不動産の相続で必要な手続きとは?相続登記の流れやよくあるトラブルを解説
お困りではありませんか?

不動産を相続する場面では、相続人の確定、遺言書の有無の確認、遺産分割協議、相続登記、相続税の申告といった複数の手続きが関わります。とくに2024年4月からは相続登記が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に名義変更を行わないと、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。期限や必要書類、段取りを誤ると、売却や担保設定が進まない、相続人間での対立が長引くなど、後の対応が難しくなります。
本記事では、相続の開始から相続登記完了までの流れを整理し、相続登記の義務化のポイント、必要書類と費用の目安を解説します。あわせて、現物分割・代償分割・換価分割・共有名義といった不動産の承継方法の違い、不動産評価(路線価方式・倍率方式)と相続税への影響も取り上げます。さらに、遺産分割協議での意見対立や共有名義の放置など、よくあるトラブルを避けるための考え方を示し、必要に応じて弁護士への相談につなげる判断材料を提供します。
注意:本記事は一般論であり、個別事情(持分・書類・資産状況等)により結論は異なります。相続登記・不動産の評価・税務の最終判断は専門家へご相談ください。
1. 不動産相続の基本と手続きの流れ
不動産の相続では、法律上の相続人を確定し、取得する不動産を明確にしたうえで、相続登記や税務の手続きを行う必要があります。相続は被相続人(亡くなった方)の死亡によって自動的に開始されますが、実際の手続きは複数の段階に分かれ、各段階で必要書類や判断が異なります。
この章では、相続の開始から相続登記完了までの全体像を体系的に整理し、特に不動産を取得する際に重要となる手続きと注意点を詳しく解説します。
1. 相続開始から相続登記完了までの全体の流れ
相続手続きは、次のような順序で進むのが一般的です。
① 相続の開始と戸籍関係書類の収集
相続は、被相続人が死亡した瞬間に開始します。まず、死亡届を市区町村役場に提出し、戸籍謄本・除籍謄本など、相続人を確定するために必要な書類を収集します。被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべてそろえる必要があり、取得先が複数の自治体にまたがることもあります。
② 相続人の確定
戸籍を収集し、法定相続人を確定します。民法上の順位は、①配偶者(常に相続人)と、②第1順位:子(養子含む。死亡等のときは直系卑属が代襲・再代襲)、③第2順位:直系尊属、④第3順位:兄弟姉妹(代襲は甥姪までの一代限り)です。非嫡出子(認知子を含む)の相続分は嫡出子と同等です。胎児は出生を条件に相続人となります。兄弟姉妹間では半血の相続分は全血の2分の1となります。
これらを正確に把握することが、後の相続登記や協議の前提となります。
③ 相続財産の調査と特定
次に、被相続人が所有していた不動産・預貯金・有価証券などの財産を把握します。不動産の場合は、登記事項証明書(旧称:登記簿謄本)や固定資産税の納税通知書で所在・名義を確認します。登記事項証明書は法務局で取得します。抵当権・根抵当権、共有持分、仮登記・差押等の有無もこの段階で確認します。
④ 遺言の確認と遺産分割協議
遺言書がある場合は、その内容を基に相続分を決定します。遺言書がない場合は、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するかを合意します。協議の結果を「遺産分割協議書」にまとめ、全員が署名押印します。遺産分割に基づく相続登記では、同協議書を登記原因証明情報として提出しますが、遺言に基づく申請や法定相続分による申請では協議書は不要です。
⑤ 相続登記の申請
最終段階として、所有権移転(相続)登記を行います。
申請先は不動産の所在を管轄する登記所(法務局)です。オンライン申請・窓口・郵送のいずれでも手続可能です。提出書類に不備がある場合は補正指示が出され、補正がなされないと却下されます。受付日が期限内申請の判定基準となるため、登録免許税の納付・添付書類の整合を事前に点検します。
相続登記が完了すると、取得者(相続人)に登記識別情報が発行され、登記簿上の名義が相続人に移転します。
2. 遺言書がある場合とない場合の違い
遺言の有無によって、手続きの負担や必要期間が大きく異なります。
遺言書がある場合
公正証書遺言は公証役場で作成されるため、開封後ただちに相続登記等に利用できます。自筆証書遺言については、家庭裁判所の「検認」(遺言書の形状・加除訂正の状態等を確認し、偽造・変造を防止する手続)が原則必要ですが、検認は効力発生の要件ではありません。
法務局の自筆証書遺言保管制度を利用した自筆証書遺言(遺言書情報証明書の交付を受けるもの)および公正証書遺言は検認不要です。検認の所要期間は事案や裁判所の運用により異なります。
遺言書で不動産の取得者が明確に指定されている場合は、遺産分割協議を行う必要がありません。これにより、協議による対立や時間的負担を避けることができます。
遺言書がない場合
遺言書がない場合、法定相続人全員による遺産分割協議が必要です。協議で全員の同意が得られなければ、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることになります。調停でも合意が得られない場合には、最終的に審判によって裁判所が分割方法を決定します。
調停・審判に要する期間は事案の内容や裁判所の運用により大きく異なるため、期間の見通しは個別に確認してください。任意の合意形成が可能な段階で早期に協議を進めることが望ましいといえます。
3. 相続登記に必要な書類とその取得方法
相続登記に必要な主な書類は以下のとおりです。
必要書類一覧
- 相続登記申請書
- 登記原因証明情報(遺産分割協議書または遺言書〔検認・保管制度の要否は遺言形式による〕)
- 被相続人の戸(除)籍一式(出生から死亡まで)および住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人の戸籍謄本および住所証明(住民票等)、実印で作成した協議書を用いる場合は各相続人の印鑑証明書
- 固定資産税評価証明書(登録免許税の課税標準に用いるため最新年度を原則とする)
- (必要に応じて)法定相続情報一覧図の写し(戸籍束の代替提出として利用可)
※注:登記事項証明書(不動産の登記事項の確認用資料)は事前確認資料として取得するのが実務的であり、相続登記の申請添付の必須書類ではない。
書類取得のポイント
戸籍関係は本籍地の役所で取得します。登記事項証明書と固定資産税評価証明書は、それぞれ法務局と市区町村役場で発行されます。評価証明書は登録免許税の算出根拠となるため、最新年度のものを使用する必要があります。
相続登記申請書は法務局の様式・記載例ページから最新様式を入手してください。様式は改訂されるため旧版の使用は避けます。申請人欄・登記原因・不動産の表示(所在・地番・家屋番号)の誤記は補正指示の対象となります。記載例に従い、登録免許税額の算定根拠(固定資産税評価証明書の年度・評価額)も併せて確認します。
4. 相続税の申告と納付(10か月以内)
不動産を含む遺産の総額が「基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人)」を超える場合、相続税の申告が必要になります。
相続税申告の流れ
相続税の申告期限は、被相続人の死亡の事実を知った日の翌日から起算して10か月以内です。期限までに申告・納付を行わない場合、延滞税や加算税の対象となります。申告には、土地や建物の評価額を算出したうえで、他の財産(預金、有価証券など)と合算して課税価格を求めます。
不動産評価の方法
不動産の評価には「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。路線価が付されている地域では路線価方式を用い、国税庁が毎年7月上旬に公表する当年分(1月1日時点)の路線価に地積(㎡)を掛け、必要な補正率を適用して算定します。
路線価が付されていない地域では倍率方式を用い、固定資産税評価額に国税庁の評価倍率表に定める倍率を乗じて算定します。評価方法の選択は地域の都市・地方の別ではなく路線価の有無によって決まります。
5. 相続登記を完了させる意義
相続登記は単なる形式的な手続きではなく、権利関係を明確にする重要な行為です。登記を放置すると、時間の経過とともに相続人が増え、共有関係が複雑化するおそれがあります。共有者が増えるほど、将来的な売却・担保設定・建て替えが困難になります。
こうしたトラブルを避けるためにも、相続が発生した段階で早期に登記手続きを完了させることが望まれます。
2. 不動産相続における相続登記の義務化と注意点
2024年4月から、不動産の相続登記が義務化されました。これにより、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を行う必要があります。従来は登記を怠っても罰則がありませんでしたが、改正後は「正当な理由なく登記をしない場合、10万円以下の過料」が科される可能性があります。
相続登記の義務化は、所有者不明土地の増加を防止し、土地利用や取引を円滑化することを目的として導入されました。
1. 義務化の背景と目的
これまで相続登記が任意だったため、登記を行わないまま放置される不動産が増加していました。相続人の死亡や住所変更を経るうちに、関係者が多数に分散し、所有者が特定できない土地が全国で増え続けたことが社会問題となりました。
こうした土地は「所有者不明土地」と呼ばれ、国土交通省等の推計では、全国の土地の約2割(約20%)が所有者の探索・連絡が困難な状態とされます。この数値は推計であり、調査年次や手法により変動し得ます。売却・開発・公共事業の停滞要因となることから、民法および不動産登記法が改正され、相続登記の申請義務が新設されました。
2. 相続登記義務の内容と罰則
義務化によって、相続人は不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
「相続したことを知った日」とは
「相続したことを知った日」は、取得の態様により起算点が異なります。遺言(法定相続分を含む)により当初から自己が当該不動産を取得することが定まっている場合は、被相続人の死亡の事実を知った日が起算点となります。
遺産分割により当該不動産を取得する場合は、遺産分割が成立し自己の取得が確定した日(調停成立・審判確定の日を含む)を起算点とします。起算点の特定を誤ると申請期限(3年)の管理を誤るため、取得原因を先に確定させます。
期限を過ぎた場合
3年以内に申請しない場合、登記官が相当の期間を定めて申請を催告し、それでも申請がないときは裁判所に通知され、10万円以下の過料の手続に付されます。正当な理由(遺産分割調停中等)がある場合を除き、義務違反と評価されます。
なお、相続人申告登記を行った場合は、申請義務を履行したものとみなされます。
共同相続の場合
共同相続の場合、相続登記は相続人のうち一人が代表して申請できます。もっとも、遺産分割協議に基づく申請であれば相続人全員の同意がある協議書(実印・印鑑証明書)が必要です。
相続登記の申請義務は各共同相続人に個別に課され、過料手続の対象も各人単位で判断されます。代理人による申請も可能です。
3. 相続人申告登記制度の新設
義務化に伴い「相続人申告登記」が創設されました。これは、相続人が名義変更(所有権移転登記)を直ちに行えない場合に、一定事項を申出ることで申請義務を履行したものとみなされる制度です。
相続人申告登記の概要
相続人申告登記は、相続人が自身の氏名・住所、被相続人の氏名・最後の住所・死亡年月日、対象不動産の所在・地番(家屋番号)等を法務局へ申出る手続です。
登記簿には「相続があった旨」と申出人に関する事項が記録されますが、所有権名義は移転しません。申出は各共同相続人が個別に行うことができ、義務履行とみなされる効果は申出を行った相続人ごとに生じます。相続人申告登記は登録免許税が非課税です(手数料等の要否は実務運用に従います)。本手続は過料回避のための義務対応であり、遺産分割の成立等により取得内容が確定したのち、正式な相続登記を申請します。
利用が有効な場面
- 遺産分割協議が継続中で、登記原因(取得者・持分)が未確定のとき。
- 相続関係(戸籍)や財産範囲を精査中のとき。
- 共有者の一部の所在確認・連絡が遅れているとき。
注意点
相続人申告登記は義務の履行と同視されますが、売却・担保設定等の取引には利用できないため、可及的速やかに正式な相続登記へ移行します。申出事項の誤記や対象不動産の特定不備は、補正指示の対象となります。申出後に相続人や持分に変更が生じた場合は、改めて正式登記で整序します。
4. 相続登記にかかる費用と登録免許税
相続登記に要する費用は、不動産の評価額に応じて決まります。
登録免許税の計算方法
登録免許税は「固定資産税評価額 × 0.4%」が基本です。たとえば、固定資産税評価額が3,000万円の不動産であれば、登録免許税は12万円となります。ただし、土地と建物が別の登記である場合、それぞれに課税される点に注意が必要です。
その他の費用
- 登記事項証明書の交付手数料:1通600円
- 評価証明書の発行手数料:1通200〜400円程度
- 司法書士に依頼する場合の報酬:物件数、登記原因、戸籍収集の有無、緊急性等により大きく変動
費用を抑えるポイント
登録免許税には、相続に伴う土地の登記に適用できる免税の特例(時限措置)があります。
代表例は、①相続による土地の所有権移転登記・保存登記の免税、②課税標準が100万円以下の土地に係る所有権移転登記等の免税、③被相続人から取得した土地について、相続人が名義変更前に死亡したため当該相続人を登記名義人とする所有権移転登記を行う場合の免税です。
いずれも適用期限(現行:令和9年3月31日まで)および個別要件が定められているため、申請前に最新の国税庁等の公表情報で要件と期限を確認し、該当しているかを確認しましょう。
5. 義務化により求められる注意点
登記を行わないまま3年を過ぎると、過料の対象となるだけでなく、相続人の一部が死亡した場合に新たな相続が発生し、手続きがさらに複雑化します。結果として、登記簿上の名義が長期間変更されず、売却や担保設定ができなくなるおそれがあります。
登記手続の不備
登記申請書や添付書類に誤りがあると、法務局から補正指示を受け、再提出が必要になります。期限直前で申請が差し戻された場合、義務期間を超過する可能性があるため、書類作成時の確認が欠かせません。
協議の遅延による過料リスク
遺産分割協議が長引く場合、登記期限を超過することも考えられます。その場合は、相続人申告登記を先に行い、形式的に義務を履行しておくことが推奨されます。
3. 不動産相続の方法と名義変更の種類
不動産を相続する場合には、単に「誰が相続するか」を決めるだけでなく、どのような形で財産を分けるかを選択する必要があります。
相続人間での合意内容によって、名義変更の方法や登記手続も異なります。ここでは、代表的な4つの相続方法 ― 現物分割、代償分割、換価分割、共有名義 ― について、その仕組みと特徴、法的な注意点を詳しく解説します。
1. 現物分割:不動産をそのまま相続する方法
現物分割とは、不動産を物理的に分けずにそのままの形で相続人の一人が取得する方法です。遺産分割協議の結果、たとえば「長男が自宅を相続し、次男が預金を相続する」といったように、不動産以外の資産と調整して公平を図るケースが多く見られます。
現物分割のメリット
- 不動産をそのまま引き継げるため、住み慣れた住宅を維持できる。
- 登記手続が比較的簡易で、相続登記のみで完結する。
- 不動産の評価額に応じて他の財産で調整すれば、公平な分割が可能。
現物分割のデメリット
- 不動産が高額資産の場合、他の相続人の不満が生じやすい。
- 遺産の全体価値のバランスを取る必要があり、調整が難しい。
- 不動産の評価を誤ると「不公平な分配」として紛争につながる。
登記上の取り扱い
現物分割で不動産を単独取得する場合、登記原因は「相続」とし、登記原因日付は被相続人の死亡日とします。登記名義人は取得者とし、遺産分割協議書を登記原因証明情報として添付します。
共有取得とする場合は、各相続人の持分割合(例:2分の1等)を協議書に明記します。物件の特定(所在・地番・家屋番号)と固定資産税評価証明書の年度の記載・確認を行い、登録免許税の算定根拠と整合させます。
2. 代償分割:代金を支払って不動産を取得する方法
代償分割とは、不動産を相続人の一人が取得し、その代わりに他の相続人に代償金(補償金)を支払う方法です。たとえば、相続人Aが不動産を取得し、他の相続人B・Cにそれぞれ500万円ずつ支払うという形で公平を保ちます。
代償分割の特徴
- 現金の支払いで調整できるため、遺産全体の公平性を確保しやすい。
- 不動産の価値が高い場合や、他に分けられる資産が少ない場合に有効。
- 家族の居住や事業継続を優先したいケースにも適している。
留意点とトラブル防止策
代償金の金額は、不動産の評価方法によって大きく変わります。路線価・時価・近隣取引事例など、どの基準で評価するかを明確にしておかなければなりません。また、支払い時期や方法(現金一括・分割払いなど)を協議書に明記しておくことが重要です。
これを怠ると、後日「支払いが不履行」として紛争になることがあります。
登記の手続
代償分割に基づく相続登記では、登記原因は「相続」とし、遺産分割協議書を登記原因証明情報として添付します。登記名義人は不動産を取得する相続人とします。領収書等の代償金の支払確認書類は、実体関係の立証や紛争予防の観点で保管し、必要に応じて提出します。
3. 換価分割:不動産を売却して代金を分ける方法
換価分割とは、不動産を相続人全員の合意で売却し、その売却代金を相続分に応じて分ける方法です。相続人の誰も不動産を引き継がない場合や、共有を避けたい場合に採用されることが多い手法です。
換価分割のメリット
- 現金化されるため、分割が容易で公平性が高い。
- 不動産の維持管理や固定資産税の負担がなくなる。
- 相続人全員が資産を現金で受け取れるため、処分後のトラブルが少ない。
換価分割のデメリット
- 売却までの期間や価格が市場動向に左右される。
- 不動産の売却益に対して譲渡所得税が課税される場合がある。
- 相続人全員の同意が必要であり、意見の不一致があると手続きが進まない。
換価分割の注意点
売却を行う場合は、相続登記(被相続人から相続人への所有権移転)を経たうえで売買登記に進むのが基本です。相続登記と売買登記は連件(同時)申請も可能です。被相続人名義のまま買主へ直接移転する中間省略登記は認められていません。
4. 共有名義:複数の相続人で共同所有する方法
共有名義とは、不動産を複数の相続人で共有する形で相続する方法です。たとえば、兄弟3人がそれぞれ3分の1ずつの持分を取得し、登記簿上に3人の名義を連名で記載します。
共有名義の特徴
- 売却や賃貸をする際には、共有者全員の同意が必要。
- 固定資産税や修繕費は、持分割合に応じて負担する。
- 将来的に相続人が死亡すると、持分がさらに細分化する。
共有名義のリスク
- 一部の共有者が所在不明になると、売却や管理が困難になる。
- 持分を第三者に譲渡されると、親族以外の者が共有者となる場合がある。
- 長期的には、トラブルや換価困難につながることが多い。
共有を避ける工夫
共有状態を避けたい場合は、遺言書で特定の相続人に不動産を単独相続させる旨を明記しておく方法が有効です。
すでに共有になっている場合には、「共有物分割請求」(民法第256条)を地方裁判所または簡易裁判所に提起し、競売・代金分割・現物分割等の方法で解消することも可能です。
5. 相続方法の選択における判断基準
相続方法を決める際には、次の3つの観点を整理すると判断がしやすくなります。
- 公平性
相続人間での不公平感を最小限にすることが重要です。不動産の評価を複数の基準で検証し、金銭や他の資産でバランスを取ることが望まれます。
- 維持管理
不動産を維持する意思や経済的余力があるかどうかを確認します。固定資産税や修繕費など、取得後に発生する費用を考慮して判断することが必要です。
- 将来の流動性
将来的に売却や賃貸を想定している場合、共有名義よりも単独所有が適しています。相続人間での意思決定が早く、法的リスクも小さくなります。
4. 不動産相続の評価方法と相続税への影響
不動産の相続税を算出する際には、土地や建物などの「評価額」を正確に求める必要があります。
評価額は市場価格とは異なり、国税庁が定める一定の基準(路線価方式・倍率方式)に基づいて算出されます。この評価が高ければ課税額が増え、低ければ納税額が減るため、評価方法の理解は相続全体の重要な要素です。
ここでは、不動産評価の基本的な考え方と、相続税計算への影響について整理します。
1. 土地の評価方法(路線価方式・倍率方式)
相続税の土地評価は、原則として「路線価方式」と「倍率方式」のいずれかで行われます。どの方式を用いるかは、土地の所在地によって異なります。
路線価方式とは
路線価方式は、市街地などで土地が道路に面している場合に用いられる評価方法です。国税庁が毎年7月上旬に公表する当年分(1月1日時点)の「路線価図」において、各道路に設定された1㎡あたりの路線価を確認し、その価額に土地の面積(㎡)を掛け合わせて算出します。
たとえば、路線価が30万円/㎡、土地面積が100㎡の場合、評価額は3,000万円となります。
路線価には、土地の形状・奥行き・間口・角地などを補正するための「補正率」が設けられています。形状が不整形で利用しにくい場合や、奥行きが極端に長い場合には、補正率を適用して減額することが可能です。
倍率方式とは
倍率方式は、路線価が付されていない地域で用いる土地評価の方法です。市区町村が賦課の基礎とする固定資産税評価額に、国税庁の「評価倍率表」に定める地目・地域別の倍率を乗じて算出します。倍率は地域・地目・年度により異なります。
例:固定資産税評価額1,000万円 ×(当年度の)評価倍率=相続税評価額
路線価方式に比べると単純ですが、地域によっては倍率が更新されにくいため、最新の国税庁データを確認することが重要です。
2. 家屋・マンションの評価方法
建物(家屋)の相続税評価は、原則として固定資産税評価額を用います。固定資産税評価額は3年度ごと(評価替え年度)に見直され、構造・築年数・延床面積等を基礎に各自治体が決定します。相続税評価は減価償却計算や時価推計では行わない点に留意しましょう。
木造・鉄筋構造による違い
- 木造:経年による評価減が生じやすい。固定資産税評価額に反映される。
- 鉄骨・RC造:耐用性により評価の下落が緩やかな傾向。ただし個別事情により異なる。
マンションの場合は、土地と建物の持分がそれぞれ存在します。
たとえば「敷地権付き区分所有建物」の場合、土地の評価を持分割合で按分し、建物の評価と合算します。築年数が古いマンションでは建物部分の評価が下がり、結果として相続税評価額が低くなる傾向にあります。
3. 小規模宅地等の特例による評価減
相続税法では、被相続人が居住または事業に使用していた土地について、一定の条件を満たす場合に「小規模宅地等の特例」を適用することができます。
この制度により、課税対象となる土地の評価額を大幅に減額することが可能です。
特例の概要
・特定居住用宅地等
被相続人の居住の用に供されていた宅地等につき、最大330㎡まで評価額80%減額。
・特定事業用宅地等
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等につき、最大400㎡まで評価額80%減額。
・貸付事業用宅地等
不動産貸付業等の用に供されていた宅地等につき、最大200㎡まで評価額50%減額。
・面積配分・併用
居住用330㎡と事業用400㎡は併用可(最大730㎡)。貸付用200㎡は他区分との併用は面積配分の範囲内で可能だが、貸付用の上限は200㎡まで。
たとえば、3,000万円の評価額の土地が特定居住用宅地に該当する場合、課税対象額は600万円にまで下がります。この制度は相続税負担を大幅に軽減できる一方で、適用には厳密な要件があります。
適用要件の注意点
- 配偶者が取得する居住用は同居・持家要件なしで適用対象。
- 同居親族が取得する居住用は、相続開始直前から居住し、申告期限までの継続居住・継続保有が原則。
- 家なき子要件(居住用)は取得者が相続開始前3年以内に自己または同居親族の持家に居住していないこと、かつ被相続人に配偶者や同居親族がいない等の要件を充足すること。
- 事業用・貸付用は、相続開始前から事業(または貸付)に供されていること、および申告期限までの継続保有が必要。
いずれの区分も相続税の申告において適用の届出と明細書の添付が必要です。適用可否は具体的事実関係(同居の実態、保有状況、面積配分)により判断されます。
要件を誤ると適用が認められないため、税理士による確認が不可欠です。また、相続人が複数いる場合には、どの宅地に特例を適用するかを事前に調整しておく必要があります。
4. 相続税の計算の基本構造
相続税は、すべての遺産の評価額を合計した「課税価格」をもとに算出します。
計算手順は次のとおりです。
① 課税価格の算出
(不動産の評価額 + 預貯金・有価証券・保険金等) − 債務・葬式費用 = 課税価格
② 基礎控除の適用
課税価格が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以下の場合は、相続税は発生しません。
例:相続人が配偶者と子2人(計3人)の場合
→ 基礎控除額は 3,000万円+600万円×3=4,800万円。
遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税の申告は不要です。
③ 相続税率の適用
基礎控除後の課税価格について、各相続人の法定相続分に応ずる課税価格を用い、速算表(税率10〜55%)で相続税の総額を算出します(各人の実際の取得分に直接税率を当てる方式ではない)。その後、各人の実際の取得割合で按分し、税額軽減・加算(配偶者の税額軽減、未成年者控除等)を反映します。
税率は相続額の大きさに応じて段階的に上昇します。
| 課税価格(法定相続分ごと) | 税率 | 控除額 |
| 1,000万円以下 | 10% | なし |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
④ 配偶者控除・相続人控除
配偶者には「配偶者の税額軽減」が適用され、配偶者の取得に対応する相続税額について、法定相続分相当額または1億6,000万円のいずれか多い金額に対応する部分の税額が軽減されます(結果として税額が0となる場合がある)。
本軽減の適用を受けるには相続税の申告が必要です。取得内容・計算根拠を申告書に明記し、必要書類を添付します。併せて、未成年者控除・障害者控除・相次相続控除などの各種税額控除の適用可否も確認します。
5. 相続税が発生する代表的なケース
相続税が課されやすいのは、以下のようなケースです。
- 都市部の土地を相続する場合(地価が高い地域)
- 自宅・賃貸物件・預貯金など複数の財産を保有している場合
- 二次相続(配偶者が亡くなった後に子が相続)で控除が減る場合
- 遺産の一部を生前贈与されている場合
(暦年課税の贈与は原則として相続開始前7年以内が加算対象。令和9年1月1日から令和12年12月31日までの相続については経過措置により令和6年1月1日以後の贈与分を加算。令和13年1月1日以後の相続は7年加算)
これらの条件が重なると、相続税が高額になる傾向があります。早期に評価額を試算し、特例の活用や分割方法の検討を進めることが重要です。
5. 不動産相続でよくあるトラブルとその防止策
不動産の相続では、預金や現金のように分割が容易ではないため、家族間での感情的な対立や法的な紛争が発生しやすい特徴があります。また、不動産の評価額・名義・登記・管理など、複数の制度が絡むため、ひとつの判断ミスが大きなトラブルに発展することも少なくありません。
ここでは、弁護士の相談が特に多い典型的なトラブルを分類し、それぞれの原因と防止策を具体的に整理します。
1. 遺産分割協議での意見対立(共有・代償金トラブル)
相続人が複数いる場合、不動産を誰が相続するかを決める「遺産分割協議」で意見が分かれることが最も多いトラブルです。特に不動産は金額が大きく、他の財産とのバランスを取ることが難しいため、感情的な衝突に発展するケースが目立ちます。
トラブルの主な原因
- 不動産の評価方法(時価・路線価・固定資産税評価額)が統一されていない。
- 同居していた相続人が「自分が維持管理してきた」と主張し、他の相続人が不公平と感じる。
- 被相続人の遺言が不明確で、分配の根拠が曖昧。
- 「代償金の支払い方法」を明確に決めていなかった。
典型的な事例
例えば、被相続人の自宅を長男が取得する代わりに、妹に代償金を支払う約束をしたが、支払能力が不足して滞納し、最終的に裁判で支払いを命じられた事例があります。また、評価額を巡る争いでは、路線価ベースでは公平でも、時価換算では偏りが出ることがあり、「実際に売ると高値で売れた」「評価が低すぎた」と後から不満が生じることもあります。
防止策
- 協議の初期段階で、不動産鑑定士や税理士による第三者評価を取得する。
- 協議書には「代償金の支払い額」「支払日」「支払い方法(現金・振込)」を明記する。
- 代償金の原資を住宅ローン等で賄う場合は、金融機関との契約内容も添付しておく。
- 合意内容を文書化し、署名押印後にコピーを全員で保管する。
協議段階での「曖昧な取り決め」が後の紛争を生むため、書面化と第三者評価が最も有効な予防策となります。
2. 登記遅延・共有名義の放置による紛争化
不動産の相続登記を行わずに放置しているケースでは、時間の経過とともに法的関係が複雑化します。相続人の一人が死亡すれば、その持分がさらに次世代へ分割され、結果として共有者が増え続けます。10年〜20年を経過すると、当初3人だった相続人が10人以上になることも珍しくありません。
放置の典型的な結果
- 共有者の一部が行方不明または高齢で意思確認ができず、売却が進まない。
- 固定資産税の納付書が代表者宛に届き、他の共有者が負担を拒む。
- 共有不動産の一部を無断で使用・賃貸し、他の共有者との間で損益を巡る争いが発生する。
登記を怠ることのリスク
相続による所有権取得は登記を対抗要件とするため(民法177条)、登記を備えていない場合は第三者に対して所有権を対抗できない場合があります。取引・担保設定の実務でも登記未了は手続進行の障害となります。
また、2024年施行の登記義務化制度により、3年以内に登記を行わなければ10万円以下の過料が科されるおそれがあります。さらに、登記がなければ金融機関の担保設定や売却手続ができず、資産としての流動性を失います。
防止策
- 相続が発生した段階で、登記を最優先事項として進める。
- 相続人間で共有名義を避け、単独取得または代償分割を基本とする。
- 既に共有状態になっている場合は、「共有物分割請求」や「調停による分割」を検討する。
- 相続人のうち高齢者や住所不明者がいる場合は、早期に弁護士へ相談し、登記準備を進める。
3. 評価額・税負担・特例の適用をめぐる対立
相続税や固定資産税などの税負担に関するトラブルは、法律上の制度理解の不足から生じることが多い問題です。特に「小規模宅地等の特例」や「配偶者控除」の適用条件が曖昧なまま協議が行われると、後から「自分が損をした」と感じる相続人が現れやすくなります。
対立が起こる典型例
- 特例を利用する宅地をどの相続人に適用するかで意見が割れる。
- 不動産の評価額を時価で主張する相続人と、路線価で主張する相続人が対立する。
- 相続税を代表者が立て替えたが、他の相続人が分担に応じない。
防止策
- 税理士に依頼して、国税庁「財産評価基本通達」に基づく「財産評価明細書」を作成し、根拠資料(路線価図・評価倍率表・固定資産税評価証明書・計算過程)と一体で全相続人に共有する。
- 評価方法(路線価方式・倍率方式・補正率の内容)、小規模宅地等の特例の区分・面積配分、各種控除の適用可否を一覧化し、合意書に明記する。
- 代表して相続税等を納付する場合は、納付書控・領収書・精算書を保存し、負担割合と清算期日を文書化する。
税務面のトラブルは感情的な問題に発展しやすく、金額の公平性だけでなく「説明責任の透明化」が重要なポイントになります。
4. 代償金支払い・換価分割での資金トラブル
代償分割や換価分割を選んだ場合、資金計画の不備が新たなトラブルを生むことがあります。代償金の支払いが遅れたり、換価分割の売却が想定より低価格になったりすると、協議が再燃するおそれがあります。
典型的な事例
- 代償金を住宅ローンで支払う予定だったが、審査に落ちて支払いができなくなる。
- 売却予定の土地が市況悪化により予定額より大幅に値下がりし、配分金が減少。
- 相続人の一部が「早期売却に反対」して足並みが揃わず、数年放置される。
防止策
- 不動産を売却する場合は、査定を複数社から取り、相場を明確にする。
- 売却代金の配分を「割合」「金額」「支払い時期」で具体的に定義する。
- 代償金を支払う相続人は、金融機関に仮審査を依頼し、資金確保を確認する。
- 協議書に「支払遅延時の対応(利息・期限の利益喪失)」を明文化する。
このように金銭面のトラブルは、書面と資金確認の不足から発生する傾向があります。
5. 感情的対立・家庭関係の悪化
不動産相続では、金銭よりも「感情の対立」が深刻化しやすい点も見逃せません。長男が自宅を相続する一方で、他の兄弟が「親の介護を手伝ったのに報われない」と不満を抱くなど、家庭内の心理的要因が大きく影響します。これが協議の停滞や、裁判への発展につながることがあります。
対立が生じやすい背景
- 被相続人の生前贈与が偏っていた。
- 相続前に「長男が後を継ぐ」と口頭で言われていた。
- 感謝や信頼よりも「損得」が前面に出てしまう。
防止策
- 遺言書を作成する段階で、意図や理由を明確に記録しておく。
- 相続開始前から家族で話し合い、情報を共有しておく。
- 感情的な対立が生じた場合は、弁護士を第三者調整役として介入させる。
争いの多くは「知らされていなかった」「納得できない」という心理的要因から始まります。透明な情報共有と、早期の専門家関与が最も効果的です。
6. 弁護士が介入することで得られる効果
不動産相続の問題は、法律・税務・家族関係の三つが交錯する複合的な問題です。弁護士が関与することで、法的手段の選択肢を整理し、冷静な合意形成を促すことができます。
弁護士の主な役割
- 遺産分割協議書・合意書の作成・チェック
- 相続人間の代理交渉および調停・訴訟の代理
- 相続放棄・限定承認の判断サポート
- 登記・税務・遺言など他士業との連携による総合対応
早期相談のメリット
- 感情的な対立を防ぎ、協議の進行を円滑にする。
- 相続登記や税務申告などの期限を逃さず手続きを進められる。
- 紛争化した場合でも、早期の法的整理で時間と費用を抑えられる。
特に、相続登記の義務化後は「放置しておけない相続」が増えています。弁護士による初期段階での関与は、円満な相続を成立させるうえで極めて効果的です。
6. 不動産相続で弁護士に相談すべきケース
不動産の相続は、遺産分割や登記などの形式的な手続きにとどまらず、家族間の対立・税務処理・売却など、複数の要素が絡み合います。そのため、状況によっては専門的な法的判断が必要となる場面が多くあります。
ここでは、弁護士への相談が有効な代表的ケースを整理し、その理由と相談する際のポイントを解説します。
1. 共有名義・代償金交渉が難航している場合
複数の相続人が関係する場合、誰がどの財産を取得するかの協議が難航することがあります。特に、不動産を共有にするか、単独相続とするかをめぐる議論は、相続トラブルの中心となりやすいテーマです。
共有状態のまま放置するリスク
共有状態では、売却・賃貸・担保設定などの際に全員の同意が必要です。一人でも反対者がいると処分ができず、事実上「凍結」された状態になります。また、共有者の一人が死亡した場合、その持分がさらに相続されるため、登記名義人が増え続け、解決が困難になります。
弁護士が介入する利点
- 相続人間の交渉を代理し、感情的対立を抑えつつ法的に整理できる。
- 共有物分割請求や換価分割の提案など、裁判所手続を見据えた解決案を提示できる。
- 代償金の金額・支払条件を明確にした協議書を作成し、紛争を未然に防止できる。
共有名義が長期化すると、売却や再建築ができなくなることもあります。早期に弁護士へ相談することで、将来的な資産価値の目減りを防ぐことが可能です。
2. 相続登記や税務処理が複雑化している場合
2024年の法改正により、相続登記が義務化されましたが、登記の対象となる不動産が複数ある場合や、過去の登記内容が古い場合には、手続きが複雑化します。また、税務上の特例(小規模宅地等の特例、配偶者控除など)の適用判断も難しく、誤ると多額の税負担につながることがあります。
相談が必要となるケース
- 被相続人の名義のまま数十年放置されている土地がある。
- 複数の市区町村に不動産があり、どの法務局に申請すべきか不明。
- 生前贈与や養子縁組などがあり、相続人関係が複雑になっている。
- 相続税申告に必要な評価方法や控除が適用できるか判断できない。
登記や税務の判断を誤ると、登記のやり直しや追徴課税が発生する場合があります。手続きが複雑だと感じた段階で、弁護士へ相談することが安全です。
3. 相続放棄・限定承認を検討している場合
被相続人に多額の借金や債務がある場合、相続人は「相続放棄」または「限定承認」という選択をすることができます。不動産が含まれている場合、この判断を誤ると、不要な債務を負うリスクがあります。
相続放棄とは
相続放棄は、家庭裁判所への申述により初めから相続人でなかったものとみなされる手続です。
被相続人の財産・債務を一切承継しません。申述期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」が原則です。期間内に熟慮期間伸長の申立てが認められる場合があります。放棄後は、その者を相続人としない前提で相続関係・持分計算が再構成されます。
限定承認とは
限定承認は、相続によって得た積極財産の範囲内で被相続人の債務・遺贈を弁済する手続です。
プラスの範囲を超えてマイナスが及ばないため、債務超過のおそれがあるが特定資産を維持したい場合などに用います。申述は共同相続人全員で行う必要があり、目録の作成・公告・清算など所定の手続を経ます。取扱いは形式・期限が厳格なため、早期に専門家へ確認します。
弁護士が関与する意義
- 放棄・限定承認の申述書作成と証拠書類の整理。
- 相続人間の同意形成をサポートし、期限内の申立を支援。
- 放棄後の登記処理や残余財産処理の対応。
これらの手続きは期限と形式が厳格なため、早期に専門家へ相談することが不可欠です。
4. 不動産売却・換価分割を行う予定がある場合
相続した不動産を売却して現金化する「換価分割」を選択する場合、法律的・税務的な調整が必要です。特に、複数の相続人が関与する売却は、代表者の権限確認や契約書の作成方法を誤ると無効になるおそれがあります。
注意が必要なケース
- 相続登記が完了していないまま売却を進めている。
- 一部の相続人が反対しており、売却に同意していない。
- 不動産業者との契約条件(専任媒介など)を相続人全員が理解していない。
相続不動産の売却は、感情的な要素が絡みやすく、契約後のトラブルも発生しやすいため、契約前に弁護士による確認を受けることが望まれます。
5. 家族間の関係が悪化している場合・調停を視野に入れる場合
相続における最も深刻なトラブルは、家族間の信頼関係が崩れ、協議が進まなくなるケースです。特に、過去の介護や生前贈与への不満、配偶者・兄弟姉妹間の不信などが根深い場合、話し合いだけでの解決は難しくなります。
弁護士が果たす役割
- 第三者として中立の立場から意見調整を行い、法的観点での折衷案を提示。
- 協議が決裂した場合には、家庭裁判所への遺産分割調停を代理。
- 必要に応じて調停証書の内容を登記や契約に反映。
早期相談の重要性
感情的対立が深まるほど、時間・費用・心理的負担が増加します。初期の段階で弁護士が介入すれば、法的な枠組みで協議を整理でき、家族関係の悪化を最小限に抑えることができます。
不動産の相続のトラブルでお困りならお問い合わせください
不動産の相続は、登記・評価・税務・協議といった複数の要素が関係し、一つの判断を誤るだけで長期的なトラブルに発展することがあります。特に、相続登記の義務化が始まった現在では、登記を怠ると過料の対象となるだけでなく、共有名義のまま放置することで売却や管理ができなくなるおそれがあります。
相続人間の意見がまとまらない場合や、代償金・評価額・税金の取り扱いで不安がある場合は、専門家による早期の助言が重要です。
弁護士は、相続人間の交渉を中立的に整理し、法的根拠に基づいた円満な合意形成を支援します。登記や協議書の作成だけでなく、調停・訴訟・売却サポートまで一貫して対応できる点も大きな強みです。
「相続登記をどう進めればよいかわからない」「家族との話し合いが進まない」といった段階でも、早めに相談することでトラブルを防ぎ、負担を最小限に抑えることができます。
不動産の相続に関してお困りの方は、ぜひ一度、弁護士法人M&A総合法律事務所までお問い合わせください。経験豊富な弁護士が、状況に応じた最適な解決策を丁寧にご案内いたします。
※本記事は一般的解説であり、法律・税務・会計・不動産評価その他の専門的助言を構成しません。結論は個別の事情(相続関係・持分・遺言・契約・資産状況・居住実態等)により異なります。最終的な登記・税務申告・特例適用の可否は、必ず専門家にご確認ください。
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