親族間での相続争いの中でも、特に複雑で解決が困難とされているのが「非上場株式」を巡る遺留分侵害額請求です。亡くなった被相続人が会社経営者であった場合、会社を引き継ぐ後継者は、事業承継の重圧と同時に、他の相続人から高額な金銭請求を受けるという厳しい局面に立たされることが少なくありません。
「自社株の評価額が高すぎて支払う資金がない」「株式が分散してしまい、会社の経営権が脅かされる」——。こうした悩みは、多くの中小企業経営者や後継者が直面する現実的なリスクです。上場株式とは異なり、非上場株式には明確な市場価格が存在しないため、遺留分算定の基礎となる「時価」や「評価方法」を巡って意見が鋭く対立し、争いが泥沼化するケースが後を絶ちません。
本記事では、相続問題の現場で数々の攻防を見てきた弁護士の視点から、非上場株式に関わる遺留分トラブルの実態と具体的な解決策を徹底解説します。なぜ評価額で揉めるのかという根本的な原因から、資金不足への対応、会社法を活用した防衛策、そして適正な株価算定による早期解決のポイントまで、後継者が知っておくべき実務の最前線をお伝えします。会社の未来と資産を守るための重要な指針として、ぜひ最後までお読みください。
1. 非上場株式の評価額はなぜ揉めるのか?遺留分算定における時価と評価方法の対立点
遺留分侵害額請求において、最も激しい攻防が繰り広げられる争点の一つが「非上場株式の評価」です。現金や上場株式のように市場における客観的な取引価格が存在しないため、算定の基礎となる「時価」を巡って、請求する側(遺留分権利者)と請求される側(受遺者・後継者)の意見が真っ向から対立します。この評価額の多寡が、最終的に支払うべき解決金の額を数百万、数千万円単位で変動させるため、双方が一歩も譲れない主戦場となるのです。
非上場株式の評価が揉める最大の要因は、評価手法が一義的に定まっていないことにあります。一般的に、株式の評価アプローチには、会社の保有資産に着目した「純資産価額方式」、類似した上場企業と比較する「類似業種比準方式」、将来の収益力や配当に着目した「収益還元方式(DCF法など)」や「配当還元方式」など、複数の手法が存在します。
遺留分を請求する側は、できる限り高い評価額を算出したいと考えます。そのため、会社が保有する不動産や内部留保を反映しやすい「純資産価額方式」や、将来の収益性を高く見積もる「DCF法」などを根拠に、株式の価値を高く主張する傾向にあります。特に創業から長く続く優良企業の場合、帳簿上の純資産よりも実際の資産価値(含み益)が遥かに大きいケースが多く、資産の再評価を行うことで株価が跳ね上がることがあります。
一方で、遺留分を請求される側、つまり会社の後継者側は、低い評価額を主張します。彼らの論拠としてよく用いられるのが「配当還元方式」や「類似業種比準方式」です。特に、経営支配権を持たない少数株主の地位にある者が取得する株式については、会社を解散して資産を分配する権限がないため、純資産価値よりも、配当期待権としての価値(配当還元価値)を重視すべきだという主張が展開されます。
さらに問題を複雑にするのが、「相続税評価額」と「民法上の時価」の乖離です。相続税の申告で使用される「財産評価基本通達」に基づく評価額は、あくまで課税の公平性を目的とした画一的な基準であり、遺留分算定における「時価」とは必ずしも一致しません。裁判実務においては、税務上の評価額を参考にしつつも、個別の事情や当事者の属性、株式の流動性などを考慮して、独自の評価額が認定されるケースが少なくありません。
このように、非上場株式の評価は「どの算定方式を採用するか」だけでなく、「どの時点を基準とするか」「資産の含み益をどう扱うか」「経営支配権の影響(マイノリティディスカウント)を考慮するか」など、無数の論点が複雑に絡み合います。単純な計算式では答えが出ない領域だからこそ、専門的な知見に基づいた緻密な立証活動が、結果を大きく左右することになります。
2. 会社経営を揺るがす遺留分トラブル!後継者が直面する株式分散のリスクと法的対策
中小企業のオーナー経営者が亡くなった際、事業承継の現場で最も深刻な火種となるのが「自社株」を巡る遺産争いです。後継者が会社の経営権を安定させるために株式を集中して相続しようとしたとき、遺留分を侵害された他の相続人から請求を起こされるケースは後を絶ちません。ここでは、非上場株式における遺留分トラブルの構造的な恐ろしさと、経営権を死守するための具体的な法的対策について解説します。
まず直視すべき現実は、自社株の評価額が想定以上に高騰している場合のリスクです。業績好調な会社であればあるほど株価は高くなり、それに伴い遺留分の請求額も跳ね上がります。2019年の民法改正により、遺留分侵害額請求は原則として「金銭請求」となりました。しかし、請求額が数千万円から億単位に及ぶ場合、後継者個人の手元資金だけで支払うことは極めて困難です。
ここで発生するのが「株式分散」のリスクです。金銭での支払いが不可能な場合、後継者は支払原資を確保するために自社株を第三者へ売却せざるを得なくなったり、あるいは解決策として株式そのものを他の相続人に譲渡(代物弁済)せざるを得なくなったりします。こうして株式が分散すると、経営に関心のない親族や敵対的な親族が株主となり、株主総会での議案否決や、帳簿閲覧権の行使による業務妨害など、円滑な会社経営が阻害される事態に陥ります。最悪の場合、経営権そのものが脅かされることになります。
こうした事態を未然に防ぐためには、経営者が健在なうちに法的スキームを用いた対策を講じることが不可欠です。
代表的な対策の一つが、「経営承継円滑化法」に基づく民法特例(除外合意・固定合意)の活用です。特に「除外合意」は、推定相続人全員の合意と家庭裁判所の許可を得ることで、後継者に贈与した自社株を遺留分の算定基礎財産から完全に除外することができます。これにより、将来どれだけ株価が上昇しても、その株式については遺留分請求の対象外とすることが可能です。
また、会社法上の「種類株式」を活用する手法も有効です。例えば、後継者には普通株式を持たせ、他の相続人には配当優先権を与える代わりに「議決権制限付株式」を割り当てるような定款変更を行えば、財産的な価値は公平に分配しつつ、経営の意思決定権(議決権)だけは後継者に集中させることができます。
さらに、生命保険を活用して後継者に現金を残し、遺留分侵害額請求を受けた際の支払原資(代償金)を確保しておくことも、実務的かつ即効性のある対策です。
非上場企業の事業承継において、遺留分対策は単なる相続の問題ではなく、企業の存続に関わる重大な経営課題です。対策が遅れるほど選択肢は狭まるため、早期に専門家を交えたスキームの構築が求められます。
3. 高額な遺留分を請求されたが資金がない?非上場株式特有の支払い問題と解決への道筋
事業承継の場面において、後継者を最も苦しめるのが「自社株の評価額は高いが、換金できないため手元に現金がない」というジレンマです。会社の業績が良く、内部留保が厚い優良企業ほど非上場株式の評価額は高騰します。その結果、遺留分の算定基礎となる財産総額が膨れ上がり、他の相続人から想定外の高額な遺留分侵害額請求を受けるケースが後を絶ちません。
民法の改正により、遺留分を行使する権利は「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」へと性質が変わりました。かつては株式そのものを共有状態に戻す現物返還が原則でしたが、現在は「金銭債権」となり、侵害額に相当する現金を支払うことが原則となっています。つまり、「手元に現金がないから、代わりに会社の株を渡して解決する」という方法は、相手方の同意がない限り強制できません。これにより、後継者は個人の資産から巨額の現金を捻出しなければならないという、極めてシビアな状況に立たされます。
では、実際に請求額に見合う資金がない場合、どのような解決策が考えられるのでしょうか。法的観点および実務的な対応策として、主に以下の3つのアプローチが検討されます。
まず一つ目は、裁判所に対する「期限の許与」の請求です。民法では、遺留分侵害額を直ちに支払うことが困難な場合、裁判所に対して支払い期限の猶予を求めることができると定めています。これが認められれば、一括払いではなく分割払いに変更するなど、資金繰りに合わせた現実的な支払い計画を立てることが可能になります。ただし、単にお金がないという主張だけでは認められにくく、具体的な収支状況や返済計画の立証が必要です。
二つ目は、会社による「自己株式の取得(金庫株)」の活用です。後継者が相続した株式の一部を会社に買い取らせ、その売却代金を遺留分の支払いに充てるという手法です。個人の資金不足を会社の資金で補う有効な手段ですが、会社法上の財源規制(分配可能額の範囲内であること)をクリアする必要があります。また、税務上は譲渡益の一部が「みなし配当」と判定され、最高税率での所得税が課されるリスクがあるため、手取り額が想定より目減りしないよう事前の綿密な税務シミュレーションが不可欠です。
三つ目は、合意による「代物弁済」です。原則は現金払いですが、当事者間の合意があれば、株式や不動産などの現物で支払うことも可能です。しかし、非上場株式を代物弁済として相手方に渡すことは、会社の経営権(議決権)を分散させるリスクを伴います。経営に関与させたくない相手に株式が渡ることを防ぐため、種類株式(議決権制限株式)を活用して議決権を持たない株式を渡すといった高度な対策が必要になる場合もあります。
資金不足を理由に遺留分侵害額請求を放置すると、遅延損害金が発生するだけでなく、最悪の場合は個人の預貯金や不動産、さらには会社の株式そのものを差し押さえられる事態に発展しかねません。非上場株式が絡む遺留分問題は、単なる相続争いではなく、会社の存続に関わる経営課題です。早期に専門家を交え、キャッシュフローを考慮した防衛策を講じることが重要です。
4. 少数株主からの過大な請求にどう立ち向かうか?会社法を活用した防衛策と交渉のポイント
非上場企業のオーナー経営者に万が一のことがあった際、後継者を悩ませる最大の問題の一つが、他の相続人である少数株主からの「遺留分侵害額請求」です。特に、会社の株式が相続財産の大半を占める場合、株式の評価額をめぐって激しい対立が生じます。
少数株主側は、少しでも多くの金銭を獲得するために、会社の保有資産を時価で評価し直し、解散価値に近い「純資産価額方式」などで算出した高額な株価を主張してくる傾向があります。これに対し、経営権を承継する側が何の策も講じずに応じれば、会社の運転資金や個人の資産が枯渇し、経営そのものが危ぶまれる事態になりかねません。ここでは、法外な請求額に対する理論的な反論と、会社法を活用した具体的な対抗策について解説します。
まず、交渉の第一歩は「株価評価の適正化」です。相手方が主張する純資産価額方式は、会社を解散して資産を分ける場面では合理的ですが、継続企業(ゴーイング・コンサーン)を前提とする場合には必ずしも適切ではありません。特に、経営権を持たない少数株主が保有する株式は、自由な譲渡ができず換金性が著しく低いため、市場価格から一定の割合を割り引く「非流動性ディスカウント」や「マイノリティ・ディスカウント」を強く主張すべきです。裁判実務においても、配当還元方式や収益還元方式を重視し、純資産価額から大幅に減額された評価が採用されるケースは少なくありません。税理士による税務上の評価額だけでなく、弁護士と連携して法的な紛争解決の文脈での適正評価額を提示することが重要です。
次に、会社法を活用した資金調達という防衛策です。遺留分侵害額請求は原則として金銭での支払いが求められますが、後継者個人の手元資金が不足しているケースも多々あります。このような場合、会社法所定の手続きを経て、会社が後継者の保有する株式の一部を買い取る「自己株式の取得」を行う手法が有効です。これにより、会社の資金を適法に後継者個人へ還流させ、それを遺留分の支払原資に充てることができます。ただし、これには財源規制(分配可能額の範囲内であること)や株主総会の決議など厳格な要件が課されているため、手続きに瑕疵がないよう慎重に進める必要があります。
さらに、将来的なリスクを遮断するために、議決権制限株式(無議決権株式)の導入を検討することも一つの手です。交渉の過程で、金銭の代わりに一部株式を渡す合意をする場合でも、その株式を議決権のない種類株式として設計変更しておけば、経営への干渉を防ぐことができます。
少数株主からの過大な請求に対しては、感情的な対立を避け、会社法と判例理論に基づいた冷静な計算とスキームで対抗することが不可欠です。早期に専門的な知見を取り入れ、経営権と会社の資産を守るための布石を打つことを強く推奨します。
5. 早期解決の鍵は適正な株価算定にあり!専門弁護士が明かす遺留分争いの現場と実務
非上場会社の株式が遺産に含まれる場合、遺留分侵害額請求の現場では、その評価額を巡って激しい対立が生じることが日常茶飯事です。上場株式のように市場価格が存在しないため、「いくらと評価するか」によって請求できる金額、あるいは支払わなければならない代償金が数千万円から億単位で変動することも珍しくありません。この膠着状態を打破し、早期解決を目指す上で最も重要となるのが、客観的かつ適正な株価算定です。
実務の現場において、遺留分を請求する側は、会社の資産価値を重視した「純資産価額方式」などを根拠に、可能な限り高い株価を主張する傾向にあります。対して請求される側、多くは会社を継ぐ後継者は、少数株主であることを理由に「配当還元方式」を用いて低い評価額を主張します。この評価額の乖離こそが争いの核心であり、ここが埋まらない限り交渉は平行線をたどり、解決までの時間は長期化してしまいます。
弁護士として数多くの事案に関与してきた経験から言えば、単に相続税申告上の評価額を提示するだけでは、交渉の場において相手方を納得させることは困難です。相続税評価額と時価(遺留分算定の基礎となる価額)は必ずしも一致しないという判例実務の動向を踏まえ、法的な交渉に耐えうる強固な算定根拠を用意する必要があります。
ここで重要になるのが、企業法務や相続紛争に精通した弁護士と、高度な株価算定能力を持つ公認会計士や税理士との連携です。裁判所を通じた調停や訴訟に発展すれば、鑑定人による鑑定が行われることもありますが、これには多額の費用と長い期間を要します。そのため、交渉段階においてDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)など収益性に着目した評価手法も考慮しつつ、双方が合意可能な「合理的な着地点」を見出すことこそが、経済的・精神的負担を最小限に抑える賢明な選択となります。
感情的な対立に陥りがちな遺産相続において、確かな根拠に基づいた「数字」という共通言語を用いて交渉の主導権を握ること。それこそが、非上場株式を巡る複雑な遺留分問題を解決へ導くための最短ルートと言えるでしょう。
































