計算書類の閲覧謄写の請求と会計帳簿の閲覧謄写の請求の違い
第2節 計算書類等の閲覧謄本交付の請求
1 誰が請求し得るか
株主及び債権者は、会社の営業時間内は、いつでも、計算書類等について閲覧の請求、謄本又は抄本の交付の請求等をすることができます(会社法第442条第3項)。持株の要件はありませんので、1株を保有する株主であっても請求することができます。
また、株主でなくとも、会社に対する債権者であれば請求することができます。被相続人が会社に対して貸付金を有していた場合、その債権を相続した相続人は、債権者としての立場からも請求し得ることになります。
親会社社員については、権利を行使するため必要があるときに、裁判所の許可を得て請求することができるものとされております(同条第4項)。
2 対象となる書類
株式会社は、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならないとされております(会社法第435条第2項)。
法務省令により、計算書類には、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表が含まれるものとされております。
附属明細書は、計算書類の記載を補足する重要な事項を示すものであり、実務上、有用な情報を含むことが少なくありません。
3 備置きと保存
会社は、計算書類等を、定時株主総会の日の1週間前(取締役会設置会社にあっては2週間前)の日から5年間、本店に備え置かなければならず(会社法第442条第1項)、支店にはその写しを3年間備え置くこととされております(同条第2項)。
また、会社は、計算書類を作成した時から10年間、これを保存しなければならないとされております(会社法第435条第4項)。
4 拒絶の事由がありません
会社法第442条第3項は、拒絶の事由を定めておりません。したがって、会社が「目的が不当である」「競業者である」といった理由でこの請求を拒むことは、制度上の根拠を欠きます。
正当な理由がないのに閲覧等を拒んだ場合には、過料に処せられることがあります(会社法第976条)。
第3節 会計帳簿等の閲覧謄写の請求
1 持株の要件
総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除きます)の100分の3以上の数の株式を有する株主が、請求することができます(会社法第433条第1項)。
議決権と株式数のいずれかを満たせば足ります。また、複数の株主が共同して請求することにより要件を満たすことも可能です。
2 請求の理由
請求の理由を明らかにしてしなければならないとされております(会社法第433条第1項後段)。裁判所の判断としては、請求の理由は具体的に記載することを要するものの、その理由を基礎付ける事実が客観的に存在することまでを立証する必要はないという考え方が示されております。
3 対象
「会計帳簿又はこれに関する資料」が対象です。会計帳簿としては、総勘定元帳、仕訳帳、補助簿等が挙げられます。「これに関する資料」の範囲については見解が分かれており、契約書、領収書、伝票等がどこまで含まれるかは、実務上、争いの生じやすい部分です。
4 拒絶の事由
会社は、次のいずれかに該当する場合を除き、請求を拒むことができないとされております(会社法第433条第2項)。
| 号 | 拒絶の事由 |
|---|---|
| 第1号 | 権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき |
| 第2号 | 会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき |
| 第3号 | 会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき |
| 第4号 | 閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき |
| 第5号 | 過去2年以内において、閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき |
拒絶の事由の存在は、会社の側が主張立証すべき事柄です。
5 保存の義務
会社は、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならないとされております(会社法第432条第2項)。
第4節 得られる情報の違い
| 知りたい事項 | 計算書類等で分かること | 会計帳簿等で分かること |
|---|---|---|
| 会社の純資産の額 | 貸借対照表に記載されます | 内訳を確認できます |
| 売上高及び利益 | 損益計算書に記載されます | 取引先別、部門別の内訳 |
| 役員報酬 | 事業報告又は注記に総額が記載されることがあります | 個別の支給の記録 |
| 会社と経営者個人との取引 | 注記に記載されることがあります | 個々の取引の内容 |
| 会社が保有する不動産 | 貸借対照表に金額が記載されます | 物件ごとの取得の経緯 |
| 貸付金及び借入金 | 貸借対照表に記載されます | 相手方、条件、返済の状況 |
| 交際費等の支出 | 損益計算書に集計されます | 個々の支出の内容 |
株式の価値を検討するためには、まず計算書類等により全体像を把握し、疑義がある項目について会計帳簿等により掘り下げるという順序が合理的です。
第5節 実務上の順序
| 段階 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 第1 | 名義書換により株主としての地位を確保いたします | 会社法第133条第2項 |
| 第2 | 定款の閲覧又は謄本の交付を請求いたします | 会社法第31条第2項 |
| 第3 | 株主総会の議事録の閲覧又は謄写を請求いたします | 会社法第318条第4項 |
| 第4 | 計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求いたします | 会社法第442条第3項 |
| 第5 | 持株が100分の3以上であれば、会計帳簿等の閲覧又は謄写を請求いたします | 会社法第433条第1項 |
| 第6 | 必要に応じ、検査役の選任の申立てを検討いたします | 会社法第358条第1項 |
1 なぜ計算書類等から着手するのか
第1に、要件が緩やかであり、拒絶の事由がないため、会社が応じないこと自体が問題として明確になります。第2に、会計帳簿等の請求における「請求の理由」を具体的に記載するためには、計算書類等により疑義のある項目を特定しておくことが有用です。
2 100分の3に満たない場合
会計帳簿等の閲覧謄写の請求はできませんが、計算書類等、株主総会の議事録、定款、株主名簿については請求することができます。また、他の株主と共同して請求することにより100分の3の要件を満たし得ないかを検討することになります。
3 準共有の場合
遺産分割が未了の間、株式は相続人の準共有に属します。共有者は、権利を行使する者1人を定め、会社に通知しなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。持株の割合の計算は、準共有の株式全体について行われることになります。
具体的な進め方は、株主構成、遺産分割の状況、会社との従前の関係等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
第6節 確認すべき期限と資料
1 期限
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 計算書類等の備置き(本店) | 定時株主総会の日の1週間前(取締役会設置会社は2週間前)から5年間 | 会社法第442条第1項 |
| 計算書類等の写しの備置き(支店) | 3年間 | 会社法第442条第2項 |
| 計算書類等の保存 | 作成した時から10年間 | 会社法第435条第4項 |
| 会計帳簿等の保存 | 会計帳簿の閉鎖の時から10年間 | 会社法第432条第2項 |
| 株主総会の議事録の備置き | 株主総会の日から10年間 | 会社法第318条第2項 |
| 相続税の申告 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月 | 相続税法第27条第1項 |
2 お手元でご確認いただきたい資料
- 株主名簿の写し又は名義書換の請求に関する書面
- 会社から届いた書面(招集の通知、配当金の支払通知書等)
- 会社の登記事項証明書
- 被相続人の確定申告書の控え
- 官報又は日刊新聞紙における決算公告
- 既に入手している計算書類
第7節 弁護士にご相談いただく意味
制度の違いを理解しないまま請求を行いますと、会社に反論の機会を与えることになります。例えば、計算書類等の請求に対して会社が「競業者だから応じられない」と回答した場合、これは制度上の根拠を欠く回答です。しかし、請求をした側がその点を指摘できなければ、そのまま押し切られてしまいます。
逆に、100分の3に満たない持株で会計帳簿等の閲覧を請求すれば、要件を欠くことは明らかですので、会社に「不当な請求である」という主張の材料を与えることになります。
適切な順序で、適切な制度に基づいて請求を行うことが、結果として最も早い道となります。当事務所は、株主及び相続人の側のお立場で、この設計と実行をご一緒に行っております。
よくあるご質問
質問1 1株しか持っていません。何を請求できますか。
定款(会社法第31条第2項)、株主名簿(会社法第125条第2項)、株主総会の議事録(会社法第318条第4項)、計算書類等(会社法第442条第3項)については、持株の要件なく請求することができます。会計帳簿等の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)には、100分の3以上の保有が必要です。
質問2 計算書類の請求にも理由が必要ですか。
会社法第442条第3項は、請求の理由を明らかにすることを求めておりません。これに対し、会計帳簿等の閲覧謄写の請求については、請求の理由を明らかにしてしなければならないとされております(会社法第433条第1項後段)。
質問3 両方を同時に請求してよいですか。
制度上、同時に請求することは妨げられません。もっとも、会計帳簿等の請求における「請求の理由」を具体的に記載するためには、計算書類等により疑義のある項目を特定しておくことが有用です。
質問4 他の相続人と合わせれば100分の3を超えます。
複数の株主が共同して請求することにより、合算して要件を判断することができるものと解されております。もっとも、遺産分割が未了の場合には、準共有の株式について権利行使者を定める必要があります(会社法第106条)。
質問5 附属明細書とは何ですか。
計算書類の記載を補足する重要な事項を示す書類であり、計算書類等の一部として閲覧等の対象となります(会社法第435条第2項、第442条第3項)。実務上、有用な情報を含むことが少なくありませんので、請求の対象に含めることをご検討ください。
本記事の根拠条文
会社法
- 第31条第2項(定款の閲覧等)
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第125条第2項(株主名簿の閲覧等)
- 第133条第2項(株主名簿記載事項の記載等の請求)
- 第318条第2項・第4項(株主総会の議事録)
- 第358条第1項(業務の執行に関する検査役の選任)
- 第432条第2項(会計帳簿等の保存)
- 第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧等の請求及び拒絶事由)
- 第435条第2項・第4項(計算書類等の作成及び保存)
- 第442条第1項から第4項まで(計算書類等の備置き、閲覧等、親会社社員による請求)
- 第976条(過料に処すべき行為)
相続税法 第27条第1項(相続税の申告書の提出期限)
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送客先ランディングページ /sharesozoku_kessansho_kaiji/(会社が決算書類を見せてくれず株価も相続税額も分からずお困りの方へ)
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