親族経営の同族会社において、避けては通れないのが「非上場株式の相続問題」です。経営者の逝去に伴い、それまで表面化していなかった親族間の人間関係や、株式の分配を巡る対立が一気に噴出することは珍しくありません。
特に、市場で取引されない非上場株式は「適正な価値が分かりにくい」という性質があり、これが相続トラブルを長期化・複雑化させる最大の要因となります。後継者ではない相続人から「遺留分(法律上、最低限保障された遺産の取り分)」を請求された場合、会社の経営権を揺るがす危機に発展することすらあるのです。
本記事では、同族会社の相続で直面しやすい問題点から、非上場株式の評価額を決める複雑な計算方法、そして経営権を守りながら遺留分トラブルを解決する具体的な対処法まで、実務に強い弁護士が徹底的に解説します。
親族間での泥沼化を防ぎ、大切な会社と財産を次世代へ円滑に引き継ぐためのノウハウを、ぜひ最後までお読みいただきお役立てください。
1. 同族会社でなぜトラブルが起きるのか、非上場株式の相続で直面しやすい問題点
同族会社における相続は、一般的な個人の財産相続とは異なり、会社の経営権や事業継続が深く絡み合うため、非常に複雑なトラブルに発展しやすい傾向があります。その中心にあるのが、市場での売買が行われない「非上場株式」の存在です。
非上場株式の相続において、多くの遺族が直面しやすい問題点には、主に以下の3つの要因があります。
第一に、非上場株式には「明確な市場価格が存在しない」という点です。上場企業の株式のように日々株価が公表されているわけではないため、会社の資産状況や業績、配当状況などをもとに複雑な税法上の評価方法を用いて算出する必要があります。この評価額の算定をめぐり、相続人の間で意見が対立することが少なくありません。
第二に、非上場株式は「現金化が極めて困難である」という点です。買い手が簡単に見つからないため、相続税の納税資金が必要であるにもかかわらず、株式を売却して現金を作ることができません。これにより、相続税の支払いに窮する相続人が出てしまう問題が生じます。
第三に、「経営権と財産権の不一致」が挙げられます。会社の経営を引き継ぐ後継者に株式を集中させなければ、迅速な意思決定や安定した会社経営は難しくなります。しかし、他の相続人からすれば、特定の相続人だけが多額の株式を相続することに納得がいかない場合があります。後継者以外の相続人には、遺留分と呼ばれる最低限の遺産を受け取る権利があるため、非上場株式の評価額が高額になると、後継者が他の相続人に対して多額の金銭(遺留分侵害額請求に伴う金銭)を支払わなければならなくなる事態に陥ります。
このように、同族会社における非上場株式の相続は、単なる財産の分け合いにとどまらず、会社の存続すら揺るがしかねない深刻な争いへと発展するリスクを孕んでいます。
2. 知らないと損失を被る、非上場株式の評価額を決める3つの計算方法
同族会社の相続において、最もトラブルに発展しやすい要素の一つが「非上場株式の評価額」です。上場株式のように毎日市場で取引されているわけではないため、一目でその価値を判断することができません。そのため、評価額の算定方法を知らないまま遺産分割や遺留分の請求を進めてしまうと、本来受け取るべき財産よりも著しく低い評価額で合意してしまい、大きな損失を被るリスクがあります。
税務上、非上場株式(取引相場のない株式)の評価額を決める際には、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づき、主に以下の3つの計算方法が用いられます。会社の規模や株主の立場によって使い分ける必要があるため、それぞれの特徴を正しく理解しておきましょう。
まず1つ目は「類似業種比準方式」です。これは、評価対象の会社と事業内容が類似している上場会社の株価や、配当金、利益、純資産の3つの要素を基準にして株価を算出する方法です。主に中規模以上の同族会社に適用されることが多く、一般的に、次章で紹介する純資産価額方式よりも評価額が低く抑えられる傾向があります。
2つ目は「純資産価額方式」です。会社が保有する全ての資産と負債を相続発生時の時価で評価し直し、差し引いた実質的な純資産額(価値)をベースに株価を算出する方法です。主に小規模な会社に適用されます。会社を今すぐに解散・清算した場合に、株主一人あたりにいくら分配されるかという視点で計算するため、含み益のある不動産や有価証券を多く保有している会社では、評価額が高額になりやすいという特徴があります。
3つ目は「配当還元方式」です。これは、過去の配当実績に基づいて将来受け取ることができる配当期待値から株価を算出する方法です。同族株主以外の少数株主(会社の経営権を持たない小口の株主など)が相続・贈与によって株式を取得する場合にのみ適用されます。経営権に関与できない株主にとっての株式価値は配当のみにあるという考え方に基づくため、3つの計算方法の中で最も評価額が低く算出されます。
このように、非上場株式の評価は「誰が株式を取得するのか」「会社の規模はどの程度か」によって算出方法が全く異なり、結果として遺留分の金額にも数倍から数十倍の差が生じることがあります。適切な価値評価を行い、不利益を被らないようにするためには、専門的な知識を持った弁護士や税理士などの専門家へ相談することが極めて重要です。
3. 経営権を守りながら解決する、遺留分侵害額請求への正しい対処法
同族会社の事業承継において、後継者以外の相続人から「遺留分侵害額請求」を起こされた場合、最も優先すべきは「会社の経営権を守ること」です。非上場株式が分散し、後継者以外の親族が株主として経営に関与する事態は、迅速な意思決定を妨げ、企業の存続そのものを揺るがしかねません。
法改正により、遺留分の返還は原則として「現物(株式)」ではなく「金銭(お金)」による解決がルールとなりました。つまり、請求を受けたからといって、後継者が保有する株式をそのまま渡す必要はありません。しかし、非上場株式の評価額が高額である場合、請求される金額も数千万円から数億円に上ることがあり、支払いのための資金調達が極めて重要な課題となります。
経営権を守りながら遺留分侵害額請求に対処するためには、以下のステップが有効です。
まず、遺留分算定の基礎となる「非上場株式の評価額」が適正であるかを精査します。相手方が主張する評価額は高すぎるケースが多いため、相続税評価額や純資産価額などを元に、専門的な知見から妥当な金額を割り出す必要があります。
次に、支払資金の確保です。後継者の個人資産だけで賄えない場合は、会社から後継者への貸し付けや退職金の支給、あるいは会社による自己株式の買い取り(金庫株の活用)などを検討します。これには税務面での配慮も不可欠です。また、支払いまでに猶予が必要な場合は、裁判所に対して支払期限の猶予を申し立てることも可能です。
さらに、将来のトラブルを予防するために「経営承継円滑化法」に基づく「除外合意」や「固定合意」といった民法の特例あらかじめ活用しておくことも強力な対策となります。
遺留分侵害額請求への対応は、初期の交渉段階での対応がその後の金銭負担や経営権の行方に大きく影響します。自社の株価算定や支払資金の調達方法、合意書の作成など、法務と税務の双方から総合的にアプローチできる弁護士へ早期に相談し、会社を守るための最善の手立てを講じることが賢明な判断です。
4. 親族間での泥沼化を防ぐために、生前から準備しておくべき遺言と対策
同族会社の経営権や資産をめぐる相続争いは、一度こじれてしまうと感情的な対立も加わり、親族間で泥沼化するケースが少なくありません。特に非上場株式は、現金のように簡単に分割できないため、事前の対策が極めて重要です。後継者へ円滑に事業を承継し、家族の絆を守るために、生前から準備しておくべき具体的な対策を解説します。
まず、最も有効な手段となるのが「遺言書の作成」です。遺言書において、会社の経営権となる非上場株式を特定の後継者に一括して相続させる旨を明確に指定しておきます。これにより、遺産分割協議での経営権の分散を防ぐことができます。ただし、単に遺言書を書くだけでは、他の相続人から「遺留分(法律上、最低限保障された遺産の取り分)」を請求された際に、後継者が多額の金銭を支払わなければならなくなるリスクが残ります。
この遺留分トラブルを防ぐための強力な生前対策として、「経営承継円滑化法に基づく民法の特例(除外合意・固定合意)」の活用が挙げられます。この特例を利用し、推定相続人全員の合意を得て家庭裁判所の許可を受けることで、後継者に贈与された非上場株式を遺留分の対象から除外すること(除外合意)や、遺留分の算定基準となる株式の評価額をあらかじめ固定すること(固定合意)が可能になります。これにより、将来的な会社の成長に伴う株式価値の上昇が、遺留分紛争の火種になることを防げます。
また、遺言書と併せて、他の相続人に対して非上場株式以外の財産(不動産や預貯金、生命保険金など)を十分に手当てしておくことも欠かせません。後継者以外の相続人が納得できるような財産分配をあらかじめ設計しておくことで、不満によるトラブルを未然に防ぐことができます。
同族会社の相続対策は、税務、法務、そして親族間の関係性など、多角的な視点からのアプローチが必要です。経営者が健康で判断能力が十分にあるうちに、専門的な知識を持つ弁護士などの専門家に相談し、最適な遺言書の作成や特例の活用を進めることが、未来の会社と家族を守る確実な一歩となります。
5. 複雑な株式相続を円満に解決するために、弁護士へ相談するメリット
同族会社の株式相続は、一般的な預貯金や不動産の相続とは異なり、会社の経営権や将来の事業承継が絡むため、極めて複雑な問題へと発展しやすい特徴があります。特に非上場株式の評価額や、遺言書によって特定の経営後継者に株式を集中させたことで発生する「遺留分」の侵害額請求は、親族間での深刻な対立を生む原因となります。こうしたトラブルを未然に防ぎ、あるいはすでに発生してしまった紛争を円満に解決するためには、専門知識を持つ弁護士への相談が非常に有効です。
弁護士に相談する最大のメリットは、法的な観点に基づいた客観的かつ適正な株式評価と遺留分の算定が可能になる点です。非上場株式の評価方法には、類似業種比準方式や純資産価額方式など複数の複雑な計算方法が存在し、どの評価方法を選択するかによって評価額が大きく変動します。弁護士は、税理士などの専門家とも連携しながら、法的に最も主張が通りやすく、かつ合理的な評価額を導き出すことができます。
また、遺産分割協議や遺留分侵害額請求の交渉を弁護士が代理人として行うことで、感情的になりがちな親族間の話し合いを冷静に進めることができます。当事者同士での対立を避け、法的根拠に基づいた合意形成を目指すことができるため、泥沼化しやすい親族間トラブルの早期解決が期待できます。
さらに、将来の経営権確保を見据えた事前の相続対策についても、遺言書の作成や家族信託の活用など、総合的なスキームを設計できる点も大きなメリットです。同族会社の円滑な事業承継と親族の調和を両立させるために、少しでも不安がある場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめいたします。
































