社長が動けない間に役員が選任されていた場合の対応

父が入院し、意識のない状態が続いておりました。その間に株主総会が開かれたことになっており、新しい取締役が選任され、登記もされております。株主である私には、招集の通知は届いておりません。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。役員は、株主総会の決議によって選任しなければならないものとされております(会社法第329条第1項)。したがって、株主総会が現実に開催されていないのであれば、決議は存在しないものとして、決議の不存在の確認の訴え(会社法第830条第1項)を検討いたします。開催はされたものの、一部の株主に招集の通知が発せられていない等の瑕疵がある場合には、決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項)となりますが、決議の日から3か月という提訴の期間の制限がございます。本記事では、この局面における確認の順序と手段を整理いたします。

目次

第1節 役員の選任に必要な手続

1 株主総会の決議によります

役員(取締役、会計参与及び監査役)は、株主総会の決議によって選任するものとされております(会社法第329条第1項)。取締役会の決議によって取締役を選任することはできません。

役員の選任の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行わなければならないものとされております(会社法第341条)。

2 招集の手続

株主総会は、原則として取締役が招集いたします(会社法第296条第3項)。取締役会設置会社においては、招集する株主総会の日時及び場所、目的である事項等を取締役会の決議によって定めなければならないものとされております(会社法第298条第1項及び第4項)。

株主総会を招集するには、原則として、株主に対して招集の通知を発しなければならないものとされております(会社法第299条第1項)。公開会社でない会社においては、株主総会の日の1週間前までに発することとされております(同項)。

3 代表取締役が動けない場合

代表取締役が意識を失う等により職務を執行することができない状態にある場合、取締役会設置会社においては、取締役会の決議により招集の手続を進めることが考えられます。もっとも、取締役会の招集及び決議にも手続がございますので、これを欠く場合には、株主総会の招集の手続にも瑕疵があることになります。

第2節 まず事実を確定いたします

1 登記の確認

履歴事項全部証明書により、役員の変更の登記がいつされたかを確認いたします。役員の変更の登記は、変更が生じたときから2週間以内にしなければならないものとされておりますので(会社法第915条第1項)、登記の日から決議の日をおおむね推認することができます。

2 議事録の閲覧謄写の請求

株主総会の議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければならないものとされております(会社法第318条第2項)。株主及び債権者は、その閲覧又は謄写を請求することができます(同条第4項)。取締役会の議事録については、株主は、その権利を行使するため必要があるときに、閲覧又は謄写の請求をすることができるものとされております(会社法第371条第2項)。監査役設置会社等においては、裁判所の許可を得ることが必要でございます(同条第3項)。

3 社長の状態を示す資料

決議があったとされる日における社長の状態を示す資料を確保いたします。入院の記録、診療の記録、介護の記録、面会の記録等でございます。議事録に社長が出席し、又は議長を務めた旨の記載があるにもかかわらず、その日に意識のない状態であったことが示されれば、議事録の記載が事実に反することになります。

4 招集の通知の有無

株主として招集の通知を受け取っていない場合、その事実を明らかにいたします。郵便物の受領の状況、転居の届出、会社が把握していた住所等を整理いたします。

第3節 いかなる手段によるか

状況 手段 期間の制限 根拠条文
株主総会が現実に開催されていない 決議の不存在の確認の訴え ありません 会社法第830条第1項
招集の通知を欠く等の手続の瑕疵がある 決議の取消しの訴え 決議の日から3か月 会社法第831条第1項
選任された役員に不正の行為等がある 役員の解任の訴え 解任の議案が否決された日から30日 会社法第854条第1項
訴訟の間の財産の保全 職務の執行の停止及び職務代行者の選任の仮処分 民事保全法第23条第2項

いずれの手段によるかは、事実関係により定まります。決議の日から3か月を経過している場合であっても、決議が現実に存在しないといえるのであれば、決議の不存在の確認の訴えによる余地がございます。

第4節 役員が欠けている状態への対応

役員が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなった場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができるものとされております(会社法第346条第2項)。決議の不存在が確認された結果、役員が存在しない状態となる場合には、この申立てを検討いたします。

また、社長の判断能力が失われたまま回復の見込みがない場合には、成年後見等の制度の利用を検討することがございます。もっとも、成年後見人が選任されても、その者が当然に会社の経営を行うものではございません。会社の機関の問題と、個人の財産の管理の問題とは、別に整理する必要がございます。

第5節 会社の側から想定される説明と、これに対する反論の枠組み

この類型では、会社の側から一定の説明が示されることが多うございます。あらかじめ想定し、それぞれについて確認すべき資料を把握しておくことが有効でございます。

会社の側から想定される説明 反論の枠組み 確認すべき資料
株主の全員の同意がございましたので、招集の手続を省略いたしました 招集の手続の省略は、株主の全員の同意があることを要します(会社法第300条)。同意していない株主が1名でもあれば、省略は認められません 同意を示すとされる書面、株主名簿
社長からは事前に了解を得ておりました 株主総会の決議は、招集及び議決権の行使という手続を経てされるものでございます。事前の了解があったとしても、これに代わるものではございません 了解を示すとされる書面、その作成の日付
社長の議決権は、他の者が代理して行使いたしました 代理人による議決権の行使には、代理権を証する書面の提出を要します(会社法第310条第1項)。判断能力が失われた後に作成された委任状につきましては、その効力が問題となります 委任状、その作成の日付、当時の診断書
社長は出席しており、異議も述べておりません 出席したとされる日と、その時点の心身の状態とを対比いたします。現に出席し得る状態であったかを、客観的な記録により確認いたします 診療の記録、看護の記録、入所施設の記録
登記も済んでおり、取引先にも新しい役員として紹介しております 登記は権利関係を公示するものでございまして、決議の効力を作り出すものではございません。登記がされていることは、決議に瑕疵がないことの根拠とはなりません 履歴事項全部証明書、登記の申請に用いられた書類

よくあるご質問

質問1 決議の日から3か月を過ぎています。

決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。他方、決議の不存在の確認の訴えには提訴の期間の制限がございません(会社法第830条第1項)。株主総会が現実に開催されていないといえるかを検討いたします。

質問2 議事録には父が議長を務めたと書かれています。

その日における社長の状態を示す資料(入院の記録、診療の記録、面会の記録等)が重要でございます。医療に関する記録の開示については、医療機関ごとに手続が定められております。

質問3 新しい取締役が会社の財産を処分しようとしています。

取締役の職務の執行を停止し、職務代行者を選任する仮処分の申立てを検討いたします(民事保全法第23条第2項)。この仮処分がされたときは、その旨の登記がされるものとされております(会社法第917条)。

質問4 取締役会の議事録も見たいのですが。

株主は、その権利を行使するため必要があるときに、取締役会の議事録の閲覧又は謄写の請求をすることができます(会社法第371条第2項)。監査役設置会社等においては、裁判所の許可が必要でございます(同条第3項)。

質問5 招集の通知を受け取っておりませんが、議事録には出席したと記載されております。

議事録の記載と現実の出席とが異なる場合には、記載の正確性そのものが争点となります。当日の所在を示す資料、例えば診療の記録、介護の記録、交通機関の利用の記録等をお集めいただくことが有効でございます。

質問6 選任された役員を辞めさせることはできますか。

株主総会の決議により解任することが考えられます。もっとも、そのためには株主総会を開催し得る状態にあることが前提となります。決議の効力を争う手続によるべきか、解任の手続によるべきかは、議決権の分布により異なりますので、個別にご検討いただく必要がございます。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第296条第3項(株主総会の招集)
  • 第298条第1項・第4項(招集の決定)
  • 第299条第1項(招集の通知)
  • 第318条第2項・第4項(株主総会の議事録)
  • 第329条第1項(役員の選任)
  • 第341条(役員の選任の決議の要件)
  • 第346条第2項(一時役員の職務を行うべき者の選任)
  • 第371条第2項・第3項(取締役会の議事録)
  • 第830条第1項(決議の不存在の確認の訴え)
  • 第831条第1項(決議の取消しの訴え)
  • 第854条第1項(役員の解任の訴え)
  • 第915条第1項(変更の登記)
  • 第917条(職務の執行の停止等の登記)

民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)

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