家を相続する時の流れや手続きとは?費用や税金、売却によるメリットも解説
家の相続手続きで主にやらなければならないことは、相続による所有権移転登記です。家の相続登記の前提として家の財産的価値を評価し、家を含めた遺産総額を把握したうえで遺産分割協議を行う必要があります。家を含めた遺産総額が多額に上る場合は、相続税もかかります。
家の相続では、法律や相続税の知識などがないと失敗してしまうこともあるので弁護士などの専門家に相談することが大切です。
家の相続の流れと手続き方法
家を相続する場合も、通常の相続と同様の流れで、相続手続きを進めていきます。家だけに注目するのではなく、家を含む遺産全般の確認が必要になることに注意しましょう。
1.遺言書を確認する
被相続人が家の相続に関して遺言を残していないか確認します。
相続人の誰かに家を相続させようと思っていたのか、あるいは、相続人以外の人への遺贈を検討していなかったかの確認が必要です。
家の相続に関して有効な遺言書が残されていれば、遺言書のとおりに相続手続きを行います。
遺産分割協議の後で遺言書が発見された場合でも、原則として遺言書の記載が優先されるため、遺産分割協議の手間や時間を無駄にしないためにも、最優先で遺言書の確認を行いましょう。
なお、法務局の遺言書保管制度を利用していない自筆証書遺言を発見した場合は、家庭裁判所で検認の手続きが必要になります。
2.戸籍謄本等を取得し法定相続人を確定する
遺言書がない場合や、遺言書があっても家の相続についての記述がない場合は、法定相続人の間で遺産分割協議を行わなければなりません。
法定相続人を正確に確定するためには、被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本等を集めて、被相続人の子が何人いるのか確認する必要があります。
ほとんどの相続で、法定相続人が誰であるかは戸籍を確認するまでもなく明らかだと思いますが、念の為、確認が必要ですし、相続手続きでは、戸籍謄本等が必要になるため、この段階で集めておくべきです。
3.家を含む相続財産の総額の確認
家の価値がどれくらいあるのか、また、家を含む相続財産の総額はどれくらいになるのかの確認を行います。
財産目録と呼ばれる相続財産のリストを作成しておくと、その後の遺産分割協議や相続税の納税手続きの際に役立ちます。
なお、家の価値を決める際は、相続税評価額と実勢価格のいずれで判断するのか決めなければなりません。
家の価値を相続税評価額で判断する場合は、土地と建物で分けて評価します。土地の評価額は、路線価方式または倍率方式により算出。建物は、固定資産税評価額で確認します。
こうして算出した家の価格は相続税納税時の基準にもなります。
一方、実勢価格は、実際に家を売却した場合にどの程度の価格で売れるのかを示す価格です。家庭裁判所で遺産分割調停を行う場合は、実勢価格が用いられることが多いです。
どちらで判断するのかにより家の価格が異なり、遺産分割協議の基準となる相続財産の総額も変わるので、相続争いの原因にもなりやすいです。
4.遺産分割協議を行う
法定相続人と相続財産の総額が確定したら、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議には法定相続人の全員が参加する必要があります。自分は遺産はいらないという相続人にも、遺産分割協議書には、実印を押してもらい、印鑑証明書を用意して貰う必要があります。
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所において、遺産分割調停を試みることも検討します。
5.家の相続手続きに必要な書類を集める
家の相続に関して上記までの流れを踏まえていれば、家の相続手続きに必要な書類は、おおよそ揃っているのが一般的です。
誰がどのような形で家を相続するのかにもよりますが、次のような書類が必要になります。
- 相続登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書および相続人全員の印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
6.家の相続手続きを行う
必要書類が揃ったら、法務局で家の相続登記手続きを行います。相続登記とは、正確には、「相続を原因とする所有権移転登記」のことです。
一戸建ての家の相続では、土地と建物の相続登記の両方が必要です。建物だけ相続登記を行い土地の相続登記を忘れてしまうことのないように注意しましょう。
なお、令和6(2024)年4月1日から、相続登記を3年以内に行うことが義務化されています。
7.相続税の申告と納税
家を含む遺産の総額が、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算した基礎控除額を超える場合は、相続税がかかります。
相続税の申告・納付期限は「相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内」です。
特に、遺産分割協議が難航している場合は、この期間があっという間に到来してしまうため、注意が必要です。
家を相続した場合の遺産分割方法
家を相続し、相続人間で家の遺産分割協議を行うことになった場合、どのような形で分けたらよいか迷うこともあると思います。
具体的な分け方は、現物分割、代償分割、換価分割の3つです。それぞれ解説します。
現物分割
現物分割は、家をそのまま、法定相続人の一人が相続する方法です。
家以外にも預貯金や有価証券等の遺産がある場合は、法定相続人のうち、Aが家を相続、Bが預貯金を相続、Cが有価証券を相続すると言った形で遺産分割することができます。
家を含む広大な土地を相続することになった場合は、土地を分筆して分け合うことも可能です。例えば、法定相続人のうち、Aが家を含む土地を相続し、BとCは分筆した更地を相続する形も考えられます。
代償分割
代償分割とは、家を法定相続人の一人が単独で相続する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う形の遺産分割方法です。
例えば、法定相続人がABCの3名だったとし、家の価格が土地と建物をあわせて3,000万円だったとしましょう。
他にめぼしい財産がなければ、この家をどのように分け合うべきかが問題となります。
Aが単独で家を相続したい場合は、Aはその見返りとして、法定相続分に応じた家の代償金を支払います。具体的には、BとCに対して、それぞれ、1,000万円ずつ、代償金を支払うわけです。
これにより、Aが単独で家を相続できることになります。
この方法は、Aが一時的に大きな支出を強いられるため、それだけの資力がなければ、採用できない方法になります。
換価分割
換価分割は、家を売却して、売却代金を法定相続分に応じて分け合う方法です。
法定相続人の誰かが家に住む予定がなく、賃貸できる見通しも立たないのであれば、家を売却してしまった方が相続問題を速やかに解決することができます。
法定相続人が子どもだけで、全員独立して家を持っている場合は、換価分割を採用しやすいですが、被相続人の配偶者が存命している場合や、被相続人の家に同居していた子どもがいる場合は、採用しづらいことになります。
家の相続にかかる費用
家の相続に関わらず、相続手続きでは様々な費用がかかります。家の相続では相続登記申請のための費用が大きな支出になります。どのような費用がかかるのか解説します。
戸籍謄本等の取得費
まず、法定相続人を確定するための戸籍謄本等の取得費用がかかります。被相続人の出生時から死亡時までの連続した戸籍が必要なので、3通から4通程度は必要になります。被相続人が戦前に生まれた方や結婚と離婚を繰り返していた方の場合は、必要な戸籍謄本の数が5通、6通になることもあります。
戸籍の費用は全国同じで、現在の戸籍は1通450円、改製原戸籍、除籍謄本は1通750円かかります。
家の相続以外の遺産相続も同時に進める必要があるので、一揃では足りないこともあります。
ただ、出生時から死亡時までの連続した戸籍を一揃したら、法務局で法定相続情報証明制度を利用し、法定相続情報一覧図を作成することができます。
法定相続情報一覧図は、家を含む不動産の相続手続きはもちろんですが、金融機関の預貯金の相続手続きなど、様々な相続手続きにおいて、戸籍謄本の束の代わりとして使用することができます。
法定相続情報一覧図は複数作成することができますし、手数料はかかりません。
作成の手間はかかりますが、費用を節約することができます。
遺産分割協議書の作成費用
遺産分割協議書は、法定相続人の代表者が作成すれば、基本的に作成費用はかかりません。弁護士などの専門家に作成して貰う場合は、作成費用がかかります。
また、遺産分割協議書を作成したら、法定相続人全員が遺産分割協議書に署名押印しなければなりません。押印は実印を用い、印鑑証明書も添付します。
遺産分割協議書を法定相続人の人数分作成する場合は、全てに署名と押印が必要ですし、印鑑証明書もその数だけ必要になります。
印鑑証明書の費用は、自治体により異なり、1通200円から300円といった金額になっています。
相続登記申請にかかる費用
相続登記申請にかかる主な費用は、後述する登録免許税です。
戸籍謄本や印鑑証明書も必要になりますが、上記までに取得したもので足りるケースがほとんどです。
また、相続登記申請を司法書士に依頼する場合は、司法書士への報酬もかかります。
相続争いがなく、家を相続する法定相続人が明確な場合は、自分でやることで司法書士への報酬を節約することも可能です。
難しい案件でなければ司法書士に依頼したとしても報酬は数万円程度で足りることがほとんどです。一方、数次相続や相続争いがある場合など、複雑な事案の場合は、報酬額も高くなります。
家の相続にかかる税金
家の相続では、税負担が大きな課題になります。相続時、保有時、売却時にかかる税金を理解しておかないと、思わぬ支出により、家を相続したことを後悔してしまうこともあります。
それぞれの時点でかかる税金を解説します。
相続税(家の相続時にかかる税金)
家を相続した場合において、家を含む遺産の総額が3,000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算した基礎控除額を超える場合は、相続税がかかります。
まず、相続税の計算では、遺産の総額を確定する必要がありますが、家の遺産としての価値は、土地と建物で分けて算出します。
土地については路線価方式又は倍率方式によって算出します。
具体的には、国税庁が公表している財産評価基準書路線価図・評価倍率表によって、該当する土地を探し、その土地が路線価が示された道路に接しているか確認します。
路線価が示されている場合は、路線価に土地の面積を掛けることで、土地のおおよその価値を判断することができます。
なお、正確な評価額は、路線価を土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの各種補正率で補正した後で計算する必要があるため、専門家に評価を依頼すべきです。
その土地が路線価が示された道路に接していない場合は、倍率方式が適用されます。
倍率方式では、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
建物については固定資産税評価額から算出します。固定資産税評価額に1.0を乗じて計算するため、固定資産税評価額がそのまま建物の価値になります。
家の遺産としての価値を算出し、正味の遺産総額を確定したら相続税を計算します。
正味の遺産総額から基礎控除額を差し引いた額が、課税遺産総額となります。
この課税遺産総額を法定相続分どおりに取得したものと仮定して、それに税率を適用して各法定相続人別に税額を算出し、それぞれの税額を合計した額が実際に納税すべき相続税の総額になります。
遺産分割協議で家を相続することになった人が、遺産総額のうち家の占める割合に応じて、相続税を納税することになります。
ただ、相続税には、配偶者控除を始めとする様々な税額軽減措置が設けられているため、詳しい相続税の計算方法については専門家に確認しましょう。
登録免許税(家の相続時にかかる税金)
家を相続し、家に関して相続登記申請を行う場合は、登録免許税を納付する必要があります。
具体的な税額を計算する際は、次の手順を踏みます。
- 市町村から家の固定資産評価証明書(価格通知書)を取得する。
- 課税価格が分かったら、1,000円未満の端数を切り捨てる。
- 課税価格に相続登記の登録免許税率(4/1000)を掛ける。
- 算出した登録免許税額から100円未満を切り捨てる。
土地と建物のどちらもこの手順により登録免許税を算出することができます。
登録免許税の納税方法は、インターネットバンキング等を利用するキャッシュレス納付、現金で納付をし、その領収証書を登記申請書に貼り付ける現金納付、税額が30,000円以下の場合に利用できる印紙納付の3通りの方法があります。
家を相続した場合の不動産取得税
不動産取得税は、土地や家を購入したり、家屋を新築した場合に課せられる税金です。売買の場合だけでなく贈与でも課せられます。
法定相続人が相続によって家を取得した場合は、原則として不動産取得税はかかりません。
ただ、次のような場合は、不動産取得税がかかるので注意しましょう。
法定相続人以外の人が特定遺贈を受けた場合
被相続人が遺言書を残しており、法定相続人以外の人に対して家を「特定遺贈する」と書いていた場合です。
遺贈の方法には、包括遺贈と特定遺贈があります。
包括遺贈とは、全遺産の3分の1というように遺贈の割合だけを示していた場合です。
一方、特定遺贈とは、家の場合であれば、土地の地番と家屋の所在、地番を明記した上で、この家を遺贈すると描いていた場合です。
包括遺贈は相続と同じですし、そもそも、家を相続するかどうかは、相続人を含めて遺産分割協議の上で決めることになります。そのため、不動産取得税は課せられません。
一方、特定遺贈の場合は、不動産の贈与と同じなので、不動産取得税が課せられます。
法定相続人でも生前に贈与を受けていた場合
不動産取得税は、贈与により家を取得した場合も課せられますので、相続人が生前に家を贈与された場合も課せられます。
なお、生前贈与では、相続時精算課税制度を利用して、贈与税の課税を免除してもらうことがありますが、相続時精算課税制度を利用しても不動産取得税は課せられるので注意しましょう。
不動産取得税の計算方法
不動産取得税は次の計算式により算出します。
不動産取得税=課税標準(固定資産税評価額)×税率
課税標準については、令和9年3月31日までに取得した宅地評価土地(宅地及び宅地比準土地)については、価格を2分の1に軽減できる特例措置が設けられています。
税率は、平成20年4月1日~令和9年3月31日までは、それぞれ次のようになっています。
- 土地 3%
- 家屋(住居) 3%
- その他 4%
固定資産税(家の保有時にかかる税金)
家を相続し、所有し続ける場合は、固定資産税がかかります。
毎年1月1日(賦課期日)の時点で家(土地、家屋)を所有している人に対して、市町村から課税されます。
被相続人が亡くなった年は、被相続人名義で固定資産税・都市計画税の納税通知書が送られているので、家を相続した人がその納税通知書を引き継いで納税します。
翌年の1月1日までに相続登記を完了していれば、その年から家を相続した人の名義で納税することになります。
所得税と住民税(家の売却時にかかる税金)
相続した不動産を売却する場合は、売却価額から必要経費(取得費および譲渡費用)を差し引いた額が譲渡所得となり、これに対して、所得税と住民税が課税されます。
譲渡所得を求める具体的な計算式は次のとおりです。
譲渡所得 = 売却価額-取得費-譲渡費用-特別控除
このうち、取得費は、被相続人が家を購入した際の価格になりますが、昔のことなのでいくらで購入したのか分からないこともあるでしょう。このような場合は、売却価額の5%を取得費とすることができます。
また、相続財産譲渡時の取得費加算特例といい、相続や遺贈により財産を取得し、相続税が課税された場合において、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合は、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます。
参考
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
また、特別控除としては、
- 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの最高3,000万円の特別控除の特例
の2つが主な特例になります。
参考
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
この計算式によって、譲渡所得が発生した場合は、他の所得と合わせて、家を売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要があります。
家を相続するための必要書類
遺産分割協議の結果、家を相続することになった人は、家について相続登記を行う必要があります。
具体的には、相続登記申請書を作成し、添付書類と共に、家の管轄法務局に提出する形になります。
相続登記の方法としては、
- 遺言による相続登記
- 遺産分割による相続登記
- 法定相続分による相続登記
の3つのパターンがありますが、それぞれのパターンにより、必要書類は異なっています。
遺言による家の相続登記の必要書類
遺言による家の相続登記の必要書類は、作成すべき書類(主に相続登記申請書)と集めるべき書類(添付書類)の2種類に分けられます。
作成すべき書類
作成すべき書類は次の3点です。
- 相続登記申請書
- 委任状(司法書士に委任する場合に必要になります)
- 相続関係説明図(戸籍・除籍謄本(抄本)の原本の還付を希望しない場合は不要です)
集めるべき書類
集めるべき書類は、被相続人に関する書類と新しく所有者になる人に関する書類の2種類があります。
被相続人に関する書類は次の3点です。
- 遺言書(自筆証書遺言で法務局の保管制度を利用していない場合は、家庭裁判所で検認を受ける必要があります)
- 戸籍謄本等(出生から死亡まで、在籍していた全ての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍が必要です)
- 住民票の除票又は戸籍の附票(被相続人の登記上の住所が戸籍謄本等に記載された本籍と異なる場合に必要です)
新しく所有者になる人に関する書類は次の3点です。
- 戸籍謄本(抄本)
- 固定資産課税明細書(登記申請をする日の属する年度のものが必要です)
- 住民票
遺産分割による家の相続登記の必要書類
遺産分割による家の相続登記の必要書類も、作成すべき書類と集めるべき書類の2種類に分けられます。
作成すべき書類
- 遺産分割協議書
- 登記申請書
- 委任状(司法書士に委任する場合に必要になります)
- 相続関係説明図(戸籍・除籍謄本(抄本)の原本の還付を希望しない場合は不要です)
集めるべき書類
集めるべき書類は、被相続人に関する書類と法定相続人に関する書類、新しく所有者になる人に関する書類の3種類があります。
被相続人に関する書類
- 戸籍謄本等(出生から死亡まで、在籍していた全ての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍が必要です)
- 住民票の除票又は戸籍の附票(被相続人の登記上の住所が戸籍謄本等に記載された本籍と異なる場合に必要です)
法定相続人に関する書類
- 戸籍謄本(抄本)(被相続人の死亡日以降に発行されたものが必要です)
- 印鑑証明書(遺産分割協議書に押印された印鑑に関するものが必要です)
- 固定資産課税明細書(登記申請をする日の属する年度のものが必要です)
新しく所有者になる人に関する書類
- 住民票
法定相続分による家の相続登記の必要書類
法定相続分による家の相続登記の必要書類も、作成すべき書類と集めるべき書類の2種類に分けられます。
なお、法定相続分による家の相続登記の場合は、相続人全員で申請するほか、相続人のうちの1名が相続人全員分を申請することも可能です。
作成すべき書類
- 登記申請書
- 委任状(司法書士に委任する場合に必要になります)
- 相続関係説明図(戸籍・除籍謄本(抄本)の原本の還付を希望しない場合は不要です)
集めるべき書類
集めるべき書類は、被相続人に関する書類と法定相続人に関する書類の2種類があります。
被相続人に関する書類
- 戸籍謄本等(出生から死亡まで、在籍していた全ての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍が必要です)
- 住民票の除票又は戸籍の附票(被相続人の登記上の住所が戸籍謄本等に記載された本籍と異なる場合に必要です)
法定相続人に関する書類
- 戸籍謄本(抄本)
- 固定資産課税明細書(登記申請をする日の属する年度のものが必要です)
- 住民票
家の相続時に売却するメリット
家を相続し、相続人がその家に住むならば、売却を検討する必要はありませんが、誰も住まないならば、相続時に売却してしまった方が、様々な面でメリットがあります。
一方、デメリットについては、愛着のある家を手放さなければならないことや担保にできる資産を失ってしまうといった点が挙げられますが、既に住む家があるならば、それほど大きなものではありません。
家の相続時に売却するメリットについて解説します。
売却により家の維持費がかからなくなる
売却することにより、家の維持費がかからなくなることが大きなメリットの一つです。
まず、家を所有している場合は、固定資産税がかかってしまいます。家の価値が高ければ、固定資産税の税負担は重くなります。
もちろん、相続した人が自分で住むならば、家賃を支払って賃貸住宅で暮らすよりも安上がりであることが多いと思いますが、誰も住まないまま放置するのは大きな負担になります。
土地と建物の固定資産税はそれぞれ次の計算式で算出されます。
- 土地……固定資産評価額(課税標準額) × 1.4%
- 建物……課税台帳に登録されている価格 × 1.4%
このうち土地については、小規模住宅用地の特例により、敷地面積が200平方メートル以下であれば、課税標準額が6分の1に軽減されています。また、200平方メートルを超えた部分についても、一般住宅用地として課税標準額が3分の1に軽減されます。
ただ、建物が老朽化し、自治体から、特定空家に指定されてしまい勧告を受けると、これらの住宅用地の特例措置が適用されなくなるため、土地の固定資産税が重くなります。
家が老朽化した場合は、所有者の負担で解体しなければなりませんが、坪単価で3万円〜8万円といった金額になるので、数百万円単位の負担となってしまうのが一般的です。
また、家に誰も住まない予定でも、完全に放置することはできません。敷地内に雑草が生い茂ってしまいますし、建物も定期的に風通しをしなければ家が傷んでしまいます。
家の管理は、もちろん自分でやることもできますが、難しい場合は業者に依頼しなければならないため、その費用もかかります。
売却により現金化できる
相続時に家を売却することにより、多額の現金を手にすることができます。
家以外に目ぼしい相続財産がない場合は、換価分割が最も容易な遺産分割方法になります。
また、相続税を納税しなければならない場合は、その原資とすることもできます。
現金化した場合、担保としては使えませんが、様々な投資に回しやすいため、家を無駄に持っているよりも資産を増やしやすいです。
相続時の売却なら譲渡所得の特別控除の特例を受けられる
相続により取得した家を売却した場合は、一定の要件を満たしていれば、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除されます。
具体的には、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家について、
- 昭和56年5月31日以前に建築された家であること。
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと。
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいないこと。
この3つの要件を満たしていれば、家の売却時に特別控除の特例を受けられます。
土地と建物をまとめて売却した場合はもちろんですが、建物を解体して更地にして売却した場合でも特例を利用することができます。
参考
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
家を相続する際の注意点
家の相続では、他の遺産を相続した場合にはない特有の注意点があります。主な注意点を3つ解説します。
3年の相続登記期限に注意する
2024年(令和6年)4月1日から、相続登記が義務化されています。
家を相続した人は、家を相続したことを知った日から3年以内に相続登記申請を行わなければなりません。3年以内に遺産分割協議を終えることができない場合でも、この期間を延長できるといった特例はありません。
遺産分割協議が長引く場合は、相続人申告登記を行うことにより、とりあえず、相続登記申請義務を果たすことが考えられます。
遺産分割協議が成立した場合も、家を相続することになった人は、遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
なお、2024年(令和6年)4月1日より前に家を相続している場合も、2027年(令和9年)3月31日までに相続登記申請を終える必要があります。
もしも、正当な理由なく相続登記申請を行わなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
遺産分割協議では配偶者居住権に留意する
被相続人の配偶者が存命している場合は、被相続人が亡くなった後も同居していた家に住み続けることも多いと思います。
例えば、夫名義の家に暮らしている老夫婦のうち、夫が亡くなった場合でも、妻はその家に住み続ける必要があることも多いと思います。
ただ、遺産分割協議により、妻が家を相続できないこともあります。この場合でも、妻にはその家に亡くなるまで又は一定の期間、無償で居住することができる権利があります。これを配偶者居住権と言います。
配偶者居住権は、遺産分割協議において、配偶者が自ら主張することもできますし、遺言書により配偶者居住権を与える旨を記載することもできます。
配偶者居住権を設定する場合は、遺産分割協議において配偶者居住権の価値をどのように評価するのかが問題となります。
簡易な計算式としては、
建物敷地の現在価値-負担付所有権の価値=配偶者居住権の価値
という計算式が紹介されています。
このうち、負担付所有権の価値は、建物の耐用年数、築年数、法定利率等を考慮した上で、配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定し、これを現在価値に引き直して求めます。
また、不動産鑑定士協会ではより詳細な評価方式も公開されています。
いずれにしても、配偶者居住権が絡む場合は、遺産分割協議が複雑になりますし、配偶者居住権の設定登記も必要になるため、弁護士などの専門家に相談してください。
参考リンク
https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/public/kyojyuken_houkoku/
https://www.moj.go.jp/content/001263589.pdf
法定相続人の共有名義での家の相続は避ける
家の遺産分割協議を行うことができない場合は、法定相続人の共有名義で相続登記がなされることもあります。
もちろん、後に遺産分割協議を行うことを前提に、暫定的に法定相続分に基づいて共有名義での相続登記を行う場合も考えられますが、共有名義での相続登記は、家の相続問題の先送りになるばかりでなく、家の相続問題の解決をますます困難にしてしまう可能性があります。
まず、法定相続人の誰かが亡くなり、2次相続が発生した場合は、その法定相続分がさらに細分化されて、共有者が増えてしまう可能性があります。このようにして共有者が増え続けることにより、遺産分割協議がますます困難になります。
また、家を共有名義のままとする場合でも、家の売却時には、共有者全員の同意が必要になりますし、家を大規模修繕するにしても、住んでいる人が独断で行うことはできず、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決めなければなりません。
このように、共有名義で家を相続してしまうと、家の売却はもちろん、修繕工事さえやりにくくなってしまい、老朽化したまま放置されやすくなります。
家の相続手続きは自分でできる?
家の相続手続きを自分でやろうとしている方も多いと思います。ただ、家の相続手続きでは複雑な法律問題が絡むことが多いため、自分でできるケースはそう多くはありません。
家の相続手続きを自分でやってもよいケースを解説します。
相続税がかからない場合
家の相続に関して、相続税がかかる場合は、土地や家屋の評価額を算出しなければなりません。
すでに紹介したように土地や家屋の評価額の計算方法は、国税庁のサイトでも紹介されていますが、正確な額を算出するには、専門家に計算してもらう必要があります。
一方、家を含む遺産総額が相続税の基礎控除額の範囲に収まるのであれば、相続税の計算は必要ないため、家の相続手続きも自分で行うことが可能です。
相続人同士の争いがない場合
家を含む遺産の分割方法について相続人の間で争いが生じている場合は、遺産分割調停や裁判手続が必要になることもあります。
一方、法定相続人が、被相続人の配偶者と一人っ子の子どもだけというようなケースでは、相続争いが生じることは少ないでしょう。
このような場合は、家の相続手続き自体は、法務局でも詳細な資料を提供しているため、参考にしながら相続手続きを済ませることも可能です。
単独相続の場合
法定相続人が一人しかいない場合は、法定相続人が自分自身で相続手続きを行うだけです。
例えば、父親が先に亡くなり、次いで母親が亡くなり、その子どもが一人っ子の場合です。両親の遺産はすべて、一人っ子の子どもが相続することになり、後は、家の相続手続きを済ませるだけです。
必要書類も少ないため、自分自身で相続手続きを行うにしても難易度は低いです。
相続人申告登記を行っておく場合
相続人が複数いるため、家の相続に関して遺産分割協議が必要でも、遺産分割協議が進まないこともあります。
この場合は、相続人申告登記を行うことにより、相続登記申請義務を履行したものとすることができます。
相続人申告登記の必要書類は、おおむね次のような書類です。
- 申出書
- 被相続人の死亡した日が分かる戸籍の証明書
- 申出人が法定相続人であることが分かる戸籍の証明書
- 申出人の住民票
戸籍は、法定相続人を確定する際に集めた戸籍謄本等から、上記の点が分かるものだけを提出するだけで足ります。
税額は、非課税ですし、Webブラウザ上で手続きできる「かんたん登記申請」を利用して申出することもできます。
通常の相続手続きよりも負担が少ないため、自分で手続きできます。
参考リンク
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html
まとめ|家の相続は弁護士などの専門家にご相談ください
家を相続する時の流れや手続きについて解説しました。
家の相続登記申請自体は、法務局に詳細な解説があるため自分でやることも不可能ではありません。
しかし、家を含む遺産について、遺産分割協議が必要な場合や被相続人の配偶者が存命しているために配偶者居住権を設定する必要がある場合、相続税がかかる場合などは、専門家のサポートがないとトラブルになる可能性が高いです。
相続に関する専門家は、弁護士だけでなく、税理士、不動産鑑定士、司法書士、行政書士と事案ごとに最適な士業者がいますが、誰に相談したらよいか分からないこともあるのではないでしょうか。
弁護士に相談すれば、家の相続にまつわる様々な問題について総合的なアドバイスを受けられます。
家の相続に関して困ったことがある場合は、まず、弁護士にご相談ください。