国際相続(渉外相続)の準拠法と手続 海外資産・非上場株式を含む相続の実務

被相続人又は相続人のいずれかが外国に居住しておられる、遺産の一部が外国にある、被相続人が外国の国籍を有していた。このような事情がある相続を、実務では国際相続又は渉外相続と申します。当事務所には、こうした事案の御相談が年々増えております。

国際相続が難しいのは、手続が煩雑であるからというだけではありません。そもそもどの国の法律によって相続の内容が決まるのかを、最初に確定しなければならないという点に、通常の相続とは異なる困難があります。この判断を誤りますと、相続分の計算も、遺留分の有無も、遺産分割協議の当事者の範囲も、すべてが動いてしまいます。

さらに、遺産に非上場株式が含まれている場合には、株主名簿の名義書換、準共有の状態にある株式についての権利行使者の指定、株式の評価、そして会社の支配権の帰趨という、当事務所が日頃取り扱っております問題が重なります。海外に居住する相続人がいることによって、これらの手続が長期にわたって止まってしまう事案が少なくありません。

本記事では、国際相続の実務を、準拠法の判断から、海外に居住する相続人との手続、外国に所在する遺産の把握、相続税の取扱い、非上場株式に特有の問題、そして遺産分割の進め方まで、順に整理いたします。

目次

国際相続とは、どのような場合をいうのか

 渉外的な要素が1つでもあれば国際相続です

国際相続という言葉に定義があるわけではありません。実務上は、次のいずれかの事情がある相続を国際相続として扱います。第1に、被相続人が外国の国籍を有していた場合。第2に、相続人のうちに外国の国籍を有する者又は外国に居住する者がいる場合。第3に、遺産の全部又は一部が外国に所在する場合。第4に、被相続人が外国に居住していた場合です。

これらのうち1つでも当てはまれば、準拠法の検討を要します。日本人同士の相続であっても、相続人の1人が仕事の関係で海外に居住しているというだけで、遺産分割協議書の作成方法、必要書類、相続税の申告の取扱いが変わってまいります。

 非上場株式の相続では、国際相続の問題が見過ごされやすい

同族会社の株式が遺産に含まれる事案では、当事者の関心が会社の経営に向かいますので、相続人の1人が海外に居住しているという事実が、当初は重視されないことがあります。しかし、遺産分割協議は相続人全員の合意によらなければ成立しませんので、海外に居住する相続人が1人でもいれば、その方の署名と証明書類を得なければ、株式の名義を移すことができません。

結果として、会社の株式が長期間にわたって相続人全員の準共有の状態に置かれ、株主総会における議決権を行使することができないという事態が生じます。これは会社の経営そのものを止めてしまいます。

どの国の法律によるかを決めます

 相続は被相続人の本国法によります

日本の裁判所において相続の準拠法を判断する根拠は、法の適用に関する通則法第36条です。同条は「相続は、被相続人の本国法による。」と定めています。相続人の国籍でも、遺産の所在地でもなく、被相続人の国籍を基準とする点が要点です。

したがいまして、被相続人が日本人であれば、たとえ遺産の大半が外国にあり、相続人の全員が外国に居住していても、相続の準拠法は日本法となります。相続人の範囲、法定相続分、遺留分、遺産分割の方法は、いずれも日本の民法によって定まります。

反対に、被相続人が外国籍であった場合には、その国の法が準拠法となります。被相続人が重国籍であった場合には、通則法第38条第1項により、その国籍を有する国のうち常居所を有する国の法、それがないときは最も密接な関係がある国の法によります。ただし、日本の国籍を有していたときは日本法によります

 相続統一主義を採る国と相続分割主義を採る国があります

ここで注意を要しますのが、国によって相続の考え方そのものが異なるという点です。

相続統一主義とは、動産であるか不動産であるかを問わず、遺産の全体を1つの準拠法によって処理する考え方です。日本、ドイツ、イタリア、韓国などがこれを採用しています。

相続分割主義とは、不動産については所在地の法により、動産については被相続人の住所地の法によるという考え方です。アメリカ合衆国の各州、イギリス、フランス、中華人民共和国などがこれを採用しています。

考え方 内容 採用する国の例
相続統一主義 遺産の全体を1つの法によって処理する 日本、ドイツ、イタリア、大韓民国
相続分割主義 不動産は所在地法、動産は被相続人の住所地法による アメリカ合衆国の各州、イギリス、フランス、中華人民共和国

この違いは、単なる理論上の相違ではありません。日本に所在する不動産について、どの国の法が適用されるかという結論が変わりますので、遺産分割の実務に直接に影響します。

 反致により日本法に戻る場合があります

法の適用に関する通則法第41条は、当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による旨を定めています。これを反致と申します。

例えば、被相続人がアメリカ合衆国の国籍を有していた場合を考えます。通則法第36条により本国法であるアメリカ合衆国の州法が準拠法となりますが、その州法が相続分割主義を採っており、不動産については所在地法によるとしているとします。この場合、日本に所在する不動産については、反致により日本法が適用されることとなります

他方、同じ相続における動産については、被相続人の住所地法が適用されますので、被相続人がアメリカ合衆国に住所を有していたのであれば、その州法によることとなります。すなわち、1つの相続の中で、財産の種類ごとに異なる法が適用されるという事態が生じます。相続人の範囲も相続分も、財産ごとに別々に検討しなければなりません。

この判断は、外国法の内容の調査を伴いますので、法律の専門家であっても容易ではありません。金額の大きい事案では、当該外国の法律家の意見書を取得することもあります。

 遺言の方式は別の法律によります

遺言が残されている場合、その方式が有効かどうかは、相続の準拠法ではなく、遺言の方式の準拠法に関する法律によって判断されます。同法は、遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約を国内法化したものです。

同法第2条によれば、遺言は、次のいずれかの法に適合していれば、方式に関して有効となります。行為地法、遺言者が遺言の成立又は死亡の当時に国籍を有した国の法、遺言者が遺言の成立又は死亡の当時に住所を有した地の法、遺言者が遺言の成立又は死亡の当時に常居所を有した地の法、そして不動産に関する遺言についてはその不動産の所在地法です。

選択肢が広く定められておりますので、外国で作成された遺言が方式の点で無効となることは多くありません。もっとも、遺言の内容そのものの効力、すなわち遺言によって処分することができる範囲や遺留分との関係は、相続の準拠法によって判断されますので、方式が有効であることと内容が有効であることとは、別に検討する必要があります。

海外に居住する相続人との手続

 まず所在と連絡先を確認します

実務上、最初の関門は、海外に居住する相続人の所在の把握です。日本の戸籍からは国外における住所が分かりません。親族を通じた連絡、被相続人が保管していた書簡、外務省を通じた所在調査などの方法によることとなります。

連絡がつかない相続人がいる場合には、不在者財産管理人の選任(民法第25条)又は失踪宣告(民法第30条)を検討することとなります。連絡がつかないことを理由として、その相続人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。除外して作成した遺産分割協議書は無効です。

 印鑑登録証明書に代わるものが署名証明です

遺産分割協議書には、相続人が実印を押印し、印鑑登録証明書を添付するのが日本の実務です。しかし、海外に居住し日本の住民登録を有しない相続人は、印鑑登録をすることができません。

そこで用いるのが、在外公館が発行する署名証明です。日本の大使館又は総領事館において、領事の面前で遺産分割協議書に署名し、その署名が本人のものであることを証明していただくものです。証明の方式には、遺産分割協議書そのものに証明書を綴り合わせる形式と、単独の証明書を発行する形式とがありますが、不動産の相続登記に用いる場合には、書類を綴り合わせる形式によることが確実です。

手続には本人が在外公館に出頭する必要があります。公館まで遠方である場合には、往復に数日を要することもありますので、日程には余裕を見ておく必要があります。

 住民票に代わるものが在留証明です

相続登記その他の手続では、相続人の住所を証明する書類として住民票を求められます。海外に居住する相続人については、これに代わるものとして在外公館が発行する在留証明を用います。当該国に3か月以上滞在していることなどの要件がありますので、事前に公館に確認する必要があります。

なお、海外に居住していても日本に住民登録を残している場合には、住民票を取得することができます。転出届を提出しているかどうかによって取扱いが変わりますので、まずこの点を確認してください。

 相続放棄の期間は海外に居住していても進行します

相続の放棄又は限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません(民法第915条第1項)。海外に居住していることは、この期間を当然に延長する理由となりません

もっとも、遺産の内容の調査に時間を要する場合には、家庭裁判所に対して期間の伸長を申し立てることができます。国際相続では遺産の把握に時間がかかりますので、この申立てを検討すべき事案が多くあります。申述の手続自体は、郵送によって行うことができます。

外国に所在する遺産の把握と評価

 不動産

外国に所在する不動産については、当該国の登記制度又は権原証書の制度に従って権利関係を確認します。国によっては日本のような登記制度がなく、権原保険の記録によって権利を確認する場合もあります。評価につきましては、現地の不動産鑑定人による評価を取得することが通例です。

相続税の申告における評価は、財産評価基本通達に定める方法によることができない場合には、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価することとなります。現地の鑑定評価書がその資料となります。

 預金

外国の金融機関の預金は、被相続人の死亡が判明した時点で凍結されるのが通常です。払戻しを受けるためには、当該国の手続に従う必要があり、日本の遺産分割協議書をそのまま提出しても受け付けられないことがほとんどです。現地の弁護士に依頼して、当該国の手続を進めなければならない場合が多くあります。

共同名義の口座がある場合には、当該国の法により、名義人の一方が死亡したときに生存者に権利が帰属する取扱い(生存者受取権)が定められていることがあります。この場合、その口座の資金は相続財産に含まれないという結論になり得ますが、日本の相続税の課税においては別途の判断がなされ得ますので、注意を要します。

 証券

外国の証券会社に開設された口座についても、預金と同様に、当該国の手続によることとなります。上場株式については市場価格により評価しますが、外貨建てである場合には、相続開始の日における対顧客直物電信買相場によって円に換算します。

 プロベートを要する国では別の手続が必要です

アメリカ合衆国、イギリス、オーストラリアなどの英米法圏の国では、プロベートと呼ばれる裁判所の手続を経なければ、遺産を相続人に分配することができません。被相続人の遺産はいったん遺産財団に帰属し、裁判所が選任した遺産管理人又は遺言によって指定された遺言執行者が、債務を弁済したうえで残余を分配するという構造です。

プロベートには、1年から3年程度の期間と、遺産の額に応じた費用を要することが少なくありません。日本における遺産分割協議とは別に、現地でこの手続を進める必要があります。生前の対策としては、共同名義への変更、受益者指定、生前信託の利用などによってプロベートを回避する方法が用いられますが、いずれも日本の相続税の課税関係に影響しますので、両国の専門家による検討を要します。

相続税の納税義務者の区分

 どの範囲の財産に日本の相続税が課されるか

日本の相続税がどの範囲の財産に課されるかは、財産を取得した者の住所及び国籍、並びに被相続人の住所によって決まります。相続税法第1条の3は、納税義務者を次のように区分しています。

区分 該当する者 課税される財産の範囲
居住無制限納税義務者 財産を取得した時に日本国内に住所を有する個人(一時居住者である場合の例外があります) 国内及び国外のすべての財産
非居住無制限納税義務者 日本国内に住所を有しないが、日本国籍を有し、かつ相続の開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがある個人等 国内及び国外のすべての財産
制限納税義務者 上記以外の者で、日本国内にある財産を取得した個人 日本国内にある財産のみ

要点は、日本国籍を有する者が海外に移住しただけでは、直ちに制限納税義務者とはならないという点です。相続の開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがあれば、非居住無制限納税義務者として、国外の財産についても日本の相続税が課されます。

 外国税額控除により二重課税を調整します

国外にある財産について、その所在する国の相続税に相当する税を課された場合には、相続税法第20条の2により、日本の相続税額から一定の金額を控除することができます。これを外国税額控除と申します。

控除することができる金額は、外国において課された税額と、日本の相続税額に国外財産の価額が全財産の価額に占める割合を乗じて計算した金額とのいずれか少ない金額です。外国で課された税額の全額が当然に控除されるわけではありませんので、税額の見積りに当たっては注意を要します。

なお、外国の税が相続税に相当する税であるかどうかの判断を要する場合があります。遺産の総額に対して課される遺産税と、取得した者ごとに課される遺産取得税とでは制度の構造が異なりますが、いずれも相続税に相当する税として扱われるのが通例です。

 納税管理人の届出

相続人のうちに日本国内に住所を有しない者がいる場合には、その者は納税管理人を定めて所轄の税務署長に届け出る必要があります(国税通則法第117条)。納税管理人は、申告書の提出、税額の納付、還付金の受領などを本人に代わって行います。

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。国際相続では資料の収集に時間を要しますので、この期限は決して余裕のあるものではありません。遺産分割が調わない場合には、法定相続分によって申告したうえで、分割後に更正の請求又は修正申告を行うこととなります。

非上場株式が遺産に含まれる場合の特有の問題

 株主名簿の名義書換

株式を相続によって取得した者は、会社に対して株主名簿の名義書換を請求します。名義書換を経なければ、会社に対して株主であることを主張することができません(会社法第130条第1項)。海外に居住する相続人がいる場合には、名義書換の請求に必要な書類の収集に時間を要します。

また、株式に譲渡制限が付されている場合でも、相続は一般承継ですので、会社の承認を要しません。この点を誤解して名義書換を拒む会社がありますが、法律上の根拠を欠く対応です。

 準共有の状態と権利行使者の指定

遺産分割が調うまでの間、株式は相続人全員の準共有の状態にあります。この状態では、相続人の中から権利行使者を1人定めて会社に通知しなければ、株主としての権利を行使することができません(会社法第106条)。権利行使者の指定は、持分の価格に従いその過半数をもって決するとするのが判例の立場です。

海外に居住する相続人がいる場合、この指定の手続を進めること自体が困難となります。結果として、株主総会において議決権を行使することができず、会社の意思決定が滞るという事態が生じます。会社の経営に関わる相続人にとっては、これが最も切実な問題となります。

 株式の評価

非上場株式の評価は、財産評価基本通達に従い、会社の規模の区分に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式又はこれらの併用方式によります。同族株主以外の株主が取得した株式については配当還元方式によります。

国際相続に特有の問題として、対象会社が外国に子会社又は不動産を保有している場合の評価があります。純資産価額方式による場合、外国にある資産の評価が必要となり、現地の評価資料を取得しなければなりません。また、外貨建ての資産及び負債の換算も要します。

 会社の支配権の帰趨

同族会社の株式の相続では、誰がどれだけの株式を取得するかによって、会社の支配権が決まります。海外に居住する相続人が法定相続分に相当する株式を取得する場合、国内で経営に当たる相続人の持株比率が過半数を割り込むことがあります。

この場合、経営に当たる相続人は、株主総会の普通決議を単独で成立させることができなくなり、役員の選任すら他の相続人の同意を要することとなります。遺産分割の交渉においては、株式の配分と他の遺産の配分とを組み合わせて、経営の継続に必要な議決権を確保することが最も重要な検討事項となります。

 相続人等に対する売渡しの請求

定款に定めがある場合、会社は、相続によって株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求することができます(会社法第174条)。この請求は、相続があったことを知った日から1年以内に行わなければなりません(会社法第176条第1項)。

海外に居住する相続人にとっては、この請求を受けたこと自体を認識するのが遅れがちです。請求を受けた場合、売買価格の決定の申立ては請求があった日から20日以内にしなければならず(会社法第177条第2項)、この期間を徒過しますと、価格について争うことができなくなります。期間の管理を誤ると回復が困難ですので、直ちに弁護士に御相談ください。

国外財産調書と国外転出時課税制度

 国外財産調書

その年の12月31日において、価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する居住者は、国外財産調書を提出しなければなりません。提出義務があるにもかかわらず提出しなかった場合、又は記載を欠いた場合には、その財産に関して申告漏れがあったときの過少申告加算税等が5パーセント加重されます。反対に、適正に記載していた場合には5パーセント軽減されます。

相続の場面では、被相続人が国外財産調書を提出していたかどうかが、国外にある遺産を把握するための重要な手掛かりとなります。被相続人の所得税の申告書とともに、必ず確認していただきたい資料です。

 国外転出時課税制度

所得税法第60条の2及び第60条の3は、いわゆる国外転出時課税制度を定めています。相続の場面で問題となるのは、同法第60条の3が定める国外転出(相続)時課税です。

これは、有価証券等の対象資産の価額の合計額が1億円以上である居住者が死亡し、その相続によって非居住者である相続人が対象資産を取得した場合に、被相続人がその資産を譲渡したものとみなして、含み益に所得税を課すという制度です。実際には売却しておらず現金が入っていないにもかかわらず課税されますので、納税資金の手当てが問題となります。

非上場株式もこの対象資産に含まれます。同族会社の株式の評価額が大きい事案では、海外に居住する相続人が株式を取得することによって、この課税が生じ得ます。被相続人の準確定申告において申告することとなり、その期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。

納税の猶予の特例があり、納税管理人の届出等の要件を満たせば5年(延長により10年)の猶予を受けることができます。また、相続人の全員が申告期限までに帰国した場合などには、課税を取り消すことができる場合があります。遺産分割の内容によって課税の有無が変わりますので、分割の方針を決める前に検討すべき事項です

遺産分割の進め方と裁判所の手続

 協議による分割

相続人の全員が合意することができるのであれば、協議によって分割することが最も早く、費用もかかりません。海外に居住する相続人がいる場合には、電子的な方法による事前の協議によって内容を固めたうえで、最後に署名証明の手続を行うという進め方が現実的です。

遺産分割協議書は、日本語で作成し、必要に応じて訳文を添えるのが通例です。相続人が日本語を解しない場合には、内容を正確に理解していただいたうえで署名を得なければ、後日、錯誤を理由として効力を争われるおそれがあります。

 家庭裁判所の管轄

協議が調わない場合には、家庭裁判所に遺産の分割の調停又は審判を申し立てることとなります。国際的な要素がある事案における日本の裁判所の管轄権は、家事事件手続法第3条の11に定められています。

同条によれば、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には居所が日本国内にあるとき、居所もない場合又は知れない場合には相続開始の前に日本国内に住所を有していたときに、日本の裁判所が管轄権を有します。また、当事者が日本の裁判所に申立てをすることができる旨の合意をしたときにも管轄権が認められます。

被相続人が長く海外に居住していた事案では、日本の裁判所に管轄権が認められないことがありますので、申立てに先立って確認を要します。

 外国の裁判所の裁判の効力

外国の裁判所において相続に関する裁判がされた場合、その効力が日本において認められるかどうかは、家事事件手続法第79条の2により、民事訴訟法第118条の規定を準用して判断されます。すなわち、外国裁判所の裁判権が認められること、送達を受けたこと、公の秩序に反しないこと、相互の保証があることが要件となります。

もっとも、日本に所在する不動産の登記を移転するためには、外国の裁判の承認だけでは足りず、執行判決を得るなどの手続を要する場合があります。実務上は、日本に所在する遺産については日本の手続によって処理し、外国に所在する遺産については当該国の手続によって処理するという役割分担を採ることが多くあります。

国際相続において、まず確認していただきたい事項

第1に、被相続人の国籍と、最後の住所地です。準拠法の出発点となります。第2に、相続人の全員について、国籍、住所、及び日本の住民登録の有無です。第3に、遺産の所在地を国ごとに整理することです。第4に、被相続人が国外財産調書を提出していたかどうかです。第5に、遺産に非上場株式が含まれる場合には、その評価額と、定款における相続人等に対する売渡しの請求の定めの有無です。第6に、相続の開始の日と、相続税の申告期限、相続放棄の熟慮期間、売渡しの請求の期間の各期限です。

よくある御質問

 相続人の1人が海外におり、連絡がつきません。その者を除いて遺産分割をすることはできますか

できません。遺産分割協議は相続人の全員によらなければ成立せず、1人でも欠けた協議は無効です。連絡がつかない場合には、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立て、選任された管理人が権限外行為の許可を得たうえで協議に参加するという方法によります。生死が7年間明らかでない場合には、失踪宣告の申立てを検討します。

 被相続人が外国籍でした。日本にある不動産はどの国の法律で処理されますか

まず被相続人の本国法を確認します。その国が相続分割主義を採っており、不動産について所在地法によるとしている場合には、反致により日本法が適用されます。相続統一主義を採る国であれば、その国の法が日本にある不動産にも適用されます。いずれであるかによって相続人の範囲も相続分も変わりますので、外国法の内容の調査から始める必要があります。

 海外に居住する相続人が、会社の株式を相続することになりました。何に注意すべきですか

3つの点に注意を要します。第1に、株式の評価額が大きい場合、国外転出(相続)時課税により被相続人の準確定申告において所得税が課される可能性があります。第2に、遺産分割が調うまでは株式が準共有となり、権利行使者を定めなければ議決権を行使することができません。第3に、定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合、会社から株式の買取りを請求される可能性があり、その場合の期間の制限が極めて短いことです。

 外国にある預金について、日本の遺産分割協議書を提出すれば払い戻せますか

多くの国では、これだけでは払戻しを受けることができません。当該国の裁判所の手続、又は現地の金融機関が定める手続に従う必要があります。英米法圏の国ではプロベートを要することが通例です。現地の弁護士に依頼して手続を進めることになりますので、費用と期間を見込んでおく必要があります。

 相続税の申告期限に間に合いそうにありません

相続税の申告期限は延長されないのが原則です。遺産分割が調わない場合には、法定相続分によって取得したものとして申告し、納税をしたうえで、分割が調った後に更正の請求又は修正申告を行います。この場合、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、配偶者の税額軽減及び小規模宅地等の特例を分割後に適用することができます。この書面の添付を失念すると回復が困難ですので、必ず御確認ください。

おわりに

国際相続は、準拠法の判断、外国における手続、日本の相続税の取扱いという3つの領域にまたがります。加えて、遺産に非上場株式が含まれる場合には、会社の支配権と経営の継続という、待つことのできない問題が重なります。

国際相続において最も重要なのは、期限の管理です。相続放棄の熟慮期間は3か月、被相続人の準確定申告は4か月、相続税の申告は10か月、相続人等に対する売渡しの請求は1年、そして遺留分侵害額の請求は1年です。海外との往復に時間を要することを考えますと、実際に使える時間はこれよりはるかに短いのが実情です。

当事務所は、非上場株式の相続に関するトラブルを中心に取り扱っており、海外に居住する相続人が関わる事案も数多く手掛けてまいりました。準拠法の検討、在外公館における手続の段取り、現地の専門家との連携、そして会社の支配権をめぐる交渉まで、一体として対応いたします。御相談は早ければ早いほど採り得る手段が多く残りますので、お早めに御相談ください。

なお、日本に所在する不動産への投資という観点から外国人投資家の立場を整理した記事として、外国人投資家が日本の不動産に投資するメリットとは?デメリットや投資の注意点も解説も御用意しております。海外に居住される相続人が日本の不動産を承継される場合の参考になりますので、あわせて御覧ください。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

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