「株価はゼロ円だ」と言われ価値の高い株式を承継されてしまった場合

兄から「会社は債務超過で、株価はゼロだ。だから株式は自分が引き取る。その代わり預貯金は分けよう」と言われ、そのとおりに分けました。ところが、その後も会社は問題なく営業を続け、兄は高額の役員報酬を受け取っております。本当に株価はゼロだったのでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。「株価はゼロ円である」という主張は、多くの場合、純資産に着目する方法により、しかも資産を帳簿の価額のまま評価した結果として導かれております。しかしながら、会社が継続して事業を営み、利益を計上し、役員報酬を支払っているのであれば、収益に着目する方法によれば相応の価額が算定される余地がございます。また、保有する不動産に含み益がある場合には、純資産に着目する方法によっても、帳簿の価額とは異なる結果となります。本記事では、ゼロ評価の主張を検証する視点と、反論の材料を整理いたします。

目次

第1節 「ゼロ円」と説明される理由

1 帳簿の価額による純資産

貸借対照表の純資産の部が小さい、又は負の値となっている場合に、「純資産がないのだから株価はゼロである」と説明されることがございます。もっとも、貸借対照表は取得の価額を基礎として作成されるものでございますので、資産の時価を反映しているとは限りません。

2 配当を行っていないこと

「配当を出していないのだから、株式に価値はない」と説明されることがございます。もっとも、配当を行うか否かは会社の判断でございまして、利益が生じていないことを意味するものではございません。オーナー社長が役員報酬として利益を受け取っている会社では、配当を行わないことがむしろ通例でございます。

3 譲渡できないこと

「譲渡制限があって売れないのだから価値はない」と説明されることがございます。もっとも、譲渡制限株式についても、株式譲渡承認請求により、会社又は指定買取人が買い取ることになる仕組みが定められております(会社法第136条、第138条第1号ハ、第140条)。売却が不可能であることを意味するものではございません。

第2節 ゼロ評価が疑わしい兆候

兆候 意味するところ
後継者が高額の役員報酬を受け取っている 会社に支払の原資があることを示します
会社が長年にわたり営業を継続している 継続的な収益があることを示します
会社が不動産を保有している 帳簿の価額と時価とに差がある可能性がございます
会社が生命保険に加入している 解約による返戻金という資産が存在し得ます
金融機関からの借入れができている 金融機関が事業の継続性を評価していることを示します
後継者が株式の取得に強く固執している 後継者自身が価値を認識している可能性がございます
相続税の申告において株式に一定の評価額が付されている ゼロではないことを示します

これらは、ゼロ評価が誤りであることを直ちに示すものではございません。もっとも、説明の合理性を問う手がかりとなります。

第3節 反論の材料

1 資産の時価

会社が保有する不動産、有価証券、ゴルフ会員権等について、帳簿の価額と時価との差を検討いたします。取得から長期間が経過した不動産については、差が大きくなっていることがございます。なお、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の職務でございます。当事務所は不動産の鑑定評価を行っておりません。

2 収益の状況

直近数期の損益計算書を確認いたします。役員報酬を通常の水準に引き直した場合の利益がどの程度になるかは、重要な検討の対象でございます。

3 簿外の資産及び負債

生命保険の解約による返戻金、退職金の引当ての状況、貸倒れの引当ての状況等を確認いたします。計算書類の附属明細書及び勘定科目の内訳の資料が手がかりとなります。

4 被相続人に対する債務

会社が被相続人から借入れをしていた場合、その債権は遺産でございます。株式の評価がゼロであったとしても、この債権は別に存在いたします。「株価はゼロだ」という説明に紛れて、この債権が見落とされることがございます。

第4節 資料の入手

株主は、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求について、法定の拒絶の事由は定められておりません。持株の割合が要件を満たす場合には、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。

遺産分割が未了である間は、株式は相続人の準共有に属し、権利行使者の指定及び通知がなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。まず権利行使者の指定について協議し、又は遺産分割の手続の中で資料の開示を求めることになります。

このほか、会社の登記事項証明書、決算公告(会社法第440条第1項)、被相続人の確定申告書の控え、預金口座の取引の履歴も資料となります。

第5節 既に分割が成立している場合

遺産分割協議が成立した後に価額の相違が判明したとしても、そのことのみをもって分割の効力が失われるものではございません。もっとも、後継者が会社の実態を認識しながら事実と異なる説明をして分割を成立させたといえる場合には、詐欺による取消し(民法第96条第1項)又は錯誤による取消し(民法第95条第1項)を主張する余地がございます。取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅いたします(民法第126条)。

また、分割の対象とされていなかった遺産(会社に対する貸付金等)が判明した場合には、当該遺産について改めて分割を行うことになります。

第6節 「ゼロ円」との説明に対する反論の組み立て

ゼロ評価の説明には、いくつかの型がございます。型ごとに、確認すべき事項と反論の方向を整理いたします。

相手方の説明 確認すべき事項 反論の枠組み
帳簿上の純資産がゼロ又はマイナスである 資産の帳簿の価額と時価との差、簿外の資産の有無 帳簿の価額は取得の時の価額を基礎とするものでございまして、現在の時価を示すものではございません
配当を一度も行っていない 利益剰余金の額、役員報酬の水準、内部留保の状況 配当を行うか否かは会社の方針により決まるものでございます。利益を役員報酬又は内部留保に振り向けている場合には、価値がないことにはなりません
譲渡制限があり売れないのだから価値がない 定款の定め、会社又は他の株主による取得の可能性 譲渡制限は、換価に手続を要することを意味するにとどまります。会社に対する自己株式の取得の申入れ、譲渡の承認の請求といった手段がございます
税理士がゼロ円と評価している 評価の目的、前提とされた事実、採用された算定の考え方 課税のための申告を目的とする評価である場合には、その意味は限られます。前提とされた資産の価額を確認いたします
債務超過であるから価値がない 債務の内容、代表者からの借入金の有無、返済の実態 代表者からの借入金が計上されている場合には、その取扱いにより純資産の見え方が変わります。債務の内容を個別に確認いたします
繰越欠損金があるから価値がない 直近の事業年度の損益、資産の含み益の有無 過去の損失は、現在の資産の価値及び将来の収益を否定するものではございません

第7節 純資産が乏しく見える場合に確認する勘定科目

「純資産がほとんどない」との説明を受けた場合には、次の科目を一つずつ確認いたします。帳簿の上での見え方と実際の価値とが食い違う典型でございます。

科目 確認する事項 意味するところ
土地 取得の時期及び帳簿の価額 古くから保有する土地は、帳簿の価額が時価を大きく下回ることがございます
建物及び構築物 減価償却の累計額 償却が進み帳簿の価額が僅少となっていても、なお使用に堪え、価値を有することがございます
投資有価証券 銘柄及び現在の時価 取得の時の価額のままとされていることがございます
保険積立金 契約の内容及び解約返戻金の額 解約返戻金の額が帳簿の価額を上回ることがございます
役員に対する貸付金 回収の可能性 資産に計上されていても回収できなければ価値を欠きます。逆に回収し得るのであれば資産でございます
代表者からの借入金 返済の実態及び当事者の認識 返済が予定されていない場合には、その取扱いにより純資産の額の見え方が変わります
役員報酬 水準及び従業員の給与との比較 利益が役員報酬として支出されている場合には、収益力は損益計算書の見た目より高いことがございます
退職給付引当金 計上の有無及びその額 計上の有無により純資産の額が変わります

これらは、貸借対照表及び損益計算書のみでは確認しきれません。勘定科目内訳明細書及び固定資産台帳の開示を求めることが有用でございます。

よくあるご質問

質問1 「債務超過だから株価はゼロ」と言われました。

貸借対照表は取得の価額を基礎として作成されるものでございますので、資産の時価を反映しているとは限りません。また、収益に着目する方法によれば異なる結果となる余地がございます。計算書類等を確認することから始めます。

質問2 相続税の申告ではゼロと書かれていました。

相続税の課税のための評価額は、財産評価基本通達に基づいて算定されるものでございます。遺産分割における評価と目的も基準も異なります。なお、申告の内容につきましては税理士にご確認ください。

質問3 会社が決算書を見せてくれません。

株主であれば、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。遺産分割が未了である場合には、権利行使者の指定が必要となります(会社法第106条本文)。

質問4 もう分割は済んでしまいました。

原則として覆りませんが、後継者が実態を認識しながら事実と異なる説明をしたといえる場合には、詐欺又は錯誤による取消しを主張する余地がございます。また、会社に対する貸付金等、分割の対象とされていなかった遺産が判明した場合には、改めて分割を行うことになります。

質問5 相手方が「税理士がゼロ円と評価した」と述べています。それでも争えますか。

評価の目的、前提とされた事実及び採用された算定の考え方を確認いたします。課税のための申告を目的として作成されたものである場合には、遺産分割における評価の資料としての意味は限られます。前提とされた資産の価額に誤りがあれば、これを指摘いたします。

質問6 会社が資料を出しません。ゼロ円という説明を覆すことはできないのでしょうか。

株主としての権利により資料の開示を求める手続がございます。また、開示に応じないという対応そのものが、説明の信用性を検討する材料となることもございます。まずは開示を求める手続を先行させることを検討いたします。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第106条(共有者による権利の行使)
  • 第136条・第138条第1号(譲渡等の承認の請求)
  • 第140条(会社又は指定買取人による買取り)
  • 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
  • 第440条第1項(貸借対照表等の公告)
  • 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)

民法 第95条第1項(錯誤)、第96条第1項(詐欺又は強迫)、第126条(取消権の期間の制限)

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ご相談の際に、会社の履歴事項全部証明書、直近の計算書類等及びその附属明細書、決算公告、被相続人の確定申告書の控え、遺産分割協議書をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはございません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

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