非上場株式の相続税評価額と評価額の引き下げ方法(相続税対策の方法)!
事業承継などで非上場株式を相続した場合、非上場株式には株価がついていないため、どのように相続税評価額を出せばよいのか戸惑う方もいらっしゃるでしょう。
非上場株式は、市場価格がある上場株式と異なり、特有の評価方式で株価を出す必要があります。
この記事では、非上場株式の相続税評価額を出す評価方式の仕組みをできるだけ分かりやすく説明し、評価額を引き下げる方法や相続税対策についても紹介します。非上場株式の評価方式は複雑な点もありますが、評価額を引き下げるためにはどんな観点が必要なのか、ざっくりと把握するためにこの記事をご活用ください。
非上場株式には市場価格が存在しない
相続税を払うには、まず遺産総額がいくらかを把握することが必要です。遺産のなかには、株式が含まれるパターンがあります。
株式は、1株あたりの株価に相続した株式数をかけることで、相続税評価額が計算できます。1株100円の株式を100万株相続するなら、評価額は1億円です。
このように、株式の相続税評価額を算定するには、1株あたりの株価を算定する必要があります。株式は、大きく次のふたつに分けられます。
・上場株式:証券取引所に上場しており、取引所で売買できる株式
・非上場株式:証券取引所に上場していない株式
上場株式は、証券取引所にて1株あたりの株価がつけられているため、相続評価額の計算も比較的簡単です。これに対して非上場株式の場合は、上場株式のような市場価格が存在しないため、決められた評価方式を使って1株あたりの株価を求める必要があります。
同族株主かそれ以外かで、非上場株式の評価方式が異なる
非上場株式においては、その株式が同族株主の株式かどうかで1株あたりの株価を求める評価方式が異なってきます。
同族株主とは
同族株主とは、会社の議決権を合わせて30%以上もっている次のグループを指します。
1)株主
2)株主の親族(配偶者・6親等以内の血族・3親等以内の姻族)
3)株主とその同族関係者が、議決権を50%超もっている会社
ただし、議決権を50%超もっているグループが存在する場合は、そのグループだけが同族株主となり、ほかの30%以上のグループは同族株主とはみなされません。
同族株主の株式には原則的評価方式が適用される
同族株主は、最低でも議決権の3割をもっているため、会社に及ぼす影響はとても強く、5割超ともなれば会社を支配することも可能です。相続人にとっても、同族株主の株式を相続することは、たとえば少数株主の株式を相続するよりも、はるかに価値が高いといえます。
そのため、同族株主とそれ以外の株主とでは、同族株主の株式を相続するほうが相続税評価額が高くなるように、評価方式が設定されているのです。
同族株主:原則的評価方式
それ以外の株主:特例的評価方式(配当還元方式)
実際には、中小規模の非上場企業においては大半が同族株主となるため、多くの人に関係あるのは原則的評価方式であり、この後くわしく見ていきます。
特例的評価方式(配当還元方式)とは
同族株主以外の株主に適用される特例的評価方式は、その名の通り「特例」であり、原則的評価方式よりも相続税評価額が低く算定されるのが一般的です。
配当還元方式は、1株あたりの配当金額をベースとして1株あたりの評価額を算出する方式であり、次の計算式で算出されます。
1株あたりの評価額=1株あたりの年配当金額/10%×1株あたりの資本金額/50円
つまり、配当金額が少ないほど、相続税評価額は低くなるのです。配当金がゼロの場合は、1株あたり5円50銭にて計算します。
相続税評価額を引き下げるためには、特例的評価方式で評価額を算定したほうが断然お得です。しかし、特例的評価方式が適用されるパターンにも関わらず、方式の判定を誤って、原則的評価方式で算定を行う税理士も存在します。相続税対策を本気で考えているなら一度、通常の税理士ではなくM&Aに伴う相続税対策に精通した専門家に相談してみるとよいでしょう。
同族株主に適用される「原則的評価方式」とは
事業承継が発生するような中小企業のほとんどは同族株主です。同族株主の非上場株式において1株あたりの評価額を算定する原則的評価方式は、次の3つに分けられます。
1)類似業種比準価額方式
2)純資産価額方式
3)1と2の併用
あとで述べますが、対象となる会社を5つの規模に分類し、規模別にどの方式で算定するかが決められています。
類似業種比重価額方式とは
類似業種比重価額方式とは、対象となる会社と事業の内容や規模などが似ている上場企業の株価をベースに、1株あたりの評価額を算定する方式です。
具体的には、類似する上場企業の株価に対して、1株あたりの純資産価額・年利益・配当金額における対象会社と上場企業の比重がどのくらいか計算した割合をかけ、対象会社の規模別に70〜50%の割引係数をかけて評価額とします。実際の計算式をくわしく知りたい方は、国税庁のホームページをご覧ください。
ざっくりいうと、同業種で事業内容が似ている上場企業A社と非上場企業B社があれば、A社とB社の評価額(株価)は、純資産・利益・配当と企業規模に比例するという考え方です。B社が、純資産・利益・配当においてA社の1/2の規模であれば、評価額もA社の1/2であろうとみなし、さらにB社の企業規模に応じて70〜50%相当額を評価額として算定します。
純資産価額方式とは
純資産価額方式とは、純資産を発行株式数で割ることで、1株あたりの評価額を算定する方式です。
ざっくりいうと、現時点で会社を解散したらどのくらいの金額が株主へと戻ってくるかという観点から、次の計算式で算出します。
1株あたりの評価額={(資産の相続税評価額−負債の相続税評価額)−法人税等相当額}/発行株式数
*法人税等相当額:(資産の相続税評価額−負債の帳簿上の価額)×0.37(法人税等相当額控除割合)
実際に会社を解散する場合、資産から借入金などの負債を返す(引く)ことが必要です。そのために土地などの資産を売却して利益が出た際には、法人税の支払が発生します。「法人税等調整額」とは、その際に支払う法人税に相当する金額です。
どの評価方式で算定すれば相続税評価額は安くなるか
同族株主における評価方式は、先に述べたように3種類に分けられます。そのなかでは、類似業種比準価額方式を単独で使うのが、最も相続税評価額が安くなる傾向があります。そのため、類似業種比準価額方式を使いたいところですが、そのためには会社の規模が、次で説明する「大会社」もしくは「中会社」の条件を満たすことが必要です。
どの原則的評価方式をとるかは会社規模によって異なる
非上場株式の評価額を算定する原則的評価方式は3種類に分かれており、対象となる会社の規模別に、次のように定められています。
大会社:類似業種比準価額方式
中会社(大):類似業種比準価額方式×0.9+純資産価額方式×0.1
中会社(中):類似業種比準価額方式×0.75+純資産価額方式×0.25
中会社(小):類似業種比準価額方式×0.6+純資産価額方式×0.4
小会社:類似業種比準価額方式×0.5+純資産価額方式×0.5
※全会社において、純資産価額方式を単独で選ぶことが可能
会社の規模が大きいほど、類似業種比準価額方式を適用できるのは、この方式が上場企業の株価をベースにした評価方式のためです。ベースとなる上場企業は、上場の基準を満たし一定の会社規模を保っているので、対象となる会社の規模もできるだけ大きいほうが、評価額も近似していくからです。
非上場株式の評価における会社規模の区分
非上場株式の評価方式がどれかを判定する会社規模は、従業員数・総資産・取引金額の3つによって区分されます。
まずは従業員数で会社規模を判定
最も重要な要素は従業員数で、自動的に次のように振り分けられます。
大会社:従業員数が70人以上
中会社(中):35人以下
中会社(小):20人以下
小会社:5人以下
従業員数が70人以上の場合は、悩むことなく「大会社」となります。たとえば、従業員が35人以下の場合、総資産や取引金額が大会社に相当するほど高くても、自動的に中会社(中)に振り分けられます。その他も同様です。
総資産と取引金額の大きいほうの金額で判定
従業員数が70人未満の場合は、総資産と取引金額、どちらか大きいほうの金額で、どの会社規模にあてはまるかを判定します。
総資産は、これまで述べてきた純資産(資産から負債を引いたもの)とは異なり、負債を引く必要はありません。相続税評価額ではなく、貸借対照表(B/S)に記載されている帳簿上の資産価額です。また、取引金額とはつまり、年間の売上高を指します。
会社の業種を、卸売業・小売サービス業・それ以外の3つに分け、次のように振り分けます。
卸売業 | 小売・サービス業 | それ以外 | ||||
総資産 | 取引金額 | 総資産 | 取引金額 | 総資産 | 取引金額 | |
大会社 | 20億円以上 | 30億円以上 | 15億円以上 | 20億円以上 | 15億円以上 | 15億円以上 |
中会社(大) | 4億円以上 | 7億円以上 | 5億円以上 | 5億円以上 | 5億円以上 | 4億円以上 |
中会社(中) | 2億円以上 | 3.5億円以上 | 2.5億円以上 | 2.5億円以上 | 2.5億円以上 | 2億円以上 |
中会社(小) | 7,000万円以上 | 2億円以上 | 4,000万円以上 | 6,000万円以上 | 5,000万円以上 | 8,000万円以上 |
小会社 | 7,000万円未満 | 2億円未満 | 4,000万円未満 | 6,000万円未満 | 5,000万円未満 | 8,000万円未満 |
非上場株式の相続評価額を引き下げるには
ここまで、日本の中小企業の大半を占める非上場株式(かつ同族株主)の相続税評価額を算出する「原則的評価方式」の仕組みについて解説してきました。
では、非上場株式の相続税をできるだけ抑えるためには、具体的には何をしたらよいのでしょうか。大きく次のふたつに分けられます。
1)非上場株式の相続評価額を引き下げる
2)事業承継税制(特例措置)を活用
「資産」「利益」「配当」を減らせば相続評価額も下がる
非上場株式の相続評価額を引き下げるには、どのような対策をとればよいのでしょうか。ここで、原則的評価方式において何をもとに評価額を算定していたかを振り返ってみます。
類似業種比準価額方式では、上場企業の株価をベースに、対象会社の「純資産」「利益」「配当」の比重割合を乗じていました。また、純資産価額方式では、対象会社の「純資産」をベースに計算していました。
つまり、「資産」「利益」「配当」を減らせば、非上場株式の相続評価額を引き下げることができるのです。そのためには次のような方法が考えられます。
・配当金を引き下げ
・役員報酬を増額
・役員に退職金を支給
・経営者に生前退職金を支給
・生命保険に加入し保険料を会社で負担
・不良債権を処分し貸倒処理を行う
・含み損のある資産を売却
・含み益のある資産は子会社に移転
・借入金にて賃貸・投資用の不動産を購入
・大型の設備投資を行う など
上記の方法は利益などの減少に直結するため、会社の業績にまで悪影響を及ぼさないよう注意が必要です。また、役員に退職金などを支給する場合は、役員個人の所得税が上がることも考慮しながら行いましょう。
株式分散により配当還元方式の適用を受ける
会社の議決権をグループで30%以上もっていれば、同族株主に該当し、原則的評価方式が適用されます。逆にいえば、株式を分散して同族株主の要件から外れれば、相続税評価額が低く算定される配当還元方式の適用を受けることも可能です。
この方法をとる場合、株式を分散させることで会社の意志統一が図れなくなり、内紛などのトラブルが生じてしまっては本末転倒なので、その点に注意しましょう。
会社規模の変更
先に述べたように、会社の規模に応じて評価方式は決まります。そのため、自社の評価額を算出して、類似業種比準価額方式のほうが低く出る場合には会社の規模を大きくする方法もあります。
ただし、類似業種比準価額方式の計算式では、最後に割引係数(大会社:0.7・中会社:0.6・小会社:0.5)をかけますが、会社規模に伴う割引係数の変更が不利に働くパターンもある点に注意しましょう。
まとめ
非上場株式には、上場株式のような市場価格がありません。そのため、相続税評価額を求めるには、1株あたりの評価額の算定が必要です。
非上場株式の評価方式は、同族株主の株式には原則的評価方式が、それ以外の株式には特例的評価方式(配当還元方式)が適用されます。後者のほうが、前者よりも低く評価額が出るのが一般的です。
原則的評価方式は、1)類似業種比準価額方式・2)純資産価額方式・3)1と2の併用の3種類があります。2よりも1のほうが評価額が低く出る傾向があり、会社の規模が大きいほど、類似業種比準価額方式を適用できる割合が大きくなります。
原則的評価方式は、主に資産・利益・配当をベースに評価額を算出するため、相続税評価額を引き下げるには、会社の資産・利益・配当を減らす方法があります。そのほかにも、株式分散による配当還元方式の適用や、会社規模の変更なども考えられます。また、相続税の負担を軽減するには、事業承継税制(特例措置)の活用も効果的です。
非上場株式の評価を実際に行うのはとても複雑で、相続税評価額を引き下げる方法も会社が置かれた状況に応じて、とれる手段は変わってきます。さらに、事業承継税制についても、何度も改正が重なり、一般の人が独力で活用するのはなかなか困難です。
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