家業の会社への資金援助と相続人の寄与分―高松高等裁判所平成8年10月4日決定

親が創業した同族会社が経営難に陥り、相続人の一人が親に頼まれて多額の資金を出して会社と親の財産を支えてきた場合、その援助は遺産分割の際に寄与分として考慮されるのでしょうか。会社は法律上は親とは別人格であるため、会社への援助は親への援助ではないという反論も考えられ、本件でもほかの相続人からそのような反論が出されました。高松高等裁判所平成8年10月4日決定は、この点について、会社と被相続人が経済的に極めて密着した関係にあり、会社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性がある場合には、被相続人に対する寄与と認める余地があるとし、長男の寄与分を認めなかった徳島家庭裁判所の審判を変更して、長男の寄与分を相続財産の20パーセントと定めました。
本記事では、同じ判断の枠組みを用いながら、原審判(徳島家庭裁判所平成7年3月31日審判)が寄与分を否定し、抗告審の決定がこれを認めた理由の違いを、資金援助の対価として取得した土地や会社に対する債権の評価という観点から審級順に整理します。家業の会社を支えてきた相続人にとっても、その相続人から寄与分を主張されている相続人にとっても、会社がからむ遺産分割で何が争点になるかを具体的に知ることができる裁判例です。
裁判例の基本情報
| 裁判所 | 高松高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判日 | 平成8年10月4日 |
| 事件番号 | 決定本文の冒頭には事件番号の記載がなく、本記事では確認できていません |
| 裁判の形式 | 決定(決定本文の末尾に「主文のとおり決定する」とあります) |
| 事件の種類 | 遺産分割の審判及び寄与分を定める処分の審判に対する即時抗告事件 |
| 審級 | 抗告審(原審は徳島家庭裁判所の審判) |
| 結論 | 原審判を変更。長男の寄与分を相続財産(相続開始時の価格4億3,825万0,363円)の20パーセントと定め、長女の寄与分を定める処分の申立てを却下し、遺産の分割方法と代償金を改めた |
| 上訴の状況 | 決定本文からは、その後の不服申立ての有無及び確定は確認できていません |
審級ごとの裁判
| 審級 | 裁判所・裁判日・事件番号 | 裁判の形式 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 原審 | 徳島家庭裁判所平成7年3月31日、平成4年(家)第392号(遺産分割)、第393号(長男の寄与分を定める処分)、第397号(長女の寄与分を定める処分) | 審判 | 長男及び長女の寄与分を定める処分の申立てをいずれも却下。遺産を分割し、長男に次女・妻・長女への代償金の支払を命じた |
| 抗告審 | 高松高等裁判所平成8年10月4日(事件番号は決定本文に記載がなく、確認できていません) | 決定 | 原審判を変更。長男の寄与分を20パーセントと定め、長女の申立ては却下。分割方法と代償金を改めた |
この表は、審判本文及び決定本文の冒頭、主文及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。抗告審の決定本文には、抗告人を「原審相手方」、相手方を「原審申立人」とする表示があり、原審判に対して妻、長男及び長女が不服を申し立てたことが分かります。
当事者の表記
判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。審判本文及び決定本文に出てくる個人名、会社名、病院名、金融機関名及び地名も、次の表記に置き換えています。審判本文・決定本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。
| 本記事の表記 | 立場 |
|---|---|
| 被相続人HKR氏 | 建設会社FMCの創業者。昭和63年7月に死亡し、相続が開始しました |
| 妻TMK氏 | 被相続人の妻。法定相続分は2分の1。原審では相手方、抗告審では抗告人 |
| 長男RKT氏 | 被相続人の長男で医師。法定相続分は6分の1。寄与分を定める処分を申し立てた相続人で、抗告審では抗告人 |
| 長女MNE氏 | 被相続人の長女。法定相続分は6分の1。寄与分を定める処分を申し立てた相続人で、抗告審では抗告人 |
| 次女ASK氏 | 被相続人の次女。法定相続分は6分の1。遺産分割を申し立てた相続人で、抗告審では相手方 |
| 長女の夫KWN氏 | 相続人ではありません。被相続人に頼まれて建設会社FMCの経営に参画し、被相続人の死亡後に同社の代表取締役に就任しました |
| 次女の夫NBY氏 | 相続人ではありません。医師で、一時期、病院KRYの勤務や当直を手伝っていました |
| 建設会社FMC | 被相続人が創業し、主として建売住宅の建設販売を行っていた株式会社。本件でいう家業の会社です |
| 有限会社TLV | 長女の夫KWN氏が設立し、代表取締役を務める有限会社。その出資持分が遺産に含まれていました |
| 整形外科病院SKH | 長男RKT氏が被相続人の依頼で開院した整形外科の病院。遺産である土地の上に建っています |
| 病院KRY、KRY地区の土地 | 被相続人が購入した一団の土地と、長男RKT氏がその一部に開院した病院 |
| 金融機関NKR | 農業協同組合系の金融機関。KRY地区の土地の購入資金を融資し、のちに土地を差し押さえました |
| 会計士JKT氏の報告書 | 審判が建設会社FMC及び被相続人の資金の流れの検討で中心に用いた、会計士作成の調査報告書 |
事案の概要―家業の会社を支えるために、長男は開業医となり多額の資金を出した
以下の事実は、原審判が「家族歴」として認定し、抗告審の決定もそのまま引用した事実などに基づくものです。
被相続人の会社は、県議会議員の選挙資金などにより経営難に陥った
被相続人HKR氏は、勤務していた建設会社が倒産して多額の債務を負ったため、建設会社FMCを創業して株式会社に組織し、主として建売住宅の建設販売を行って借金を清算しました。その後、建設会社FMCの経営は順調に推移していましたが、被相続人は昭和46年に県議会議員に立候補して当選し、多額の選挙資金を使いました。また、建設会社FMCの役員や支店の社員による多額の使い込みもあり、昭和49年頃には建設会社FMCの経営が苦しくなりました。
被相続人は、県外の大手の建設会社に勤務していた長女の夫KWN氏に、会社を辞めて戻り、建設会社FMCの経営に参画してほしいと懇願しました。長女MNE氏とKWN氏の夫婦はこれを受けて昭和49年末頃に戻り、建設会社FMCの役員として経営に参画しました。
長男は、父に頼まれて勤務医を辞め、病院を開業した
被相続人は県議会議員の2期目にも当選しましたが、建設会社FMCの資金を流用して多額の選挙資金を使い、建設会社FMCも恒常的に経営が苦しい状態でした。そこで、被相続人は、勤務医であった長男RKT氏に病院を開業させて資金援助をしてもらおうと考え、勤務医を辞めて病院を開業するよう頼みました。長男RKT氏は渋々これに応じ、銀行から総額およそ2億円を借り入れて、昭和54年に、遺産である土地の上に整形外科病院SKHを開院しました。
KRY地区の土地の購入と、金融機関NKRによる差押え
次に、被相続人は、KRY地区の土地を購入して一部を宅地に造成して販売し、残りの土地に病院付きの老人ホームを建設して長男RKT氏に経営させることを計画しました。長男RKT氏や親族は建設会社FMCの経営状態を考えて反対しましたが、被相続人は計画を強行し、昭和55年、長男RKT氏の連帯保証の下で、金融機関NKRから3億5,000万円を借り入れてKRY地区の土地を購入しました。長男RKT氏も、病院の建築費用2億3,000万円と設備費用5,000万円を借り入れて、昭和56年にその土地の一部に病院KRYを開院しました。
ところが、昭和56年頃から、政治がらみの事情により建設会社FMCに対する公共工事の受注が全くなくなり、KRY地区の土地も開発許可が取れずに転売ができなくなりました。被相続人は数億円に及ぶ負債を抱えて身動きが取れなくなり、昭和58年に、病院KRYの敷地を長男RKT氏に1億6,000万円で買い取ってもらい、その代金を借金の返済や建設会社FMCへの資金提供に充てました。それでも追いつかず、昭和58年末にはKRY地区の宅地部分が金融機関NKRに差し押さえられ、昭和59年には競売が申し立てられました。
長男RKT氏は、借入れをして、被相続人に代わって金融機関NKRに4億2,000万円を弁済し、競売を免れさせました。この4億2,000万円は、会計士の助言もあり、3億1,000万円をKRY地区の宅地部分の売買代金として長男RKT氏が宅地部分を譲り受け、残りの1億1,000万円は被相続人に対する貸付金とする形で処理されました。この1億1,000万円は、後に、被相続人が建設会社FMCに対して持っていた貸付金債権を長男RKT氏が譲り受ける形で清算されています。
被相続人の死亡後、会社は長女夫婦が承継した
建設会社FMCでは、昭和58年頃から長女の夫KWN氏に経理が任され、KWN氏は自分の両親の退職金を会社のために用立ててもらうなどして経営を維持していました。被相続人は昭和63年7月に死亡しました。その後、KWN氏が建設会社FMCの代表取締役に就任し、同社の株式の9割近くを長女MNE氏とKWN氏の夫婦が保有しています。妻TMK氏も建設会社FMCから役員報酬を受けています。
長男RKT氏は、病院の開院のための多額の借入れを抱え、病院KRYもしばらく赤字経営であったため、経済的にも精神的にも苦労が多かったと認定されています。病院KRYの経営は昭和61年頃から好転し、昭和63年に医療法人化されました。整形外科病院SKHも法人化され、遺産である土地の上に建っているため、当初は支払われていなかった地代として、現在は有限会社TLVを通じて年600万円が妻TMK氏に支払われています。
次女ASK氏は、大学卒業後に整形外科病院SKHの事務を手伝い、昭和55年に結婚しました。次女の夫NBY氏は勤務医で、病院KRYの経営が苦しかった頃に当直を手伝い、後に副院長となりましたが、昭和62年に同病院を辞めています。
相続人と相続分の譲渡
相続人は、妻TMK氏(法定相続分2分の1)と、長男RKT氏、長女MNE氏、次女ASK氏(各6分の1)の4人です。妻TMK氏と長女MNE氏は、それぞれ自分の法定相続分の4分の3を長男RKT氏に譲渡していました。そのため、各人の相続分は、妻TMK氏が8分の1、長男RKT氏が3分の2(24分の16)、長女MNE氏が24分の1、次女ASK氏が6分の1となります。実質的には、長男RKT氏の側と、遺産分割を申し立てた次女ASK氏とが対立する構図でした。
事案の経緯の時系列
| 時期 | 出来事(審判本文・決定本文の認定による) |
|---|---|
| 昭和46年 | 被相続人HKR氏が県議会議員に当選。多額の選挙資金を使う |
| 昭和49年頃 | 建設会社FMCの経営が苦しくなる。同年末頃、長女MNE氏とKWN氏の夫婦が戻って同社の経営に参画 |
| 昭和54年 | 長男RKT氏が約2億円を借り入れ、遺産である土地の上に整形外科病院SKHを開院 |
| 昭和55年 | 被相続人が長男RKT氏の連帯保証の下で金融機関NKRから3億5,000万円を借り入れ、KRY地区の土地を購入 |
| 昭和56年 | 長男RKT氏が病院KRYを開院。この頃から建設会社FMCの公共工事の受注がなくなる |
| 昭和58年6月 | 長男RKT氏が病院KRYの敷地を1億6,000万円で買い受ける。被相続人は代金のうち1億円を建設会社FMCに資金提供 |
| 昭和58年度 | 建設会社FMCの完成工事受注高が前年度の4億円余から3,700万円余に極端に減少 |
| 昭和58年末 | KRY地区の宅地部分が金融機関NKRに差し押さえられる |
| 昭和59年 | 競売の申立て。長男RKT氏が4億2,000万円を弁済して競売を免れさせ、宅地部分を3億1,000万円で譲り受け、1億1,000万円を貸付金とする |
| 昭和60年頃から昭和61年度 | 上記の貸付金を、被相続人の建設会社FMCに対する貸付金債権を長男RKT氏が譲り受ける形で清算 |
| 昭和63年7月 | 被相続人が死亡し、相続が開始 |
| 相続開始後 | 長女の夫KWN氏が建設会社FMCの代表取締役に就任。夫婦で同社株式の9割近くを保有 |
| 平成4年 | 次女ASK氏の遺産分割の申立て、長男RKT氏及び長女MNE氏の寄与分を定める処分の申立ての各事件(事件番号の年による) |
| 平成7年3月31日 | 徳島家庭裁判所が、寄与分の申立てをいずれも却下し、遺産を分割する審判 |
| 平成8年1月 | 抗告審で行われた土地の鑑定の評価時点 |
| 平成8年10月4日 | 高松高等裁判所が原審判を変更し、長男RKT氏の寄与分を20パーセントと定める決定 |
判断の前提となった法令
寄与分は民法第904条の2に定められています。審判本文及び決定本文は条文の文言を引用していないため、以下は当事務所が現行の条文を紹介するものです。
民法第904条の2第1項―寄与分
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
民法第904条の2第2項―家庭裁判所による寄与分の決定
前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
条文が対象としているのは「被相続人の事業」や「被相続人の財産」に対する寄与です。本件では、援助の相手方の多くが被相続人個人ではなく株式会社である建設会社FMCであったため、会社への援助を被相続人への寄与とみることができるかが問題になりました。なお、本件の審判及び決定は、当時の家事審判規則に基づく手続で行われています。家事審判規則は現在では廃止され、家事事件手続法に置き換えられています。
当事者の請求と主要な主張
申立ての内容
次女ASK氏が遺産分割を申し立て、長男RKT氏と長女MNE氏が、それぞれ自分の寄与分を定める処分を申し立てました。原審判は、これらを併せて審理しています。
寄与分を主張した長男RKT氏の主張
- 被相続人は昭和58年から昭和59年当時、資産約5億3,000万円に対して負債が約7億円あり、金利も税金も払えず、破産状態にあった。長男RKT氏らの援助がなければ遺産は全く残っていなかった。
- 建設会社FMCの債務は被相続人が連帯保証しているから、会社への援助は被相続人への援助と同視すべきである。
- 被相続人と建設会社FMCに恒常的に資金援助をしており、昭和63年には援助額が2億円を超えていた。KRY地区の土地の購入資金の借入れも、長男RKT氏の連帯保証があったからこそ可能であった。
- 病院KRYの敷地の購入と4億2,000万円の弁済は、被相続人を援助するためのものであった。土地は規制が厳しく市場価格が低いため、昭和59年当時の時価は約2億9,000万円にすぎず、代金合計4億7,000万円との差額の1億8,000万円余りが寄与である。
- 建設会社FMCに対する1億1,000万円の債権は、会社が実質赤字会社であるため名目にすぎず、これも寄与とみるべきである。
寄与分を主張した長女MNE氏の主張
- 夫KWN氏とともに、被相続人の懇願を受けて建設会社FMCを助けるために戻り、給与の未払いに甘んじてきた。未払いの給与は、長女MNE氏について350万円、KWN氏について1,360万円が残っている。
- KWN氏は建設会社FMCに約940万円を貸し付けており、その両親も無利息で合計4,300万円を貸し付けていて、利息相当額約2,000万円の援助をしたことになる。
- KWN氏は相続人ではないが、被相続人に懇願されて働いたのであり、KWN氏及びその両親の寄与は長女MNE氏の寄与と評価すべきである。
次女ASK氏の反論と特別受益の主張
- 当時弁済を迫られていた負債は約5億8,000万円にとどまり、KRY地区の土地だけでも10億円を超える資産があったから、被相続人は破産状態ではなかった。
- 長男RKT氏が土地を購入したり弁済したりしたのは、その土地に自分の病院があったからであり、自分の利益のためである。長男RKT氏は時価10億円を超える土地を合計5億8,000万円で取得しており、その差額の5億円余りは長男RKT氏の特別受益である。被相続人の不動産を担保に利用したことや、遺産の土地を無償で病院の敷地に使っていたことも特別受益である。
- 建設会社FMCは被相続人とは別人格であり、会社への援助は被相続人への寄与にならない。長男RKT氏の資金援助は全額清算済みである。
- 長女MNE氏とKWN氏の夫婦は建設会社FMCの実質的経営者であり、会社の利益はすべて夫婦に帰属しているから、会社を援助したのは当然である。被相続人から会社への資金援助などは長女MNE氏の特別受益である。
- 妻TMK氏が受け取った生命保険金は特別受益とすべきである。
長男RKT氏らの側のその他の主張
- 次女ASK氏には、少なくとも1,700万円の嫁入り費用の特別受益がある。
- 遺産のうち、整形外科病院SKHに対する仮払金債権と建設会社FMCに対する仮払金債権は、会社と被相続人が実質的に一体であり、実質上価値がないから、遺産に含めるべきではない。
- (抗告審で)次女ASK氏の法定相続分に相当する相続税を長男RKT氏が立て替えて納付したので、代償金と相殺すべきである。
結論を左右した争点
結論を左右したのは、次の3点です。
- 相続人が株式会社である家業の会社に対して行った援助を、被相続人に対する寄与と評価できるか。できるとすれば、どのような場合か。
- 長男RKT氏は、資金提供の見返りに土地と会社に対する債権を取得している。これらの対価を考慮しても、なお無償の援助といえる部分があるか(土地の時価と、会社に対する債権の実質的な価値の評価)。
- 長女MNE氏と夫KWN氏の会社での働きを、長女MNE氏の寄与と評価できるか。
原審判と抗告審の決定は、1の判断の枠組みではほぼ同じ立場を取りながら、2の評価で結論が分かれました。
第一審(原審判)の判断
会社への援助も、被相続人への寄与となり得るとの枠組み
原審判は、建設会社FMCは株式会社であり、法律上は被相続人とは別人格であるとしつつ、会社の企業形態が実質上被相続人の個人企業である場合や、会社の債務を被相続人が連帯保証している場合など、会社が倒産すれば被相続人の個人資産にも直接的な影響がある事情があるときは、寄与分制度の趣旨に照らして、会社に対する援助が被相続人に対する寄与となり得ると解しました。逆に、会社から受けた利益などが特別受益とみるべき場合もあるとしています。
本件については、建設会社FMCの実質が個人企業であるとは言い難いものの、被相続人は会社を生活の糧とし、個人資産のほとんどを会社の借入れの担保に供し、被相続人と会社の間で資金が恒常的に行き来していたことから、両者は経済的に極めて密着した関係にあったと認めました。そのうえで、次のように述べて、関連性の要件を設けました。
「〔建設会社FMC〕への援助等と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性が認められる必要があると解される。」
判断に当たって考慮すべき事情として、援助がされた当時の会社の経営状態、被相続人の資産状況、援助の種類及び程度が挙げられています。
会社の経営状態と被相続人の資産状況についての認定
原審判は、会計士JKT氏の報告書を中心に検討しました。報告書については次女ASK氏側から信用性に疑問が述べられていましたが、総勘定元帳や預貯金証書も検討していることなどから、報告書を前提として検討するとしています。
- 建設会社FMCは、昭和49年3月に当期利益が赤字に転落し、その後ほぼ毎年赤字を計上していました。繰越損失は1億円を超え、その後2億円、3億円と累積していきました。審判は、同社を自転車操業状態の赤字会社と評価しています。
- 昭和58年から昭和59年当時は、完成工事受注高が3,700万円余に極端に落ち込み、土地の売却で一時的に黒字としたものの、昭和59年3月には再び赤字となり、繰越損失は3億円を超えたまま被相続人の死亡まで推移しました。
- 被相続人の不動産のほとんどは会社や個人の債務の担保に供されており、当時は税金や債権者から督促を受け、ついには差押えを受けていました。少なくとも自ら資金を捻出して競売を免れる力はなかったと認定されています。ただし、競売によって差押えを受けた土地だけを失うにとどまったのか、連鎖的にほかの資産も失う状態だったのかは断定できないとされました。
長男RKT氏の寄与は認められないとした理由
原審判は、長男RKT氏の援助を次のように評価し、特別の寄与には当たらないと判断しました。
| 援助の内容 | 原審判の評価 |
|---|---|
| 建設会社FMCへの恒常的な資金提供(昭和55年頃から昭和61年頃まで、総額1億5,500万円余) | 会社の自転車操業を支える働きをしたといえる。しかし、被相続人自身も恒常的に資金提供をしており、昭和61年度までは被相続人からの貸付けの方がはるかに多かった。長男RKT氏の資金提供が途切れれば経営が頓挫したと断ずる根拠に乏しく、被相続人の資産の確保との明確な関連は認め難い |
| 昭和58年の1億円の資金提供(病院KRYの敷地の代金を原資として、被相続人から会社へ提供されたもの) | 会社の危機を乗り切らせるだけの影響力があり、被相続人の資金提供は実質的に長男RKT氏の資金提供と同視してよい。しかし、関連性は可能性にとどまるうえ、長男RKT氏はその対価として会社に対する債権を取得している。会社の仮受金は返済されている年もあり、回収不能な債権とまではいえないから、無償性に欠ける |
| 被相続人に対する直接の資金提供(昭和57年から昭和63年まで、総額2億9,600万円余) | 土地代金との相殺、会社に対する債権への振替え、返済により、全て清算されている |
| 病院KRYの敷地の購入と、4億2,000万円の弁済によるKRY地区の宅地部分の取得 | 被相続人への援助の趣旨が含まれていたと認められる。しかし、提出された2通の鑑定書と参与員の意見を総合すると、昭和58年当時の時価は1平方メートル当たり3万3,000円前後で、合計5億9,000万円くらいとみられる。長男RKT氏は時価より1億2,000万円程度安く購入しており、代金と時価の差額を寄与とみる余地はない |
| 連帯保証による信用の提供 | 長男RKT氏が医師の地位を得たのは被相続人に支えられて医学部で学べたからでもあり、連帯保証をしたことだけを捉えて寄与を論ずることはできない |
さらに原審判は、長男RKT氏が病院の開院の際に建設会社FMCから合計2,200万円余の資金提供を受け、被相続人の不動産を借入れの担保に利用し、整形外科病院SKHの敷地である遺産の土地をしばらく無償で利用していたこと、KRY地区の土地の取得は病院経営のために必要なことでもあったことを挙げ、次のように結論付けました。
「結局、被相続人と〔建設会社FMC〕と〔長男RKT氏〕とは、いわば持ちつ持たれつの関係にあったものであり、〔長男RKT氏〕の働きを特別の寄与として評価することはできない。」
長男RKT氏の特別受益も認めなかった
次女ASK氏の主張する長男RKT氏の特別受益については、持ちつ持たれつの関係の一方だけを主張するものであって、寄与を考慮しない以上、特別受益を考慮することもできないとしました。土地の代金は時価よりも安かったと認められるものの、被相続人がその差額を意識し、長男RKT氏に贈与する趣旨で売買契約を締結したとは認められないとして、差額を特別受益とすることも否定しています。
長女MNE氏の寄与も認められないとした理由
原審判は、長女MNE氏について、建設会社FMCで主として働いたのは夫KWN氏であったものの、夫婦が一体となって経営に腐心してきたことなどから、公平の観点からKWN氏の働きを長女MNE氏の働きと一体のものとして評価することは可能であるとしました。
そのうえで、会社が破産状態であり、夫婦の働きで破産を免れて被相続人の資産も確保されたという明確な関連は認められないこと、会社のために尽力することは夫婦の利益にもつながり、現在は会社を実質的に夫婦が承継していることを挙げ、「〔長女MNE氏〕の寄与の主張は、関連性及び無償性の点で問題があり」として、寄与と評価することは困難であると判断しました。KWN氏の両親の資金援助は、あまりに間接的であるとして寄与の前提を欠くとされています。逆に、夫婦が会社で生計を維持してきたことなどを長女MNE氏の特別受益とすることも否定しました。
そのほかの特別受益の主張
- 妻TMK氏の生命保険金(認定額1,215万7,847円)については、原審判は、遺産に含まれない生命保険金は原則として特別受益として持ち戻すのが妥当であるとしつつ、受取人が妻であること、遺産総額に照らして金額が大きくないこと、妻の働きに報いる趣旨と推認されることから、持戻し免除の意思を推認して持ち戻させないとしました。
- 次女ASK氏の嫁入り費用については、長男RKT氏や長女MNE氏も婚姻の際にそれなりの費用を支出していると推認されるため、次女ASK氏の分だけを特別受益とするのは不公平であるとして、いずれについても考慮しないとしました。
遺産の分け方
原審判は、寄与分も特別受益も考慮せず、相続分の譲渡を反映した相続分(妻TMK氏24分の3、長男RKT氏24分の16、長女MNE氏24分の1、次女ASK氏24分の4)で遺産を分けました。分割時の遺産総額は、現存遺産5億4,947万2,478円に一部分割済みの178万0,385円を加えた5億5,125万2,863円とされています。
土地については、整形外科病院SKHの敷地と病院KRYの周辺地などを長男RKT氏に取得させました。次女ASK氏が取得を強く拒否した農地(市街化調整区域内の田)についても、次女ASK氏が希望した土地のうち旧宅の土地建物を取得させても具体的相続分に遠く及ばないとして、旧宅の土地建物とあわせて次女ASK氏に取得させています。そのうえで、取得額が具体的相続分を9,412万3,288円上回る長男RKT氏に、次女ASK氏へ6,043万6,707円、妻TMK氏へ1,883万5,312円、長女MNE氏へ1,485万1,269円の代償金の支払を命じました。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
抗告審の判断
原審判の事実認定を引用し、一部を補正した
抗告審の決定は、相続人及び法定相続分、遺産の範囲、家族歴、特別受益、寄与分についての当事者の主張の概要について、原審判の理由を引用しました。そのうえで、原審判の「一部分割を受けた分は」の次に「相続開始時の遺産総額に加えて計算し」との文言を加える補正をしています。寄与分を認めると、相続開始時の遺産の価格を基準に寄与分を算定する必要があるため、その計算方法を明らかにしたものと考えられます(この位置付けは当事務所の理解です)。
会社の経営状態と被相続人の資産状況、長男RKT氏と長女MNE氏の援助の態様についても、原審判の認定を引用しています。つまり、抗告審は、原審判と同じ事実を前提としながら、その評価を改めたことになります。
判断の枠組みは原審判を維持した
抗告審の決定も、建設会社FMCは被相続人が創業した株式会社で別人格であり、実質が個人企業とは言い難いとしたうえで、原審判と同じ事情を挙げて、「〔建設会社FMC〕と被相続人とは経済的に極めて密着した関係にあったものである。」と述べました。そして、次のとおり判断の枠組みを示しています。
「そうすると、〔建設会社FMC〕の経営状態、被相続人の資産状況、援助と態様等からみて、〔建設会社FMC〕への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性がある場合には、被相続人に対する寄与と認める余地があるということができる。」
長男RKT氏の援助の評価を変更した
抗告審の決定は、原審判と同じ事実について、次のとおり評価を改めました。
- 恒常的な資金援助。建設会社FMCは自転車操業状態の会社であり、回転資金の提供がなければ経営が行き詰まったことは明らかであるとしました。被相続人自身の援助額の方が多かったとしても、長男RKT氏の恒常的な資金援助は会社の経営を支える働きをしたということができるとしています。
- 昭和58年の1億円。受注高が極端に減少して会社が経営危機にあった時期の資金提供であり、会社の経営維持にとって重要なものであったとしました。そして、「〔長男RKT氏〕が土地を買い取ったからこそ、被相続人は1億円もの資金を〔建設会社FMC〕に提供して経営危機を乗り切ることができたのであり、その結果被相続人の個人資産が失われずにすんだということができる。」と述べ、原審判が可能性にとどまるとした関連性を正面から認めました。
- 土地の購入と弁済による合計5億8,000万円の資金提供。長男RKT氏は、多額の借入れで整形外科病院SKHを開業して間もない時期に、自らは必要でも望んでもいない病院KRYの敷地を購入し、金融機関NKRへの弁済もして、現在も多額の債務を負っていると認定しました。そのうえで、「〔長男RKT氏〕の医師としての社会的信用や病院経営からの利益がなければ、到底このような資金提供は不可能であったと考えられ、このような資金提供は被相続人に対する援助であったと認めるのが相当である。」としています。
対価として取得した土地と債権の価値を見直した
抗告審の決定は、長男RKT氏が対価として病院KRYの敷地、KRY地区の宅地部分及び建設会社FMCに対する債権を取得しており、形式的には無償とはいえないことを認めました。そのうえで、対価の実質的な価値を次のとおり評価し直しています。
| 対価 | 原審判 | 抗告審の決定 |
|---|---|---|
| 病院KRYの敷地とKRY地区の宅地部分(代金合計4億7,000万円) | 鑑定書2通と参与員の意見から、時価は合計5億9,000万円くらい。長男RKT氏は1億2,000万円程度安く購入しており、寄与とみる余地はない | 2通の鑑定書は評価の格差が大きすぎ、正確な時価を知ることは困難とした。土地は被相続人が昭和55年に3億円で取得し、造成費5,000万円を投入したもので、開発許可が下りず付加価値は大きくないと推認した。市街地価格指数の上昇率約25.6パーセントを当てはめ、昭和59年の価格を約4億4,000万円程度とみた。代金との差額3,000万円程度は寄与として評価する余地があり、特別受益とはいえない |
| 建設会社FMCに対する1億1,000万円の債権 | 会社の仮受金は返済されている年もあり、回収不能とはいえない。長男RKT氏は名実ともに1億円の債権を得ており、無償性に欠ける | 昭和63年の決算時に会社の資産は9,744万円余、借入金9,770万円、仮受金2億7,741万円で、累積損失は3億5,000万円近い。債権の価値は資産と債務の割合から最大限にみても約28パーセントで、3,000万円にも満たない。差額8,000万円は寄与として評価する余地がある |
寄与分を遺産全体の20パーセントと定めた
抗告審の決定は、以上から、長男RKT氏の資金援助のうち約1億1,000万円が対価のない無償の援助であるとしつつ、その金額自体は正確なものではないこと、会社に対する恒常的な資金援助については金融の利益と利息分が寄与として評価されるべきで、その額はかなり高額であることがうかがわれるものの、正確に算出することが困難であることを指摘しました。
他方で、長男RKT氏が病院の開院の際に建設会社FMCから資金提供を受けたこと、被相続人の不動産を借入れの担保に利用したこと、整形外科病院SKHの敷地である遺産の土地をしばらく無償で利用していたことも、受けた利益として考慮しています。そして、次のとおり結論付けました。
「このような事情を総合すれば、〔長男RKT氏〕の寄与分については、控えめに評価して遺産全体の20パーセントと認めるのが相当である。」
原審判が「持ちつ持たれつの関係」として寄与を否定する理由とした事情は、抗告審では寄与分の額を控えめに評価する方向で考慮されたことになります。
長女MNE氏の寄与分は、理由を変えて否定した
抗告審の決定は、長女MNE氏と夫KWN氏が被相続人の懇願でやむなく会社の経営に参画し、一時期は報酬を受けられないなど、かなりの苦労があったことを認めました。しかし、長女MNE氏が抗告審において、自らの寄与よりも長男RKT氏の寄与に付加したものとして評価されることを望んでいること、また「同人夫婦は〔建設会社FMC〕の実質的経営者というべき立場にあるので、独自の寄与分としては考慮しない。」としました。さらに、長女MNE氏の寄与を考慮するとしても、長男RKT氏の寄与分が大きく変化するとまでは認められないとして、20パーセントを維持しています。
遺産の評価を一部やり直した
抗告審では、遺産である土地の一部について鑑定が行われました。その結果、一団の土地の一部について、相続開始時の評価が3億2,988万8,000円、平成8年1月現在の評価が4億3,940万円とされ、別の土地について相続開始時が309万6,500円、平成8年1月現在が343万4,300円とされました。同じ地区のほかの筆は、鑑定した土地の評価から面積の割合に応じて算出し、それ以外の土地や建物、有価証券等は原審判の評価によっています。
寄与分は相続開始時の価格を基準に定める必要があるため、抗告審の決定は、相続開始時の遺産総額(一部分割済みの分を含めて4億3,825万0,363円)と、分割時の遺産総額(現存遺産5億5,026万2,978円に一部分割済みの分を加えた5億5,204万3,363円)を区別して計算しました。具体的な計算過程を示す別紙計算書は、決定本文では省略されています。
遺産の分け方も改めた
抗告審の決定は、現物分割を基本としつつ、次のとおり分け方を改めました。
- 旧宅の敷地である土地2筆は、妻TMK氏の所有地に隣接して一体として使用するのが合理的であり、そのうち1筆がなければ妻TMK氏の土地が公道に接しない袋地となることから、旧宅と妻TMK氏名義の土地上の建物とともに妻TMK氏に取得させました。原審判では、これらは次女ASK氏が取得していました。
- 次女ASK氏には、具体的相続分が多いことから、評価の高い方の土地(原審判でも次女ASK氏に取得させた、農業地域にある7筆の土地)と、証券会社に対する公社債投資信託を取得させました。
- 長女MNE氏には、土地2筆、有限会社TLVの出資持分権及び建設会社FMCに対する未収金債権を取得させました。
- 長男RKT氏の取得する遺産は、原審判と同じです。
長男RKT氏の相続分を立て替えた相続税と相殺すべきであるとの主張については、決定は「相続税は具体的取得額に応じて負担するのが原則であり」とし、寄与分が認められることで次女ASK氏の取得額は法定相続分相当額より減り、負担すべき相続税も立替額より少なくなることがうかがわれるとして、立替金について後日清算することはともかく、本決定で考慮することは相当ではないとしました。
裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
両審級に共通する重要な事実
- 建設会社FMCは被相続人が創業した株式会社で、昭和49年以降ほぼ毎年赤字を計上し、繰越損失が3億円を超える自転車操業状態の会社であった。
- 被相続人は会社から生活の糧を得て、個人資産のほとんどを会社の借入れの担保に供し、会社との間で資金が恒常的に行き来していた。
- 長男RKT氏と長女夫婦は、被相続人の懇願に応じて、それなりに安定していた会社勤務や勤務医の生活を捨てて被相続人の事業に関与した。
- 長男RKT氏は、合計5億8,000万円の資金を被相続人に提供し、うち4億7,000万円を土地代金、1億1,000万円を会社に対する貸付金として処理した。
- 被相続人の死亡後、会社は長女夫婦が代表取締役と株式の9割近くを押さえる形で実質的に承継している。
判断の枠組み
両審級とも、会社は法律上は別人格であるという一事によって会社への援助を寄与から除外することはせず、次の2段階で判断しています(この整理は当事務所によるものです)。
- 会社と被相続人が経済的に極めて密着した関係にあるか(個人企業に近い面、個人資産の担保提供、資金の恒常的な行き来、会社の倒産が被相続人の生活手段と個人資産の喪失に直結する関係)。
- 会社の経営状態、被相続人の資産状況、援助の態様等からみて、会社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性があるか。あわせて、援助の見返りに得た対価を差し引いても無償といえる部分があるか。
原審判は2の段階で関連性と無償性をいずれも否定し、抗告審の決定は同じ事実から関連性を認め、対価の実質的な価値を低く評価し直して無償の部分を認めました。
各主張を採用し又は排斥した理由
会社に対する債権も遺産分割の対象とした(原審判を抗告審が引用)
妻TMK氏、長男RKT氏及び長女MNE氏は、整形外科病院SKHと建設会社FMCに対する仮払金債権を遺産に含めることに反対しました。原審判は、会社と被相続人は経済的に密接な関連があるものの、債権が混同で消滅するような関係ではなく、両社とも経営を続けているから無価値とはいえないとしました。そして、債権は当事者が合意し相当と認められる限りで分割対象となるとしつつ、ほかの同種の債権は分割対象としながらこの2つだけを除外するのは不均衡であり、「債権の存在は認めた上で、その実質的価値の面での争いであるから、価値があると認められる以上分割対象とするのが相当である。」と判断しました。抗告審の決定もこの部分を引用しています。
建設会社FMCに対する未収金債権のうち55万円が別の訴訟の和解で次女ASK氏に支払われていたこと、有限会社TLVに対する未収金123万0,385円が妻TMK氏に支払われていたことは、遺産の一部分割に当たるとして、具体的相続分の計算で調整されています。
長男RKT氏の寄与分―原審判は否定、抗告審は20パーセントを認めた
理由は「第一審(原審判)の判断」及び「抗告審の判断」で述べたとおりです。抗告審の決定は、末尾で「〔長男RKT氏〕の寄与分を認めなかった原審判は失当であるからこれを変更して」と述べ、家事審判規則19条2項により自ら決定しました。
長男RKT氏の特別受益―両審級とも否定
原審判は、土地代金が時価より安かったと認めつつ贈与の趣旨が認められないとして特別受益を否定し、抗告審の決定は、時価をむしろ代金より低いとみたうえで、特別受益ということはできないとしました。
長女MNE氏の寄与分―両審級とも否定
原審判は関連性と無償性を理由に、抗告審の決定は長女MNE氏の意向と夫婦が会社の実質的経営者の立場にあることを理由に、それぞれ独自の寄与分を認めませんでした。
妻TMK氏の生命保険金・次女ASK氏の嫁入り費用―両審級とも考慮しない
抗告審の決定は、特別受益についての原審判の理由を引用しており、いずれも持戻しの対象とされませんでした。
主文及び結論
原審判(徳島家庭裁判所平成7年3月31日審判)の主文の要旨
- 長男RKT氏及び長女MNE氏の各寄与分を定める処分の申立てを、いずれも却下する。
- 次女ASK氏に旧宅の土地建物と農地などの土地を、妻TMK氏に建物1棟、預貯金全部、公社債投資信託及び債権の大部分を、長男RKT氏に病院の敷地を含む多数の土地と整形外科病院SKHに対する債権を、長女MNE氏に土地2筆と有限会社TLVの出資持分権を、それぞれ取得させる。
- 長男RKT氏は、代償として、次女ASK氏に6,043万6,707円、妻TMK氏に1,883万5,312円、長女MNE氏に1,485万1,269円を支払え。
抗告審(高松高等裁判所平成8年10月4日決定)の主文
決定の主文の第1項及び第2項は、次のとおりです(決定本文の主文をそのまま引用したものです)。
「一 原審判を次のとおり変更する。
二 抗告人〔長男RKT氏〕の寄与分を相続財産(相続開始時の価格4億3,825万0,363円)の20パーセントと定める。」
第3項以下の要旨は次のとおりです。
- 長女MNE氏の寄与分を定める処分の申立てを却下する。
- 妻TMK氏に旧宅の敷地2筆、建物全部、預貯金全部及び債権の一部を、長男RKT氏に病院の敷地を含む多数の土地と整形外科病院SKHに対する債権を、長女MNE氏に土地2筆、有限会社TLVの出資持分権及び建設会社FMCに対する未収金債権を、次女ASK氏に土地の一群と公社債投資信託を、それぞれ取得させる。
- 長男RKT氏は、代償として、次女ASK氏に5,575万8,962円、長女MNE氏に237万7,233円を支払え。
- 妻TMK氏は、代償として、長女MNE氏に514万3,230円を支払え。
- 抗告費用はこれを4分し、その3を抗告人らの負担とし、その余を次女ASK氏の負担とする。
なお、妻TMK氏から長女MNE氏への代償金は、主文では514万3,230円ですが、決定の理由中の計算では「514万3,730円」と記載されています。本記事では主文の金額を記載し、この食い違いがあることを付記するにとどめます。
寄与分の額は、相続開始時の価格4億3,825万0,363円の20パーセントですから、当事務所の計算では約8,765万円となります。
審級ごとの結論の推移
| 項目 | 原審判(徳島家庭裁判所) | 抗告審の決定(高松高等裁判所) |
|---|---|---|
| 会社への援助を寄与とみる枠組み | 経済的に密着した関係を前提に、援助と被相続人の資産の確保との明確な関連性を要する | 維持(同じ枠組み) |
| 長男RKT氏の寄与分 | 申立て却下(関連性と無償性を否定。「持ちつ持たれつの関係」) | 変更。相続財産(相続開始時の価格)の20パーセント |
| KRY地区の土地の時価 | 約5億9,000万円(代金は1億2,000万円程度安い) | 変更。約4億4,000万円程度(代金との差額3,000万円程度は寄与の余地) |
| 会社に対する1億1,000万円の債権の価値 | 回収不能とはいえず、名実ともに債権を取得 | 変更。実質的な価値は3,000万円未満(8,000万円は寄与の余地) |
| 長男RKT氏の特別受益 | 否定 | 否定(理由は異なる) |
| 長女MNE氏の寄与分 | 申立て却下(関連性と無償性) | 申立て却下(本人の意向と、夫婦が会社の実質的経営者であること) |
| 生命保険金・嫁入り費用 | 特別受益として考慮しない | 維持(原審判を引用) |
| 会社に対する債権を遺産に含めること | 分割対象とする | 維持(原審判を引用) |
| 旧宅の土地建物 | 次女ASK氏が取得 | 変更。妻TMK氏が取得(袋地の解消など) |
| 次女ASK氏への代償金 | 6,043万6,707円(長男RKT氏から) | 5,575万8,962円(長男RKT氏から) |
| 長女MNE氏への代償金 | 1,485万1,269円(長男RKT氏から) | 長男RKT氏から237万7,233円、妻TMK氏から514万3,230円(主文の金額) |
| 妻TMK氏への代償金 | 1,883万5,312円(長男RKT氏から) | なし(妻TMK氏が長女MNE氏に支払う側となった) |
| 相続税の立替金との相殺 | 判断なし | 本決定では考慮しない |
判断の射程―参考となる点と一般化できない点
以下は、審判及び決定の内容を踏まえた当事務所の評価です。裁判所が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である抗告審の決定を基準とし、原審判の判断が改められた点はその旨を示しています。
参考となる点
- 家業の会社への援助も、寄与分の対象となり得ること。両審級とも、会社が別人格であるという一事だけで会社への援助を寄与から除外していません。会社と被相続人の資金や担保の結び付きが強く、会社の倒産が被相続人の生活手段と個人資産の喪失に直結する関係にあるときは、会社への援助と被相続人の資産の確保との明確な関連性を立証することで、寄与分が認められる余地があります。家業の会社を支えてきた相続人にとっては、会社の決算書、担保の設定状況、被相続人と会社の間の資金の動きを示す資料が、寄与分の立証の中心になることを示す例です。
- 援助の見返りに得た財産は、名目額ではなく実質的な価値で評価されたこと。抗告審の決定は、長男RKT氏が取得した会社に対する1億1,000万円の債権を、会社の資産と負債の割合から最大限でも約28パーセントの価値しかないと評価し、差額を寄与の対象としました。土地についても、評価が大きく食い違う2通の鑑定書に頼らず、取得価格、造成費、市街地価格指数の上昇率から時価を推計しています。赤字の家業の会社に対する貸付金を「対価」とみるかどうかは、会社の財務状態によって大きく変わります。
- 寄与分の主張を争う相続人にとっての反論の視点。原審判が重視した事情、すなわち被相続人自身も会社に多額の資金を入れていたこと、援助した相続人も会社や被相続人から資金提供、担保の利用、土地の無償利用などの利益を受けていたこと、援助が自分の病院経営のためでもあったことは、抗告審でも寄与分の額を「控えめに評価」する事情として考慮されました。寄与分を主張された側の相続人は、援助と引換えに相手方が受けた利益を具体的に示すことが重要になります。
- 会社を承継した相続人の働きは、独自の寄与分として評価されにくいこと。長女MNE氏の寄与分は両審級で否定され、原審判は会社のための尽力が夫婦自身の利益にもつながり、夫婦が会社を実質的に承継していることを、抗告審の決定は夫婦が会社の実質的経営者の立場にあることを理由の一つにしました。会社の経営と株式を引き継いだ相続人が、会社での働きを寄与として主張する場合には、この点が問題になり得ます。
- 会社に対する債権も遺産として分割されること。被相続人が家業の会社に貸し付けていた仮払金などの債権は、会社と被相続人が実質的に一体であるとか価値がないといった反対があっても、価値がある限り分割対象とされました。同族会社の株式だけでなく、会社に対する貸付金や未収金も遺産の重要な部分になり得ることを示しています。
一般化できない点
- 寄与分の割合(20パーセント)は、無償と評価できる部分の金額が正確でないこと、金融の利益が算出困難であること、長男RKT氏が受けた利益などを総合した裁量的な判断です。計算式から導かれた数値ではなく、ほかの事案に割合をそのまま当てはめることはできません。
- 長男RKT氏の援助は、合計5億8,000万円という多額の資金提供で、被相続人の土地が差し押さえられ競売が申し立てられた局面での弁済を含んでいました。援助の規模と、被相続人の資産が失われる危険の切迫度が、関連性の判断に影響していると考えられます。
- 長女MNE氏の寄与分が否定された理由には、長女MNE氏自身が抗告審で長男RKT氏の寄与への付加として評価されることを望んだという本件固有の事情が含まれています。また、長女MNE氏は自分の相続分の4分の3を長男RKT氏に譲渡しており、当事者の利害の構図も特殊です。
- 本件の遺産目録は審判本文・決定本文で省略されており、建設会社FMCの株式が遺産に含まれていたかどうか、含まれていたとしてどう評価されたかは分かりません。本件は、同族会社の株式の評価や取得者の決め方を判断した例ではありません。
- 本件は、当時の家事審判規則の下での手続です。現在は家事事件手続法によります。また、現行の民法では、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割には、原則として特別受益と寄与分の規定が適用されないこととされ(民法第904条の3)、相続人ではない親族が特別の寄与をした場合の特別寄与料の制度(民法第1050条)も設けられています。本件の時点ではいずれの規定もありませんでした。これらの規定が本件のような事案にどう適用されるかを、本決定から導くことはできません。
- 原審判は、遺産に含まれない生命保険金は原則として特別受益として持ち戻すのが妥当であるとの一般論を述べていますが、これは本件の審判での説示であり、生命保険金の取扱いについては別途の検討が必要です。
- 抗告審の決定について、その後の不服申立ての有無及び確定は、決定本文からは確認できていません。
家業の会社の株式を含む遺産の分割で、株式の評価額をめぐって争いが生じている方は、次のページを御覧ください。
よくあるご質問
親が経営する会社に貸付けや資金援助をしてきました。会社への援助でも寄与分は認められますか。
認められる余地があります。本件の抗告審の決定は、会社と被相続人が経済的に極めて密着した関係にあり、会社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性がある場合には、被相続人に対する寄与と認める余地があるとし、長男の寄与分を遺産全体の20パーセントと定めました。もっとも、会社が別人格である以上、関連性の立証が必要であり、原審判ではその立証が足りないとして寄与分が否定されています。
援助の見返りに親から土地を買ったり、会社に対する債権を受け取ったりしています。それでも寄与になりますか。
見返りとして得た財産の実質的な価値によります。本件では、原審判は土地を時価より安く買っており、債権も回収不能とはいえないとして寄与を否定しましたが、抗告審の決定は、土地の時価を代金より低く推計し、赤字会社に対する債権の実質的な価値を最大限でも額面の約28パーセントと評価して、その差額を寄与として評価する余地があるとしました。対価の評価が結論を分けた例です。
兄弟が家業の会社を支えたとして寄与分を主張しています。どのような点を反論できますか。
本件では、被相続人自身も会社に多額の資金を入れていたこと、寄与分を主張する相続人が会社や被相続人から資金提供や担保の利用、土地の無償利用などの利益を受けていたこと、援助が自分の事業のためでもあったことが、原審判では寄与を否定する理由とされ、抗告審でも寄与分の額を控えめにする事情として考慮されました。援助と引換えに受けた利益や、援助の目的を具体的に示すことが重要です。
会社を継いで役員として働いてきた相続人の働きは、寄与分になりますか。
会社を実質的に承継した相続人の場合、会社のための働きが自分自身の利益にもつながることから、寄与分として評価されにくい面があります。本件では、長女夫婦が会社の実質的経営者の立場にあることなどから、長女の寄与分は両審級とも認められませんでした。
親が家業の会社に貸していたお金は、遺産分割の対象になりますか。
本件では、会社と被相続人が実質的に一体であり債権に価値がないという反対があったものの、会社が経営を続けていて債権が無価値とはいえないとして、分割の対象とされました。同族会社の株式だけでなく、会社に対する貸付金や未収金も、遺産の範囲を確定する際に確認しておく必要があります。
寄与分が認められると、ほかの相続人の取得額はどう変わりますか。
寄与分は相続開始時の遺産の価格から控除され、残りを相続分で分けたうえで、寄与した相続人に寄与分が加算されます。本件では、長男の寄与分が認められた結果、次女の具体的相続分は原審判の9,132万5,477円から抗告審の決定では7,303万7,380円となり、長男から次女への代償金は6,043万6,707円から5,575万8,962円に減りました(抗告審では土地の評価の一部も改められています)。
関連する記事と御相談のご案内
家業の会社を支えてきた相続人が寄与分を主張する場合も、これを争う場合も、会社の決算書と資金の動き、被相続人の資産と担保の状況、援助の見返りに受けた財産の実質的な価値を整理したうえで、寄与分と特別受益をあわせて検討します。会社の株式や会社に関係する財産を含む遺産分割の進め方は非上場株式の遺産分割・特別受益・寄与分の総合案内で、家業の承継をめぐる相続人の間の対立については相続と事業承継のトラブルの総合案内で、非上場株式の相続全般については非上場株式・自社株式の相続の総合案内で御案内しています。株式の相続・遺産分割に関するその他の裁判例は株式相続・遺産分割の裁判例の解説記事一覧をご覧ください。
株式の相続・遺産分割に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所
03-6435-8418
受付時間 8:00~21:00(土日祝含む)
資料がすべてそろっていない段階でも御相談いただけます。御相談は事前予約制です。秘密は厳守します。
この記事の位置付け
親が創業した家業の会社を資金援助で支えてきた長男と、これを争う次女との間の遺産分割で、会社への援助が被相続人に対する寄与に当たるかが争われた判例を、寄与分の認定と遺産の分け方の観点から解説します。
同族会社の株式や会社に関係する財産を含む遺産分割での寄与分・特別受益の考え方は、非上場株式の遺産分割・特別受益・寄与分の総合案内のページで御案内しています。
具体的な御相談をお考えの皆様へ
同族会社の株式や家業の会社に関係する財産を含む遺産分割で、寄与分や特別受益をめぐって相続人の間で意見が対立している場合の当事務所の取扱内容及び対応の進め方は、次のご案内をご覧ください。