持株会社を活用した節税方法とは?メリットや事業承継対策になる理由も解説
持株会社の設立は、企業の経営戦略の一環として多くのメリットをもたらしますが、その中でも特に注目されるのが、節税効果と事業承継対策です。
持株会社とは、他の会社の株式を保有し、その経営を管理・支配するための会社を指します。近年、持株会社を設立する企業が増えている背景には、税務上の優遇措置や事業承継の円滑化といったメリットが大きく影響しています。
本記事では、持株会社を活用した具体的な節税方法について詳しく解説します。さらに、持株会社を設立することで得られるその他のメリットや、事業承継対策としての有効性についても紹介します。
持株会社とは
持株会社とは、他の会社の株式を保有し、その経営を管理・支配するための会社を指します。持株会社は、グループ企業全体の戦略的な運営や管理を効率化するための重要な役割を果たします。持株会社の設立は、節税効果だけでなく、経営の効率化や節税、事業承継の円滑化など、さまざまなメリットをもたらします。
持株会社には、純粋持株会社と単純持株会社の2つの形態があります。それぞれの特徴と違いについて説明します。
純粋持株会社は、他の企業の株式を保有し、その経営を支配することを主たる事業とする会社です。純粋持株会社自身は、具体的な事業活動を行わず、グループ企業の管理や経営戦略の立案に専念します。
一方の単純持株会社は、他の企業の株式を保有すると同時に、自らも事業活動を行う会社です。事業活動と経営管理の両方を行うため、幅広い経営戦略を実現できます。
持株会社の設立による節税効果
持株会社の設立によって節税できる税金の種類と、その節税効果について解説します。
節税対象の税金
持株会社の設立によって節税効果が期待できる税金は、相続税や贈与税、法人税です。
まず相続税は、基本的に親の死亡時にその財産を受け継いだ配偶者や子供が支払います。会社の視点では、経営者が死亡した際に、後継者が引き継いだ会社内の財産に対して相続税が発生します。
相続税は会社の財産(株式や不動産など)の多さに比例してその金額も上がり、規模が大きくて業績が良い会社ほど相続税が高くなる仕組みです。
しかし、持株会社を設立して、その保有している自社の株式を移転させることで、相続する財産が減少します。その後、株式ではなく持株会社を後継者に引き継げば、節税効果が期待できるという仕組みです。
また、事業承継にあたって、後継者に株式を贈与すれば高額な贈与税が発生することになりますが、後継者ではなく持株会社に株式を譲渡したうえで、持株会社を後継者に引き継げば、贈与税の発生を回避できます。
このように、持株会社を設立すれば、後継者個人への税負担を軽減するメリットが得られるのです。
そのほか、持株会社を設立すると、親会社の所得を子会社の所得と合算して会計処理できる「連結納税制度」を利用できるため、これが法人税の節税につながります。連結納税制度の仕組みおよび節税効果については、事項で詳しく解説します。
連結納税制度の仕組みと節税効果
連結納税制度は、親会社とその子会社群が個別に税金を計算・納付するのではなく、グループ全体として統一的に税金を計算し納税する制度です。
連結納税制度では、親会社と子会社の利益と損失を合算できるため、個別に申告するよりも法人税を低く抑えることができます。
例えば、親会社が3,000万円の黒字で、子会社が3,000万円の赤字の場合を考えてみましょう。
別々に申告する場合、赤字の子会社には法人税がかかりませんが、親会社は23.20%の税率で696万円の法人税を支払う必要があります。しかし、連結納税制度を利用すると、親会社の黒字と子会社の赤字が相殺されるため、課税所得がなくなり法人税は発生しません。
さらに、連結納税制度には、繰越欠損金の活用という大きな利点もあります。繰越欠損金とは、過去の損失を将来の利益から差し引くことができる仕組みです。連結納税制度では、この繰越欠損金をグループ全体で共有し、全体の課税所得を減らすことができます。これにより、将来的な法人税の負担を大幅に軽減することが可能です。
持株会社を設立するメリット
節税面以外にも、持株会社を設立するメリットはさまざま存在します。持株会社を設立する代表的なメリットを4つピックアップし、それぞれ順番に詳しく解説します。
経営資源を最適化できる
持株会社設立の最大の利点は、経営資源の最適化です。特に「人材、物資、資金、情報」という4つの主要な経営資源を最大限に活用することが可能になります。
持株会社設立により、一つの企業を複数の事業に分割し、それをホールディングスの傘下に置くことで、組織がスリム化され、経営資源をより効率的に活用できます。
具体的なメリットは以下のとおりです。
- 各事業部が独立した会社となるため、経営判断や意思決定が迅速に行える
- 各事業部門を独立した企業として可視化することで、状況の把握が容易になる
- 不採算部門を切り離すことで、好調な事業の財務状況が改善され、資金調達がしやすくなる
- 新規事業への参入が、新会社の設立によってスムーズに進む
「会社が大きくなると、動きが鈍くなる」といった悩みを抱える経営者もいますが、ホールディングス化はその解決策となります。事業の規模をそのままに、経営資源を最適化し、機動力を高めることがホールディングス化の目的です。
分社化によるリスク分散が図れる
持株会社の設立によって、一つの企業にすべてのリスクを集中させるのではなく、複数の子会社に分散することで、全体への影響を最小限に抑えることができます。現代の企業は多くのリスクに直面しており、その重要性はますます高まっています。
具体的なリスクの例は以下のとおりです。
- 業績の悪化
- 製品の不具合
- 行政からの指導
- SNSでの炎上
- 個人情報の漏洩
- 感染症による業務停止
- 自然災害や事故
特にインターネット上での情報の拡散力は強力で、たとえ誤報であっても風評被害やブランドイメージの低下など、実際の被害が発生することがあります。
このようなリスクに対応するためには、一社に集中した経営体制を見直し、事業を分社化してホールディングスを設立することが有効です。これにより、リスクを効果的にヘッジすることができます。
株式集約を円滑に遂行できる
相続による事業承継では、複数の相続人がいる場合、後継者以外にも会社の株式が分配される可能性があり、これが大きなデメリットとなります。株式が分散すると経営権を集中させることが難しくなり、事業承継後の会社運営に混乱を招くおそれがあります。
しかし、持株会社を活用した事業承継では、持株会社が株式を取得するため、後継者に経営権を集約することが可能です。これにより、事業承継後の混乱を防ぎ、スムーズな経営移行が実現できます。
事業承継における後継者育成を進められる
持株会社を設立することで、複数の子会社を持てるようになり、社長や役員などのポストを増やすことができます。これにより、経営権を段階的に後継者に移譲することが可能となります。
後継者は実際の経営経験を積みながら、徐々に責任を引き継ぐことができるため、スムーズな事業承継が実現します。
持株会社を設立するデメリット
持株会社の設立には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも存在します。持株会社を設立する前に、デメリットも十分に理解し、慎重に検討することが重要です。持株会社を設立する際に考慮すべき主なデメリットを4つピックアップして詳しく説明します。
節税効果を得るためには連結納税制度の継続適用が欠かせない
連結納税制度を利用して法人税を節約するためには、制度を継続して適用することが必要です。
やむを得ない事情がない限り、一度適用した連結納税制度を途中でやめることはできません。ただし、グループ通算制度が開始される年度には、特例措置により連結納税制度の適用を停止することが認められます。この場合、適用を停止する理由が正当であることが求められます。
マネジメントの難易度が上昇する
一つの会社を経営するのと、グループ全体を統括するのとでは、求められるスキルや視点が異なります。例えば、グループ内のコミュニケーションを円滑にするための高度なスキルや、経営資源を効果的に配分するための戦略的な視点が必要になります。
さらに、権限を委譲することで、不正行為の監視が甘くなるリスクや、子会社間の過剰な競争が対立を生む可能性にも注意が必要です。
ホールディングス化によって求心力が失われると、組織が分裂し崩壊するリスクもあります。この点を十分に認識しながら、ホールディングスの運営に取り組む必要があります。
事務処理の負担・費用が増加する
ホールディングスに属する企業に中小企業が含まれる場合、親会社の資本金などが特例適用の基準として影響することがあります。
例えば、中小企業向けに設定された交際費の定額控除限度額などは、親会社の資本金が大きい場合には特例を受けられないことがあります。
また、連結納税制度は法人税に関する制度であり、事業税や住民税、消費税などについては適用されません。そのため、これらの税金は個別に申告・納付が必要です。
これにより、細かい事務処理が増え、人件費がかかる可能性がある点もデメリットと言えます。
子会社の赤字が全体に悪影響を与える
持株会社化により、損失が発生した場合の影響を最小限に抑えることができますが、子会社が赤字を出すとグループ全体のイメージダウンにつながる可能性があります。悪評は一部の子会社に留まらず、グループ全体の信用度にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
持株会社の設立で節税を図る際の注意点
持株会社を設立して節税を図ることは、企業にとって有効な戦略となり得ますが、適切に運用しなければ逆効果となる可能性もあります。持株会社の設立で節税を図る際に注意すべきポイントを2つピックアップして解説します。
税務署に否認されるリスクがある
持株会社設立を通じて節税対策を行う際には、税務署に否認されるリスクも伴います。このリスクを回避するためには、税法の遵守や適切な手続きを行うことが重要です。
税務署は、実態のない持株会社の設立を節税目的と見なし、否認する可能性があります。持株会社が実際に経営活動を行っているかや、実質的な管理業務を行っているかが確認されるため、持株会社設立の際には実態を伴った運用を行うことが求められます。
経営の効率化や事業承継の観点から持株会社の必要性を判断するためには、企業法務に詳しい弁護士などの専門家と相談しながら進めることが重要です。
想定外の課税による資金繰り悪化のおそれがある
持株会社の設立が税務署に認められず、追加の税金を支払うことになったとしても、融資の返済は既存会社からの配当金で賄われるため、金融機関の借入条件が変わることはありません。
しかし、持株会社は予期していなかった税金を支払うことで、資金繰りが厳しくなる可能性があります。節税効果を期待して持株会社を設立するケースが増えていますが、税務署に承認されないリスクを十分に理解していないことが多いです。
節税効果だけを期待して安易に持株会社を設立することは、リスクを伴うため注意が必要です。
持株会社を活用した節税対策の方法
持株会社を設立するには一般的に3種類の方法があります。それぞれの方法を採用する際の流れを順番に解説します。
株式移転方式
株式移転方式は、既存の会社が新たに設立する持株会社に対して全株式を移転し、その対価として持株会社の株式を受け取る方法です。
この方法は主に経営統合を目的としており、複数の企業が経営統合を行った後に、新たに設立した会社を親会社とするものです。
この手続きを進めるためには株主総会での決議が必要です。また、新設会社では資本金の設定や定款の作成に加えて、スムーズな会計処理が求められます。なお、許認可の移転手続きは不要です。
株式移転方式の流れとしては、まず既存の会社が新たに持株会社を設立します。この持株会社は、既存の会社の全株式を保有し、グループ全体の経営を統括する役割を担います。次に、既存の会社が、その全株式を持株会社に移転します。この株式移転により、既存の会社は持株会社の完全子会社となります。
その後、持株会社が新たに発行した株式を既存の会社の株主に交付します。この交付により、既存の会社の株主は持株会社の株主となります。
株式交換方式
株式交換方式は、既存の企業同士が株式を交換する方法です。
株式移転方式は新たに親会社を設立するのに対して、株式交換方式はすでに存在している会社を親会社にします。
大まかな流れとしては、親会社となる企業が子会社となる企業の全株式を取得し、その対価として親会社の株式を交付します。この方法を実施するには、事前に株価や手続きの詳細について十分な打ち合わせが重要です。
会社分割方式
会社分割方式(抜け殻方式)は、既存の会社の事業部門を新たに設立した子会社に分割し、元の会社が持株会社として機能する方式です。この方法により、元の会社は事業活動を行わず、純粋持株会社として子会社の経営を統括します。
会社分割方式を用いる際は株主総会での特別決議が必要です。また、業種によっては許認可を継承できない場合があり、その際は新たに認可や免許、登録手続きが必要です。
なお、株式の移動がないため、株式変更手続きは不要です。
事業承継対策としての持株会社の活用
持株会社の設立は、単純に節税効果が期待できるだけでなく、後継者への株式移転がスムーズに進んだり、株式の分散リスクを回避できたりする効果が期待できることも相まって、事業承継対策として活用されることもあります。
国も中小企業の事業承継を支援しており、そのガイドラインには持株会社を活用した事業承継の方法が取り上げられています。
以下に、持株会社を使った事業承継の流れやその利点、注意点について順を追って解説します。
持株会社を活用した事業承継の流れ
持株会社を活用した事業承継にはいくつかの方法がありますが、最も一般的なのは、新しい会社を設立し、金融機関から借り入れを行い、その資金で事業会社を子会社化する選択肢です。下表に、大まかな流れをまとめました。
手順 | 補足 |
①後継者による新会社の設立 | まず、後継者が新しく持株会社となる会社を設立します。この新会社の株主は後継者だけにすることで、後継者が将来的に子会社となる事業会社の議決権を引き継ぐことができます。 |
②新設会社での融資 | 事業会社の株式を前経営者から買い取るためには多額の資金が必要です。新設した会社は自己資金を持たないため、金融機関から融資を受けます。この借入金の返済資金は子会社となる事業会社からの配当で賄うため、事業会社の業績が良ければ融資を受けやすくなります。 |
③株式の取得 | 金融機関からの融資を使って、前経営者や他の株主から事業会社の株式を買い取ります。持株会社が事業会社の株式の50%以上を保有することで、事業会社を子会社化し、後継者が間接的に事業会社を支配できるようになります。 |
④融資の返済 | 持株会社は子会社である事業会社から配当収入を得ます。この配当収入を使って、借入金の返済を行います。 |
持株会社が事業承継対策として活用できる理由
持株会社の設立が事業承継対策として活用できる最大の理由は、税金の負担軽減が期待できる点です。具体的には、相続税の節税効果があります。
持株会社を利用しない場合、事業会社の業績が好調であるほど、その株式の相続税評価額が上がり、後継者に多額の相続税負担が発生します。しかし、持株会社を設立すれば、先代経営者が株式を持株会社に売却し現金化することで、相続財産が現金になり、事業会社の株式評価額上昇の影響を受けません。その結果、納税資金や老後資金の確保が可能になり、円滑な相続が実現します。
また、持株会社を利用することで、株式の移転がスムーズに行えます。持株会社が株式を買い取ることで、事業承継が即座に完了し、長期間の株式贈与が不要になります。
さらに、持株会社を設立すれば、株式の分散リスクを防ぐことも可能です。相続時に株式が分散して後継者以外が株式を取得するリスクがなくなり、経営に悪影響を及ぼす可能性が低くなります。
持株会社を活用した事業承継の注意点
持株会社を活用する事業承継にはいくつかのデメリットがあります。
まず、持株会社が先代経営者から株式を買い取るためには多額の資金が必要となり、通常は金融機関から融資を受けます。その結果、持株会社は大きな借入金を抱えることになり、子会社の業績が悪化すると返済が困難になるリスクがあります。
また、持株会社スキームでは贈与税や相続税の節税効果が期待できますが、先代経営者が持株会社に株式を売却する際には譲渡所得税が発生します。譲渡所得税は譲渡益の20.315%であるため、経営者の資産状況によっては相続や贈与の方が有利な場合もあります。
さらに、節税目的で持株会社を設立すると税務署から問題視される可能性があります。したがって、経営や事業承継の効率化などの正当な理由を持つことが重要です。基本的には、弁護士や税理士などの専門家と相談しながら進めることが推奨されます。
先代経営者が持株会社を設立する場合のポイント
ここまで説明した事業承継スキームは、後継者が持株会社を設立する方法です。
他にも、先代経営者が持株会社を設立し、事業会社の株式をその持株会社に売却することで株式評価額を抑え、後継者に株式を贈与または相続させる方法があります。
以下に、先代経営者が持株会社を設立する際に留意すべきポイントを2つ解説します。
子会社の含み益に対して持株会社の相続税評価額を37%控除できる
持株会社の時価純資産価額の計算においては、子会社の資産の含み益に対して「法人税額等の相当額(37%)」を掛け合わせた額を資産の額から控除することが認められています。
株式交換や株式移転などを通じて持株会社を設立し、その後に子会社の株価が上昇した場合には、持株会社の資産に含み益が発生したとされ、株価上昇額の37%が控除されますので、株主が所有する持株会社株式の株価上昇を抑制できます。その結果として、長期に渡って高い節税効果を得られるでしょう。
例えば、子会社の持つ土地の帳簿価額が1億円で、相続税評価額が2億円の場合、純資産価額方式では2億円で評価します。しかし、含み益の1億円に対して37%の控除が適用されるため、3,700万円が差し引かれます。結果として、土地の評価額は1億6,300万円に抑えられる仕組みです。
なお、法人税額等の相当額は、以下の税金の税率の合計値で構成されています。
- 法人税
- 地方法人税
- 事業税
- 地方法人特別税
- 道府県民税
- 市町村民税
参考:国税庁「1 取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」
評価額を抑えるために株式保有特定会社に該当しないよう注意する
株式保有特定会社とは、持株会社が所有する子会社株式の割合が50%以上の会社を指します。株式保有特定会社に該当すると、持株会社の株式評価額は純資産価額方式という割高な計算方法で算出されるため、評価額が高くなりやすいです。
このような状態を避けるためには、不動産や投資信託を購入して子会社株式の割合を減らす方法があります。しかし、これには合理的な理由が必要で、そうでない場合は税務上の問題が生じる可能性があります。そのため、弁護士や税理士など企業税務に詳しい専門家と相談しながら進めることが重要です。
持株会社を活用した節税方法まとめ
持株会社の設立を通じて、節税効果の獲得や事業承継の円滑化を実現するためには、法令遵守、適切な手続き、専門家の助言が必要不可欠です。持株会社を効果的に活用することで、企業は財務上の安定性を高め、将来的な成長を確保できるでしょう。
企業経営者や財務担当者などが持株会社の設立を検討する際には、本記事で紹介したポイントを参考に、慎重に計画を進めることをお勧めします。持株会社設立の具体的な計画や実行にあたっては、専門家の助言を受けることで、最適な節税対策と事業承継を実現しましょう。