていた場合に、その株式を相続人の間でどう分けるかが争われた判例です。会社の後継者に予定されている相続人は株式をまとめて取得したいと考え、経営に関わってこなかった相続人は法定相続分の割合での株式の取得を求めました。東京高等裁判所平成26年3月20日決定は、遺産分割の審判に対する抗告事件で、株式を相続人5人に法定相続分の割合で分けた原審の審判を変更し、株式の全部を次期社長に就任する予定の相続人に取得させたうえで、その相続人に、他の相続人4人への代償金の支払を命じました。

本記事では、決定が、同族会社の株式の分散を避けることを民法906条の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」として考慮した理由と、代償金の額の計算方法を、決定本文に沿って整理します。株式をまとめて取得したい相続人にも、株式の代わりに代償金を受け取ることになる相続人にも、遺産分割の進め方を考えるうえで参考になる決定です。

目次
  1. 裁判例の基本情報
    1. 審級ごとの裁判
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要―祖母の遺産を、孫3人と娘2人で分ける遺産分割
    1. 長男が先に亡くなっていたため、孫3人が相続人となった
    2. 遺産は土地の共有持分、現金、預貯金及び同族会社の株式
    3. 建築付随工事会社GKNは、創業者の親族が代々経営してきた同族会社
    4. 原審は、株式を相続人5人に分けて取得させた
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった法令
    1. 民法906条―遺産の分割の基準
    2. 決定が参照したその他の法令
  6. 当事者の主張
    1. 抗告人ら(孫3人)の求めた分割の内容
    2. 抗告人らの主な主張
    3. 相手方両名(長女及び二女)の反論
  7. 結論を左右した争点
  8. 原審の判断
  9. 抗告審の判断
    1. 原審判を引用しつつ、株式の部分を変更した
    2. 原審判に加えた補正の内容
  10. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 認定された事実
    2. 同族会社であり、株主の分散を避けることが望ましい
    3. 民法906条の考慮事情に当たる
    4. 株主構成、次期社長の予定、代償金の支払能力から、単独取得が相当
  11. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 抗告人らの主張―株式の分散防止の要請は採用された
    2. 相手方両名の主張―被相続人の委任状は承継の意思を示すものではない
  12. 代償金の計算
  13. 主文及び結論
  14. 審級ごとの結論の推移
  15. 判断の射程―参考となる点と一般化できない点
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  16. よくあるご質問
    1. 同族会社の株式は、法定相続分どおりに分けてもらえないのですか。
    2. 会社の経営に関わってこなかった相続人は、株式を取得できないのですか。
    3. 株式を取得しない場合、代償金の額はどのように決まりますか。
    4. 後継予定の相続人が株式全部の取得を求めるには、何を示す必要がありますか。
    5. 亡くなった親が株式を託す趣旨の書面を残していた場合は、考慮されますか。
    6. 遺産分割の審判に不服がある場合、抗告審はどのような判断をするのですか。
  17. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京高等裁判所第14民事部
裁判日 平成26年3月20日
事件番号 平成26年(ラ)第278号
裁判の形式 決定
事件の種類 遺産分割の審判に対する即時抗告の事件
審級 抗告審(原審は家庭裁判所の遺産分割の審判)
結論 原審判を変更。同族会社の株式の全部を後継予定の抗告人に取得させ、その抗告人に他の相続人4人への代償金の支払を命じた。手続費用は原審及び当審とも各自の負担
上訴の状況 決定本文からは、その後の不服申立ての有無及び確定は確認できていません

この表は、決定本文の冒頭及び主文の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

審級ごとの裁判

審級 裁判所・裁判日・事件番号 裁判の形式 結論
原審 家庭裁判所。裁判所名、審判日及び事件番号は決定本文に記載がなく、確認できていません 審判 株式を相続人5人に分割取得させ、孫3人に、長女及び二女への代償金の支払を命じた
抗告審 東京高等裁判所平成26年3月20日、平成26年(ラ)第278号 決定 原審判を変更し、株式の全部を後継予定の孫に取得させ、同人に代償金の支払を命じた

原審の審判の本文は確認していません。本記事では、原審の審判の内容を、抗告審の決定本文(決定に添付された即時抗告申立書及び反論書を含みます)に記載された範囲でのみ説明し、それ以上を推測で補っていません。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。本件は判決ではなく決定ですが、決定本文に出てくる会社名・氏名や、決定本文が用いた符号も、そのままでは使わずに次の表記へ置き換えています。

本記事の表記 立場
被相続人MTK氏 平成24年に死亡した被相続人。建築付随工事会社GKNの創業者の長女で、2代目社長の妻。GKNの株式5万8,450株を保有していました
長男HRS氏 被相続人の長男で、GKNの3代目社長。平成22年に、被相続人より先に死亡しました
孫AKT氏 長男HRS氏と現社長KMY氏の長男。GKNの次期社長に就任する予定とされた相続人です。遺産分割の申立人の一人で、抗告人
孫BNK氏 長男HRS氏の子。遺産分割の申立人の一人で、抗告人
孫CRS氏 長男HRS氏の子。遺産分割の申立人の一人で、抗告人
長女DKM氏 被相続人の長女。遺産分割の相手方
二女EMR氏 被相続人の二女。遺産分割の相手方
建築付随工事会社GKN 板金工事その他建築に付随する工事の請負施工等を目的とする株式会社。決定が「典型的な同族会社」と認めた会社です
現社長KMY氏 長男HRS氏の妻。HRS氏の死亡後、GKNの社長を務めています
創業者IWT氏 GKNを設立した初代社長。被相続人の父
2代目社長JNS氏 被相続人の夫
株主NOR氏 創業者IWT氏と後妻との間の三男。GKNの株主
株主PYS氏 創業者IWT氏の子。GKNの株主

決定本文は、孫3人を「抗告人ら」、長女及び二女を「相手方両名」と呼んでいます。本記事でもこの呼称を用います。決定本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

事案の概要―祖母の遺産を、孫3人と娘2人で分ける遺産分割

長男が先に亡くなっていたため、孫3人が相続人となった

被相続人MTK氏は、平成24年に死亡しました。被相続人の長男HRS氏は、それより前の平成22年に死亡しています。HRS氏の子である孫AKT氏、孫BNK氏及び孫CRS氏(抗告人ら)が、被相続人の長女DKM氏及び二女EMR氏(相手方両名)を相手方として、被相続人の遺産の分割を申し立てました。

決定本文は代襲相続という語を用いていませんが、長男が被相続人より先に死亡したため、その子である孫3人が長男に代わって相続人になった事案と理解されます(当事務所の理解です)。決定が前提とした法定相続分額も、長女と二女がそれぞれ遺産総額の3分の1、孫3人が残りの3分の1をさらに3等分した額となっています。

遺産は土地の共有持分、現金、預貯金及び同族会社の株式

決定が引用した原審判の認定によれば、被相続人の遺産は次のとおりです。

  • 土地3筆の共有持分(いずれも各10分の6)
  • 現金
  • 預貯金債権(合計137万6,780円)
  • 建築付随工事会社GKNの株式5万8,450株(決定は「本件株式」と呼んでいます)

預貯金債権について、原審は、遺産として分割の対象とすることに当事者全員の合意があるとして、分割の対象に含めています。預貯金債権の遺産分割での扱いは、決定の後に判例の変更や法改正により変わっていますので、現在の事案では、この点を当時と同じように考えることはできません。

遺産総額は4,124万9,670円です(決定が原審判に加えた補正による)。決定の代償金の計算では、土地3筆の共有持分各10分の2が合計431万8,480円、本件株式5万8,450株が1,291万7,450円とされています。株式の評価額がどのような方法で算定されたかは、決定本文には記載がありません。なお、1,291万7,450円を5万8,450株で割ると1株当たり221円になりますが、これは当事務所の計算であり、決定本文に1株当たりの価額の記載はありません。

建築付随工事会社GKNは、創業者の親族が代々経営してきた同族会社

決定が認定した事実によれば、建築付随工事会社GKNは、被相続人の父である創業者IWT氏が設立した会社です。その後、被相続人の夫である2代目社長JNS氏が社長となり、その長男であるHRS氏が3代目社長を承継しましたが、HRS氏が平成22年に死亡したため、現在はHRS氏の妻である現社長KMY氏が社長を務めています。孫AKT氏は、HRS氏とKMY氏の長男で、GKNの次期社長に就任する予定とされています。

GKNの会社としての概要は、決定の認定によれば次のとおりです。

事業 天窓工事、板金工事、硝子工事その他建築に付随する工事の請負施工等
資本金の額 3,000万円
発行済株式の総数 60万株
従業員数 6名
年商 約1億2,700万円
その他の収入 所有不動産の賃貸により年間約4,500万円の賃料収入があり、これにより安定経営が確保されている
株式の譲渡制限 非公開会社であり、株式を譲渡により取得するには会社の承認を要するとする譲渡制限を設けている

平成23年の時点のGKNの株主は10名で、主な株主の保有株式数は次のとおりでした。割合の欄は、発行済株式の総数60万株を分母として当事務所が計算したもので、決定本文には記載がありません。

株主 保有株式数 割合(当事務所の計算)
株主NOR氏(創業者IWT氏の三男) 24万6,600株 約41.1%
現社長KMY氏 16万4,500株 約27.4%
被相続人MTK氏 5万8,450株 約9.7%
株主PYS氏(創業者IWT氏の子) 4万9,450株 約8.2%
その余の株主6名 各5,000株ないし3万株 ―

遺産分割の対象となったのは、このうち被相続人が保有していた5万8,450株です。

原審は、株式を相続人5人に分けて取得させた

決定本文によれば、原審判は、遺産を次のとおり分割しました。

  • 土地3筆の共有持分は、抗告人ら3人が持分各5分の1の割合で共有取得
  • 現金のうち768万8,390円は長女DKM氏、631万1,610円は二女EMR氏の取得
  • 預貯金はいずれも二女EMR氏の取得
  • 本件株式5万8,450株は、抗告人ら3人がそれぞれ6,494株、相手方両名がそれぞれ1万9,484株を取得
  • 抗告人らに対し、相手方両名に代償金としてそれぞれ58万5,179円を支払うよう命じる

本件株式の分け方は、長女と二女が各3分の1、孫3人が各9分の1という法定相続分の割合に沿ったものです(6,494株の3倍と1万9,484株の2倍の合計は5万8,450株になります。当事務所の計算です)。

原審判がこの分け方を選んだ理由について、決定本文に添付された抗告人らの即時抗告申立書は、次のように説明しています。これは抗告人らの側からみた原審判の説明であり、原審判の本文そのものではない点に注意が必要です。

  • 原審判は、本件株式を全部抗告人らに取得させるべき事情は認められないとし、相手方両名が希望するとおり、法定相続分に応じて各相続人に取得させることが相当であるとした。
  • 原審判は、遺産分割によって取得した株式に基づいて会社に対してどのように権利行使しようと自由であり、権利行使の内容いかんによって取得の是非を判断するのは相当でないとし、抗告人らが提出したGKNの従業員らの陳述書に記載された事情は考慮すべきではないとした。

事案の経緯の時系列

時期 出来事(決定本文の記載による)
(時期の記載なし) 創業者IWT氏がGKNを設立。その後、2代目社長JNS氏、3代目社長HRS氏が経営を承継
平成22年 3代目社長HRS氏が死亡。その後、現社長KMY氏が社長に就任(就任の時期は決定本文に記載がありません)
平成22年頃以降 相手方両名の反論書によれば、現社長KMY氏が被相続人に対し、会社の株式を売ってほしいと幾度も要請し、被相続人はその都度断っていた(相手方両名の主張であり、決定はこの事実を認定していません)
平成23年 GKNの株主は10名。被相続人は5万8,450株を保有
平成24年 被相続人MTK氏が死亡
(時期の記載なし) 抗告人ら3人が、相手方両名を相手方として遺産分割を申立て
(時期の記載なし) 原審判。本件株式を5人に分割取得させ、抗告人らに代償金の支払を命じる
(時期の記載なし) 抗告人らが即時抗告。抗告審で、孫AKT氏が自己名義の残高1,250万1,000円の預金通帳を提出
平成26年3月20日 東京高等裁判所が原審判を変更する決定

決定本文では、死亡日や生年月日の月日が伏せられています。本記事では年だけを記載しています。

判断の前提となった法令

本件で中心となったのは、遺産分割の基準を定める民法906条です。以下は法令の条文であり、決定本文の引用ではありません。

民法906条―遺産の分割の基準

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

決定は、このうち「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」と「その他一切の事情」に、同族会社の株式の分散を避けるべき事情が当たると判断しました。

決定が参照したその他の法令

決定は、株式の分散を避けることが望ましいという考え方が法令に表れている例として、次の2つを挙げています(いずれも決定本文の説明の要約です)。

  • 会社法174条:株式会社は、その譲渡制限株式を取得した者に対して、自社に当該株式を売り渡すことを請求できる旨を定款で定めることができる。
  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(決定は4条1項1号、8条1項、9条1項を挙げています):旧代表者の推定相続人のうち一人が後継者である場合に、推定相続人全員の合意により、書面で、後継者が旧代表者から贈与等により取得した株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことを合意し、家庭裁判所の許可を受けたときは、その株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない。

会社法174条について、決定本文は譲渡制限株式を取得した者と述べるにとどまっていますが、同条は相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者を対象とする規定です。また、決定が挙げた法律の条文や遺留分に関する民法の規定は、決定の後に改正されています。現在の事案では、現行の条文で確認する必要があります。

当事者の主張

抗告人ら(孫3人)の求めた分割の内容

抗告人らは、原審判の取消しと、審判に代わる裁判を求めました。求めた分割の内容は、土地、現金及び預貯金については原審判と同じとしたうえで、本件株式は全部を孫AKT氏が取得し、孫AKT氏が相手方両名に対して各606万1,501円の代償金を支払うというものでした。

抗告人らの主な主張

決定は、抗告人らの主張を次のようにまとめています。

「〔GKN〕のような同族会社の株式を遺産分割するに際しては、その経営基盤を損なわないよう、株式の分散を防止するという社会経済的な要請を考慮すべきであり、経営と資本の一致を図るため、将来、〔GKN〕の代表取締役に就任する予定の抗告人〔AKT氏〕が本件株式の全部を取得すべきである一方、相手方両名は〔GKN〕の経営に関心がなく、しかも、本件株式は無配株であるから、これを取得しなくても相手方両名に経済的な損失は発生せず、抗告人〔AKT氏〕は相手方両名に対して合計一二一二万円余りの代償金を支払う用意がある」

決定に添付された即時抗告申立書によれば、抗告人らの主張の要点は次のとおりです。

  • 原審判は抗告人らの主張を誤認している。抗告人らは、本件株式を孫3人で取得すべきだとは主張していない。将来代表者に就任すると目される孫AKT氏が取得すべきだと主張したものである。孫CRS氏はGKNの従業員ではなく、GKNとは関わりがない。
  • 従業員の陳述書を提出した趣旨。取得した株主の権利行使の内容によって取得の是非を論じることが失当であることには異論はない。陳述書は、相続を契機に株式が分散することで会社の安定した経営に支障が生じることに従業員が危機感を抱いていることなどを示すために提出した。
  • 株式の分散の防止は国を挙げての課題である。中小企業の円滑な事業承継は国の緊急の課題であり、非公開会社の安定した経営には経営と資本の一致が不可欠である。会社法174条や、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の遺留分に関する民法の特例は、その表れである。
  • 民法906条により、この要請を重視すべきである。孫AKT氏は先代社長の長男で、将来は代表取締役に就任する予定である。他方、相手方両名はいずれも専業主婦で、これまでGKNに関与していない。本件株式は無配株であり、取得しなくても経済的損失は生じない。孫AKT氏は代償金として合計1,212万3,002円の支払を申し入れている。相手方両名は株式を親の形見として保有したいと述べているにすぎず、形式的に法定相続分で株式を分割取得させることは不合理である。

相手方両名(長女及び二女)の反論

決定に添付された相手方両名の反論書によれば、相手方両名の主張の要点は次のとおりです。

  • 原審判のとおりで納得している。GKNの株式の相続は、それぞれ3分の1の法定相続分でお願いしたい。孫AKT氏が株式を全部相続する根拠はない。
  • 孫AKT氏を次期社長の予定者とした前提で株式全部の取得を主張するのはおかしい。本件は個人の相続の問題で、会社とは関係がない。
  • 母である被相続人から、生前、自分の身の振り方を頼まれていた。長男HRS氏の死亡後、平成22年頃から、現社長KMY氏から幾度も会社の株式を売ってほしいとの要請があったが、被相続人は会社のワンマン経営化への不安からその都度断っていた。被相続人の委任状は、株式を相手方両名に受け継がせる趣旨を含め、現金1,000万円とともに託されたものである。
  • 孫AKT氏が提出した預金の1,250万円は、振込人が現社長KMY氏であり、実質的には現社長KMY氏が株式全部を取得することにほかならない。この資金の出所を裁判所で確認してほしい。
  • 相手方両名が専業主婦で会社に関与しておらず、会社の経営に全く関心がないとする抗告人らの主張は事実無根である。

以上は、いずれも当事者の主張であり、裁判所が認定した事実ではありません。裁判所がどの主張をどのように扱ったかは、後の節(各主張を採用し又は排斥した理由)で整理します。

結論を左右した争点

決定本文の判断の構成からみると、結論を左右した争点は次の3点です(争点の整理は当事務所によるものです)。

  • 同族会社の株式の分散を避ける要請を、遺産分割で考慮することができるか。民法906条の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に当たるかが問題となりました。
  • 本件株式を誰に取得させるか。原審判のように法定相続分の割合で5人に分けるか、抗告人らが求めるように後継予定の孫AKT氏に全部を取得させるかが問題となりました。被相続人が株式を相手方両名に受け継がせる意思を有していたかも、この中で争われました。
  • 単独取得とする場合の代償金の額。孫AKT氏が法定相続分額を超えて遺産を取得することになるため、他の相続人に支払う代償金の額と、その支払能力が問題となりました。

原審の判断

原審判の本文は確認していません。決定本文から分かる原審の判断は、次の範囲にとどまります。

  • 預貯金債権を遺産として分割の対象とすることに当事者全員の合意があるとして、土地の共有持分、現金、預貯金債権及び本件株式を遺産と認めた。
  • 土地の共有持分は抗告人ら3人の共有取得とし、現金は相手方両名、預貯金は二女EMR氏の取得とした。
  • 本件株式は、抗告人ら3人がそれぞれ6,494株、相手方両名がそれぞれ1万9,484株を取得するものとした。
  • 抗告人らに対し、相手方両名に代償金としてそれぞれ58万5,179円を支払うよう命じた。

原審判が本件株式を5人に分けた理由は、抗告人らの即時抗告申立書の説明によれば、本件株式の全部を抗告人らに取得させるべき事情は認められず、相手方両名の希望どおり法定相続分に応じて取得させるのが相当であるというものでした。また、決定が原審判に加えた補正からは、原審判が法定相続分額を、相手方両名は各1,374万9,891円、孫3人は各458万3,296円と記載していたことが分かります(補正の対象とされた記載と補正後の計算から当事務所が読み取ったものです)。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

抗告審の判断

原審判を引用しつつ、株式の部分を変更した

決定は、冒頭で次のとおり結論を示しました。

「当裁判所は、原審判と異なり、本件株式の全部を抗告人〔AKT氏〕の取得とした上、抗告人〔AKT氏〕に代償金の支払を命ずるのが相当であり、これを前提に被相続人の遺産を分割すべきものと判断する。」

そのうえで、決定は、原審判の「理由」の二ないし四の説示を引用し、これに11項目の補正を加えています。つまり、遺産の範囲や土地・現金・預貯金の分け方については原審判の判断を維持し、本件株式の取得者と代償金の部分を変更したものです。

原審判に加えた補正の内容

補正の項目 内容
補正(1)及び(3) 当事者や株式の呼称の整理(実質的な判断の変更ではありません)
補正(2) 預貯金債権の合計額(137万6,780円)を加える
補正(4) 孫AKT氏の法定相続分額458万3,296円について、遺産総額4,124万9,670円の3分の1が1,374万9,890円、さらにその3分の1が458万3,296.66円となるが、孫AKT氏は希望に沿って本件株式を取得することを考慮して円未満を切り捨て、孫BNK氏及び孫CRS氏は円未満を切り上げる旨の説明を加える
補正(5) 孫BNK氏及び孫CRS氏の法定相続分額を458万3,296円から458万3,297円に、相手方両名の法定相続分額を1,374万9,891円から1,374万9,890円に改める
補正(6)から(8) 土地の共有持分は抗告人らの共有取得、本件株式は全部を孫AKT氏の取得とする記載に改める。土地の持分の表記を持分5分の1から持分10分の2に改める(割合は同じです)
補正(9) 本件株式についての判断部分を全面的に差し替え、GKNの沿革・規模・株主構成等の事実を認定したうえで、本件株式を全部孫AKT氏に取得させるのが相当とする判断を示す(次の節で説明します)
補正(10) 原審判の一部(5頁12行目冒頭から15行目の「そして、」まで)を削る。削られた部分の内容は、決定本文からは分かりません
補正(11) 代償金の支払の部分を差し替え、孫AKT氏が他の4人に支払う代償金を計算し直す

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

認定された事実

決定は、一件記録により、次の事実を認定しました(以下は決定本文の認定事実の要約です)。

  • GKNは、創業者IWT氏が設立し、その後、被相続人の夫である2代目社長JNS氏、その長男であるHRS氏が社長を承継した。HRS氏が平成22年に死亡したため、現在はHRS氏の妻である現社長KMY氏が社長を務めている。孫AKT氏は、HRS氏とKMY氏の長男であり、GKNの次期社長に就任する予定である。
  • GKNは、資本金3,000万円、発行済株式総数60万株、従業員6名、年商約1億2,700万円の会社で、所有不動産の賃貸による年間約4,500万円の賃料収入により安定経営が確保されている。非公開会社で、株式の譲渡制限を設けている。
  • 被相続人は、創業者IWT氏と前妻との間の長女である。平成23年の時点でGKNの株主は10名で、株主NOR氏が24万6,600株、現社長KMY氏が16万4,500株、被相続人が5万8,450株、株主PYS氏が4万9,450株、その余の6名が5,000株ないし3万株を保有していた。
  • 孫AKT氏は、本件株式の単独取得を希望し、抗告審において、自己名義の残高1,250万1,000円の預金通帳を提出している。

同族会社であり、株主の分散を避けることが望ましい

決定は、まず、GKNの性格について次のとおり判断しました。

「上記認定の事実によれば、〔GKN〕は、初代社長の〔IWT氏〕及びその親族がこれまで経営に当たってきたものであり、また、その大半の株式を〔IWT氏〕の親族が保有しているという典型的な同族会社であり、その経営規模からすれば、経営の安定のためには、株主の分散を避けることが望ましいということができる。」

決定は、このことが、会社法174条と、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の遺留分の算定に関する合意の規定に表れているとしました。

民法906条の考慮事情に当たる

そのうえで、決定は、これらの規定の趣旨を次のとおり述べ、株式の分散を避けるべき事情を、遺産分割の際に考慮すべき事情と位置付けました。

「これらの規定は、中小企業の代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に悪影響を及ぼすことを懸念して立法されたものであり、そのような事情は、民法九〇六条所定の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に当たるというべきであるから、本件においても、これを考慮して遺産を分割するのが相当である。」

株主構成、次期社長の予定、代償金の支払能力から、単独取得が相当

決定は、具体的な事情を当てはめて、本件株式の全部を孫AKT氏に取得させるのが相当であると判断しました。

「そして、上記認定の〔GKN〕の株主構成や、抗告人〔AKT氏〕が〔GKN〕の次期社長に就任する予定であり、残高一二五〇万一〇〇〇円の預金通帳を提出して代償金の支払能力のあることが認められることなどに鑑みると、本件株式は、全部これを抗告人〔AKT氏〕に取得させるのが相当である。」

決定が挙げた事情は、GKNの株主構成、孫AKT氏が次期社長に就任する予定であること、預金通帳の提出により代償金の支払能力が認められることの3点です。決定は、これらに「など」を付けており、事情を限定列挙したものではありません。

各主張を採用し又は排斥した理由

抗告人らの主張―株式の分散防止の要請は採用された

決定は、同族会社の株式を遺産分割するに際しては株式の分散を防止するという要請を考慮すべきであるという抗告人らの主張の骨格を、民法906条の解釈として採用しました。ただし、決定が理由として挙げたのは、上記の株主構成、次期社長の予定及び代償金の支払能力であり、抗告人らが主張した次の点は、決定の理由には現れていません。

  • 本件株式が無配株であり、取得しなくても相手方両名に経済的損失が生じないこと
  • GKNの従業員らが株式の分散に危機感を抱いていること(従業員の陳述書)
  • 相手方両名が専業主婦であり、株式を親の形見として保有したいと述べていること

決定がこれらの点をどのように評価したかは、決定本文からは分かりません。決定がこれらの点を理由として採用したと読むことはできない点に注意が必要です(当事務所の評価です)。

相手方両名の主張―被相続人の委任状は承継の意思を示すものではない

相手方両名は、被相続人は相手方両名に本件株式を受け継がせる意思であったと主張して、被相続人作成名義の委任状を提出しました。決定は、この委任状について次のとおり判断しました。

「しかし、同委任状には、「二人に委任します」とのみ記載されており、株主総会等の際に、その議決権の行使を相手方両名に委任したものと推認されるのであって、本件株式を相手方両名に受け継がせることまでうかがわせるものではないから、これをもって、被相続人が相手方両名に本件株式を受け継がせる意思であったと認めることはできないというべきである。」

さらに、決定は、相手方両名と会社の経営との関係について、次のとおり述べました。

「しかも、相手方両名はこれまで〔GKN〕の経営に関与したことはなかったのであって、今後、新たに〔GKN〕の経営に関与するのが相当でもないから、上記のとおり、被相続人が保有していた本件株式は、抗告人〔AKT氏〕に取得させるのが相当である。したがって、いずれにしても、相手方両名の主張を採用することはできない。」

決定は、委任状が承継の意思を示すものではないことに加え、相手方両名がこれまで経営に関与したことがなく、今後新たに関与するのが相当でもないことを挙げて、相手方両名の主張を退けました。

なお、相手方両名は、孫AKT氏が提出した預金の資金は現社長KMY氏が振り込んだものであり、実質的には現社長KMY氏が株式を取得するものだと主張していました。決定本文には、この主張について個別に判断した記載は見当たりません。決定は、預金通帳の提出をもって、孫AKT氏に代償金の支払能力があると認めています。

代償金の計算

決定は、補正(11)で、各相続人が取得する遺産の額と法定相続分額を比べ、代償金を次のとおり計算しました。

相続人 取得する遺産 取得額 法定相続分額 代償金
孫AKT氏 土地の共有持分10分の2及び本件株式の全部 1,723万5,930円(431万8,480円+1,291万7,450円) 458万3,296円 他の4人に合計1,265万2,634円を支払う(当事務所の合計)
孫BNK氏 土地の共有持分10分の2 431万8,480円 458万3,297円 26万4,817円を受け取る
孫CRS氏 土地の共有持分10分の2 431万8,480円 458万3,297円 26万4,817円を受け取る
長女DKM氏 現金768万8,390円 768万8,390円 1,374万9,890円 606万1,500円を受け取る
二女EMR氏 現金631万1,610円及び預貯金137万6,780円 768万8,390円 1,374万9,890円 606万1,500円を受け取る

決定は、孫AKT氏だけが法定相続分額を超えて遺産を取得するため、孫AKT氏が、相手方両名に対してはそれぞれ606万1,500円(1,374万9,890円-768万8,390円)を、孫BNK氏及び孫CRS氏に対してはそれぞれ26万4,817円(458万3,297円-431万8,480円)を支払うべきであるとしました。代償金の合計額1,265万2,634円は、606万1,500円の2人分と26万4,817円の2人分を当事務所が合計したもので、決定本文に合計額の記載はありません。

この計算により、代償金の支払後に各相続人が得る額は、それぞれの法定相続分額と一致します。孫AKT氏も、取得額1,723万5,930円から代償金を差し引くと458万3,296円となります(当事務所の計算です)。

抗告人らは、即時抗告申立書で、孫AKT氏が相手方両名に各606万1,501円を支払うという分割を求めていました。決定は、法定相続分額の端数処理を改めたうえで、相手方両名への代償金を各606万1,500円とし、さらに、抗告人らが求めていなかった孫BNK氏及び孫CRS氏への代償金各26万4,817円の支払も命じています。孫BNK氏及び孫CRS氏は、原審判では本件株式の一部を取得するものとされていましたが、決定では株式を取得せず、その分を代償金で受け取ることになりました。

主文及び結論

決定の主文は、次のとおりです(決定本文の主文を、当事者の表記を置き換え、数字を算用数字に改めて記載したものです)。

  • 原審判を変更する。
  • 土地3筆の各共有持分は、いずれも抗告人らの持分各10分の2の割合による共有取得とする。
  • 現金のうち、768万8,390円を長女DKM氏の、631万1,610円を二女EMR氏の、それぞれ取得とする。
  • 各預貯金(合計137万6,780円)は、いずれも二女EMR氏の取得とする。
  • GKNの株式は、全部、孫AKT氏の取得とする。
  • 孫AKT氏は、上記株式取得の代償として、長女DKM氏及び二女EMR氏に対し、それぞれ606万1,500円を、孫BNK氏及び孫CRS氏に対し、それぞれ26万4,817円を、本決定確定の日から1か月以内に支払え。
  • 手続費用は、原審及び当審とも各自の負担とする。

決定は、末尾で次のとおり結んでいます。

「よって、上記と異なる原審判は相当ではないから、本件株式の全部を抗告人〔AKT氏〕の取得とし、抗告人〔AKT氏〕に上記の代償金の支払を命ずる限度で原審判を変更することとして、主文のとおり決定する。」

抗告人らは原審判の取消しを求めていましたが、決定は、原審判を取り消して家庭裁判所に差し戻すのではなく、原審判を変更して、抗告審が自ら遺産の分割の内容を定めました。

審級ごとの結論の推移

項目 原審(家庭裁判所の審判) 抗告審(東京高等裁判所の決定)
土地の共有持分 抗告人ら3人が持分各5分の1の割合で共有取得 維持(表記を持分各10分の2に改める)
現金 長女DKM氏768万8,390円、二女EMR氏631万1,610円 維持
預貯金 二女EMR氏の取得 維持(合計137万6,780円と明記)
本件株式5万8,450株 孫3人が各6,494株、長女及び二女が各1万9,484株 変更。全部を孫AKT氏の取得とする
代償金 抗告人らが相手方両名にそれぞれ58万5,179円 変更。孫AKT氏が長女及び二女に各606万1,500円、孫BNK氏及び孫CRS氏に各26万4,817円
法定相続分額 相手方両名は各1,374万9,891円、孫3人は各458万3,296円 補正。相手方両名は各1,374万9,890円、孫AKT氏は458万3,296円、孫BNK氏及び孫CRS氏は各458万3,297円
手続費用 決定本文からは分かりません 原審及び当審とも各自の負担

原審の欄は、決定本文に記載された範囲で作成しています。原審の手続費用の定めは決定本文に記載がないため、その旨を記載しています。

判断の射程―参考となる点と一般化できない点

以下は、決定の内容を踏まえた当事務所の評価です。決定が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 同族会社の株式の分散を避ける要請が、民法906条の考慮事情になると明示されたこと。決定は、会社法174条と中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の規定を手掛かりに、中小企業の経営の承継が事業活動の継続に悪影響を及ぼすことへの懸念を、遺産分割で考慮すべき事情に当たるとしました。同族会社の株式を含む遺産の分割で、株式をどの相続人に取得させるかを考える際の一つの考え方を示すものです。
  • 単独取得の判断で、具体的な事情が重視されていること。決定が挙げたのは、典型的な同族会社であること、経営規模、株主構成、取得を希望する相続人が次期社長に就任する予定であること、代償金の支払能力が預金通帳で示されていること、他の相続人がこれまで経営に関与していないことでした。株式をまとめて取得したい相続人の立場からは、これらの事情を具体的な資料で示すことが重要になると考えられます。
  • 代償金の支払能力を、資料で具体的に示していること。孫AKT氏は、抗告審で残高1,250万1,000円の預金通帳を提出し、決定はこれによって支払能力を認めました。株式を単独で取得する代わりに代償金を支払う分割を求める場合、支払能力の裏付けを示すことが判断の前提の一つとなったものです。
  • 株式を取得しない相続人は、代償金で法定相続分額を受け取る構成になっていること。決定の計算では、各相続人が最終的に得る額は法定相続分額と一致しています。株式を現物で取得できない相続人にとっては、株式の評価額が代償金の額を左右します。本件では株式の評価額は1,291万7,450円とされていますが、その算定方法は決定本文に記載がありません。株式の代わりに代償金を受け取る立場の相続人にとっては、株式がどのように評価されるかが重要な関心事になると考えられます。
  • 被相続人の意思を示すとされる書面の評価。相手方両名が提出した委任状は、「二人に委任します」とだけ記載されたものであり、決定は、株主総会等の議決権の行使を委任したものと推認されるとして、株式を受け継がせる意思を示すものとは認めませんでした。被相続人の意思を主張する場合には、書面の文言がどこまでその意思を示しているかが問われます。
  • 同じ事実関係でも、原審と抗告審で判断が分かれたこと。原審は法定相続分の割合で株式を分け、抗告審は後継予定者の単独取得としました。株式の分け方についての判断が、審級によって変わり得ることを示しています。

一般化できない点

  • 後継者が単独で取得できるとの一般原則を示したものではありません。決定は、本件の株主構成、次期社長の予定、代償金の支払能力などの事情に鑑みて単独取得を相当としたものです。後継者が定まっていない場合や、代償金の支払能力が示されない場合に、同じ結論になるとは限りません。
  • 被相続人の株式は、発行済株式の総数の1割弱でした。本件株式は5万8,450株で、発行済株式の総数60万株に対する割合は約9.7%です(当事務所の計算)。会社の過半数の株式の帰属が争われた事案ではありません。
  • 株式の評価についての判断は示されていません。決定本文には、本件株式の評価額の算定方法や、評価についての当事者の主張の記載はありません。株式の評価方法が争われる事案では、本決定から結論を導くことはできません。
  • 抗告人らの主張のすべてが採用されたわけではありません。無配株であることや従業員の陳述書は、決定の理由には現れていません。また、相手方両名が主張した預金の資金の出所についても、決定本文には個別の判断の記載が見当たりません。
  • 決定当時の法令を前提としています。預貯金債権は当事者全員の合意により分割の対象とされていますが、預貯金債権の扱いはその後変わっています。また、決定が挙げた中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の条文や、遺留分に関する民法の規定も、その後改正されています。
  • 確定の有無は確認できていません。決定本文からは、その後の不服申立ての有無及び確定は確認できていません。

同族会社の株式を後継者に集めるか、相続人で分けるかをめぐって争いが生じている方は、次のページを御覧ください。

よくあるご質問

同族会社の株式は、法定相続分どおりに分けてもらえないのですか。

必ず法定相続分の割合で株式そのものを分けるとは限りません。本決定は、同族会社の株式の分散を避けることが望ましいという事情を、民法906条の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に当たるとし、株式の全部を後継予定の相続人に取得させました。ただし、その場合でも、株式を取得しない相続人には代償金が支払われ、法定相続分額に相当する価値は確保される計算になっています。

会社の経営に関わってこなかった相続人は、株式を取得できないのですか。

本決定では、長女及び二女が法定相続分の割合での株式の取得を希望していましたが、これまで経営に関与したことがなく、今後新たに関与するのが相当でもないことなどから、株式は後継予定の相続人の取得とされ、長女及び二女には代償金が支払われることになりました。もっとも、これは本件の株主構成や後継予定者の存在、代償金の支払能力などを踏まえた判断です。経営に関わっていない相続人が一律に株式を取得できないというものではありません。

株式を取得しない場合、代償金の額はどのように決まりますか。

本決定では、遺産総額4,124万9,670円から各相続人の法定相続分額を求め、各相続人が取得する遺産の額との差額を代償金としました。株式の評価額が大きければ代償金も大きくなるため、株式を取得しない相続人にとっては、株式の評価額が重要になります。本決定では株式の評価方法は示されていません。株式の評価に疑問がある場合は、評価の根拠を確認することが大切です。

後継予定の相続人が株式全部の取得を求めるには、何を示す必要がありますか。

本決定が考慮したのは、会社が典型的な同族会社であること、その経営規模、株主構成、取得を希望する相続人が次期社長に就任する予定であること、代償金の支払能力が預金通帳で示されていることなどでした。特に、代償金の支払能力は、抗告審で預金通帳を提出して示されています。単独取得を求める場合には、代償金を支払えることを具体的な資料で示すことが重要になると考えられます。

亡くなった親が株式を託す趣旨の書面を残していた場合は、考慮されますか。

書面の文言によります。本決定では、「二人に委任します」とだけ記載された委任状について、株主総会等の議決権の行使を委任したものと推認されるとし、株式を受け継がせる意思を示すものとは認めませんでした。被相続人の意思を主張する場合には、その書面が何を委ねたものかが文言から読み取れるかが問われます。

遺産分割の審判に不服がある場合、抗告審はどのような判断をするのですか。

本件では、抗告人らが原審判に即時抗告し、東京高等裁判所は、原審判の理由の大部分を引用しつつ、株式の取得者と代償金の部分を変更して、自ら遺産の分割の内容を定めました。土地、現金及び預貯金の分け方は原審判と同じで、株式と代償金だけが変わっています。

関連する記事と御相談のご案内

同族会社の株式を含む遺産の分割では、株式を誰が取得するか、取得しない相続人に支払われる代償金がいくらになるか、その前提となる株式の評価がどうなるかが、相互に関係します。会社の株主構成、後継者の予定、各相続人の会社との関わり、代償金の支払能力を示す資料を整理したうえで、協議や調停の進め方を検討します。遺産分割の協議と調停の進め方は遺産分割トラブルの協議と調停の進め方で、相続した株式が相続税評価額で低く評価されて遺産分割に困っている場合の考え方は相続した株式の評価と遺産分割の御相談で御案内しています。株式の相続・遺産分割に関するその他の裁判例は株式相続・遺産分割の裁判例の解説記事一覧にまとめています。

株式の相続・遺産分割に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所
03-6435-8418
受付時間 8:00~21:00(土日祝含む)

資料がすべてそろっていない段階でも御相談いただけます。御相談は事前予約制です。秘密は厳守します。

この記事の位置付け

同族会社の株式を含む遺産の分割で、後継予定の相続人と経営に関わってこなかった相続人の取得の希望が対立した場面の判例を、株式の分散の防止と代償金の観点から解説します。

非上場株式・自社株式の相続に関する当事務所の対応は、非上場株式・自社株式の相続の総合案内のページで御案内しています。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

同族会社の株式を含む遺産の分割で、株式の取得や代償金をめぐって相続人の間で意見が対立している場合の当事務所の取扱内容及び対応の進め方は、次のご案内をご覧ください。

株式の相続・遺産分割のトラブルに関する御相談

03-6435-8418受付 8:00〜21:00(土日祝含む)相談申込LINE
相続・事業承継のご相談03-6435-8418受付 8:00〜21:00(土日祝含む)相談申込LINE