会社に自己株式の取得資金がない場合の準備

相続した株式の買取りを会社に申し入れましたところ、「買い取りたいのはやまやまだが、会社にそんな資金はない」との回答がございました。本当に資金がないのか、確かめる方法はあるのでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。「資金がない」という説明には、2つの異なる意味がございます。第1は、法律上の制限である分配可能額が不足しているという意味でございます。第2は、現実の手元の資金が不足しているという意味でございます。前者であれば、資本金の額の減少又は準備金の額の減少により分配可能額を増やすことが考えられます。後者であれば、支払の時期を分けること、金融機関からの借入れ、遊休の資産の売却等が考えられます。いずれであるかは、計算書類等により確認することができます。本記事では、その確認の方法と、会社が採り得る手当ての方法を整理いたします。

目次

第1節 「資金がない」の2つの意味

1 分配可能額の不足

自己株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないものとされております(会社法第461条第1項)。分配可能額は、剰余金の額を基礎として算定されるものでございます(会社法第461条第2項、第446条)。

したがって、会社に現金があっても、分配可能額がなければ自己株式を取得することができません。これは法律上の制限でございます。

2 手元の資金の不足

他方、分配可能額は十分にあるが、現金が事業に用いられており、直ちに支出することができないという場合がございます。この場合は、法律上の制限ではなく、資金繰りの問題でございます。

3 いずれであるかを確認いたします

株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求について、法定の拒絶の事由は定められておりません。貸借対照表からは、資本金の額、準備金の額、剰余金の額、現金及び預金の額を確認することができます。

持株の割合が要件を満たす場合には、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。ただし、この請求には拒絶の事由が定められております(同条第2項)。

第2節 分配可能額が不足している場合の手当て

1 資本金の額の減少

会社は、資本金の額を減少することができます。この場合においては、株主総会の決議によって、減少する資本金の額等を定めなければならないものとされております(会社法第447条第1項)。この決議は、原則として特別決議によるものとされております(会社法第309条第2項)。

2 準備金の額の減少

会社は、準備金の額を減少することができます。この場合においては、株主総会の決議によって、減少する準備金の額等を定めなければならないものとされております(会社法第448条第1項)。

3 債権者の異議の手続

資本金の額又は準備金の額を減少する場合には、債権者は、会社に対し、これについて異議を述べることができるものとされております(会社法第449条第1項)。会社は、官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別にこれを催告しなければならず、その期間は1か月を下ることができないものとされております(同条第2項)。

したがって、この手当てには一定の期間を要します。なお、これらに伴う登記の手続については、司法書士にご確認ください。当事務所は登記の申請の代理を行っておりません。

4 欠損が生じている場合

会社に欠損が生じている場合には、資本金の額の減少により剰余金を生じさせても、なお分配可能額が不足することがございます。この場合には、事業の状況が改善するまで待つほかない場合がございます。

第3節 手元の資金が不足している場合の手当て

1 取得の期間を分けます

会社が自己株式を取得する場合には、株主総会の決議において、株式を取得することができる期間を定めることとされており、この期間は1年を超えることができないものとされております(会社法第156条第1項第3号)。1年の範囲内で複数回に分けて取得すること、又は年度をまたいで複数回の決議を行うことにより、支出を分散させることが考えられます。

2 支払の時期に関する合意

売買の代金の支払の時期について、分割による支払の合意をすることが考えられます。この場合には、支払が滞った場合の取扱い、担保、期限の利益の喪失について、書面により明確に定める必要がございます。

3 金融機関からの借入れ

会社が金融機関から借入れを行い、これを原資とすることがございます。もっとも、金融機関の判断によりますので、確実な手段ではございません。

4 資産の売却及び保険の解約

遊休の不動産、有価証券、生命保険の解約による返戻金等を原資とすることが考えられます。役員を被保険者とする生命保険が付されている会社は少なくございません。計算書類の附属明細書等から、これらの存在を確認し得ることがございます。

第4節 会社が真に応じられない場合

分配可能額が不足しており、かつ手当ての見込みもない場合には、会社による自己株式の取得は実現いたしません。この場合には、次の経路を検討いたします。

  • 他の株主に対する譲渡の交渉
  • 株式譲渡承認請求を行い、会社が承認をしない場合に会社又は指定買取人が買い取ることを請求する方法(会社法第136条、第138条第1号ハ、第140条)。指定買取人による買取りであれば、会社の分配可能額の制限を受けません
  • 株式を保有し続け、株主としての権利により会社の状況を把握すること

指定買取人による買取りは、会社の資金によらない解決の経路でございます。会社に資金がない場合において、実務上、重要な意味を持ちます。

第5節 会社の説明を確かめるための着眼点

「資金がない」という説明の当否は、計算書類等により相当程度まで確かめることができます。閲覧又は謄本の交付を請求した上で(会社法第442条第3項)、次の箇所を順に確認いたします。

確認する箇所 着眼点
貸借対照表の純資産の部 資本金、資本準備金、利益準備金及びその他利益剰余金の額を確認いたします。その他利益剰余金が積み上がっている場合には、分配可能額が存在する可能性がございます
貸借対照表の資産の部 現金及び預金のほか、有価証券、保険積立金、貸付金等、換価又は回収の余地のある資産がないかを確認いたします
損益計算書 直近の数期の当期純利益の推移を確認いたします。継続して利益を計上している場合には、資金がないという説明と整合しないことがございます
販売費及び一般管理費の内訳 役員報酬の額を確認いたします。相当額の報酬が支払われている一方で買取りの資金がないという説明には、疑問が残る場合がございます
株主資本等変動計算書 剰余金の配当の有無及びその額を確認いたします
個別注記表 会計方針、担保に供している資産、偶発債務等を確認いたします

これらの確認により、会社の説明が分配可能額の不足を指すのか、手元の資金の不足を指すのかを見分けることができます。会社が計算書類等の閲覧に応じない場合には、貸借対照表等の公告(会社法第440条第1項)及び会社の登記事項証明書により補うほか、閲覧の請求そのものを法的に追行することになります。

よくあるご質問

質問1 会社が「資金がない」と言っていますが、本当か確かめられますか。

計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求について、法定の拒絶の事由は定められておりません。貸借対照表から、剰余金の額及び現金及び預金の額を確認することができます。

質問2 資本金を減らせば買い取れるのですか。

資本金の額の減少により剰余金が生じ、分配可能額が増える場合がございます(会社法第447条第1項)。ただし、債権者の異議の手続を要し(会社法第449条)、1か月以上の期間がかかります。また、欠損が大きい場合には、なお不足することがございます。

質問3 分割払いでもよいのでしょうか。

当事者の合意により、支払の時期を分けることは可能でございます。もっとも、支払が滞る危険がございますので、担保及び期限の利益の喪失について書面により定める必要がございます。

質問4 会社に資金がなければ、あきらめるほかありませんか。

株式譲渡承認請求を行い、会社が承認をしない場合には、会社又は指定買取人が買い取ることになります(会社法第140条)。指定買取人による買取りであれば、会社の分配可能額の制限を受けません。この経路を検討する余地がございます。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第136条・第138条第1号(譲渡等の承認の請求)
  • 第140条(会社又は指定買取人による買取り)
  • 第156条第1項(自己株式の取得に関する事項の決定)
  • 第309条第2項(株主総会の特別決議)
  • 第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧等の請求)
  • 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
  • 第446条(剰余金の額)
  • 第447条第1項(資本金の額の減少)
  • 第448条第1項(準備金の額の減少)
  • 第449条第1項・第2項(債権者の異議)
  • 第461条第1項・第2項(分配可能額による制限)

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