非上場企業のオーナー経営者様やそのご親族にとって、自社株の取り扱いは非常にデリケートかつ悩ましい課題です。特に「非上場株式の評価」に関しては、上場株式のように明確な市場価格が存在しないため、算定方法や立場によって評価額が大きく変動します。その結果、売買価格や相続時の評価を巡って、親しい親族間であっても深刻なトラブルに発展するケースが後を絶ちません。
「提示された株価が不当に低いのではないか」「想定外の高額な相続税が発生し、納税資金が確保できない」「経営に関与しない親族から株式買取請求を受けたが価格で折り合わない」といったお悩みを抱えてはいませんか?これらを放置することは、親族関係の悪化のみならず、会社の経営権や存続そのものを揺るがす重大なリスクとなります。
そこで本記事では、非上場株式の実務に精通した弁護士監修のもと、実際に発生した親族間トラブルとその解決プロセスを「最新解決事例20選」として詳細に解説いたします。
なぜ評価額に大きな認識の乖離が生まれるのかという根本的な理由から、少数株主との対立解消、高額な相続税問題への対処法、そして次世代への円滑な事業承継を実現するための法的な事前対策まで、実例に基づいた具体的なノウハウを網羅しました。
感情的な対立を避け、法的根拠に基づいた円満な解決を図るために、また将来の紛争を未然に防ぐための指針として、ぜひ本記事をお役立てください。
1. 非上場株式の評価額に関して親族間で大きな認識の乖離が生じてしまう根本的な理由とは
非上場企業の事業承継や相続において、最も激しい対立を生む火種となるのが「株式の評価額」です。親族間であっても、あるいは親族間だからこそ、この金額を巡って骨肉の争いに発展するケースは後を絶ちません。なぜこれほどまでに認識の乖離が生まれてしまうのか、その根本的な理由は、非上場株式には上場株式のような「客観的な市場価格」が存在せず、立場によって「正しいとされる株価」が複数存在してしまう構造にあります。
これを専門的には「一物多価」の状態と呼びます。具体的には、主に以下の3つの視点が存在することで、価格に対する認識のズレが生じます。
第一に、国税庁が定める財産評価基本通達に基づく「税務上の評価額(相続税評価額)」です。これは相続税や贈与税を計算するために用いられるもので、純資産価額方式や類似業種比準方式によって算出されます。会社の後継者や株式を買い取る側は、税務リスクや資金負担を抑えるために、この比較的低い評価額を取引価格の根拠とすることを望みます。
第二に、会社法やM&Aの実務で意識される「時価(公正な価格)」です。これは会社の収益力(DCF法など)や保有資産の時価を反映させた経済的実態に近い価値です。株式を売り渡す側、特に会社経営に関与しない親族は、自身の財産権を最大化するために、この高い評価額こそが正当な対価であると主張します。
第三に、配当利回りに着目した「配当還元価額」です。経営権を持たない少数株主が株式を取得する場合などに適用されることがありますが、一般的に極めて低い価額となります。
トラブルの核心は、売る側は「高い時価」を、買う側は「安い税務評価額」や「配当還元価額」を、それぞれの正義として主張し合う点にあります。さらに、経営権(支配権)を持つ株主にとっての株式価値と、経営に関与できない少数株主にとっての株式価値には本来差があるべきだという「マイノリティ・ディスカウント」の概念も加わり、議論は複雑化します。
このように、双方が異なるモノサシで数字を見ていることが、話し合いを平行線にさせる最大の要因です。円満な解決を図るためには、まずこの「価格の多義性」を理解し、どの評価方法を採用することが法的に、あるいは実務的に妥当なのかを客観的に整理することから始める必要があります。
2. 少数株主との対立や高額な相続税問題を弁護士の介入により円満解決へ導いた具体的な事例
非上場企業の経営において、株式の評価額は常に大きな火種となり得ます。上場株式のように市場価格が存在しないため、会社側が想定する株価と、少数株主や相続人が期待する株価との間に数倍から数十倍もの開きが生じることが珍しくないからです。ここでは、実際に弁護士が介入することで、泥沼化しかけた対立を法的根拠と交渉術によって解決へ導いた代表的な事例を紹介します。
事例1:経営に関与しない親族株主からの高額な株式買取請求への対応
創業50年を超える地方の製造業における事例です。現経営者である社長の従兄弟にあたる少数株主から、突然「保有している株式をすべて買い取ってほしい」との要求が届きました。会社側はこれまで通り、配当還元方式に基づいた1株あたり500円での買取を提示しましたが、株主側はこれを拒否。インターネット上の情報を基に、会社の保有する不動産や内部留保を加味した純資産価額方式を主張し、1株あたり1万円という20倍の価格を提示してきました。
株主側は「誠意ある対応がなければ会計帳簿閲覧請求権を行使し、会社の不正を探す」といった強硬な姿勢を見せ始め、経営業務に支障が出始めていました。
【弁護士の介入と解決策】**
弁護士はまず、会社法に基づき株主の権利範囲を明確化し、不当な業務妨害には毅然と対応する姿勢を示しました。その上で、公認会計士と連携して客観的な株価算定を実施。純資産価額方式は会社清算時の価値に近いものであり、継続企業(ゴーイングコンサーン)の少数株式評価としては必ずしも適切ではないことを判例や実務慣行に基づいて論理的に説明しました。
一方で、完全に配当還元方式のみで押し切るのではなく、類似業種比準方式を加味した折衷的な評価額を提示し、早期解決によるメリット(弁護士費用や精神的負担の軽減)を説きました。最終的に双方が納得する価格での合意形成に成功し、合意書には「今後一切の異議を申し立てない」旨の清算条項を盛り込むことで、将来の紛争リスクも遮断しました。
事例2:高額な相続税評価と遺留分侵害額請求の板挟み
都内で不動産賃貸業を営む同族会社の事例です。先代社長が急逝し、長男が会社株式のすべてを相続することになりました。しかし、会社が都心に優良物件を多数保有していたため、株式の相続税評価額が想定以上に高騰していました。長男には納税するための十分な現金がなく、さらに株式を相続しなかった次男と長女からは、遺留分を侵害しているとして数千万円単位の現金を請求される事態となりました。
長男は「会社を売るしかないのか」と追い詰められていました。
【弁護士の介入と解決策】**
このケースでは、弁護士と税理士がチームを組み、会社法と税法の両面からスキームを構築しました。まず、会社が長男から自社株買い(金庫株の取得)を行う手法を提案しました。これにより、長男は会社から株式の対価として現金を受け取り、それを納税資金と兄弟への代償金(遺留分相当額)に充てることが可能になります。
ただし、自社株買いは「みなし配当」として高額な所得税が課されるリスクがあります。そこで、相続発生から一定期間内に自社株買いを行うことで適用される「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」や所得税の軽減措置を最大限に活用し、税負担を大幅に圧縮しました。
さらに弁護士は、次男と長女に対して、会社を解体して現金化することが将来的な賃料収入(配当原資や役員報酬の源泉)を失うことになり、一族全体にとって不利益であることを丁寧に説明。最終的に、代償金の支払い期間について柔軟な合意を取り付け、会社存続と円満な相続を同時に実現しました。
法的視点による客観性が感情的な対立を鎮める
これらの事例に共通するのは、当事者同士の感情論になりがちな親族間トラブルに対し、弁護士が「法的な適正価格」や「税務上の最適解」という客観的な物差しを持ち込んだ点です。非上場株式の問題は、放置すれば経営権の不安定化や会社の資金繰り悪化に直結します。早期に専門家を介入させ、論理的な解決を図ることが、会社と資産を守るための最善策と言えるでしょう。
3. 次世代へのスムーズな事業承継を実現するために現経営者が講じておくべき法的な事前対策
非上場企業の事業承継において、最も深刻な問題となり得るのは「株式の分散」とそれに伴う「経営権の不安定化」です。後継者が安定して経営を行うためには、単に株式を譲り渡すだけでなく、法的根拠に基づいた強固な防衛策を講じておく必要があります。親族間の紛争、いわゆる「争族」を未然に防ぎ、企業の永続性を確保するために現経営者が検討すべき具体的な法的対策を解説します。
まず第一に着手すべきは、法的に有効な遺言書の作成です。特に、公証人が作成に関与する「公正証書遺言」を利用することで、遺言の無効を主張されるリスクや、偽造・変造の疑いを大幅に低減できます。遺言書において、後継者に対して集中的に自社株式を相続させる旨を明確に記載することは、事業承継の第一歩となります。
しかし、遺言書を作成しただけでは、他の相続人(兄弟姉妹など)から「遺留分侵害額請求」を受けるリスクが残ります。自社株式の評価額が高額になる場合、後継者が多額の金銭賠償を求められ、会社の資金繰りや個人の資産形成に悪影響を及ぼす事例が後を絶ちません。この問題に対処するためには、「経営承継円滑化法」に基づく遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)の活用が極めて有効です。推定相続人全員の合意を得て、家庭裁判所の許可を受けることで、承継する自社株式を遺留分の算定基礎から除外したり、評価額を固定したりすることが可能になります。
次に検討すべき対策は、会社法を活用した「種類株式」の導入です。定款を変更し、普通株式とは異なる権利を持つ株式を発行することで、経営のコントロールを維持しやすくなります。例えば、経営に関与しない親族には配当を優先する代わりに議決権を持たせない「議決権制限株式」を割り当てることで、株式の財産的価値は分配しつつ、経営権は後継者に集中させることができます。また、現経営者が「拒否権付種類株式(いわゆる黄金株)」を保有しておけば、万が一後継者の経営判断に重大な問題が生じた際の抑止力として機能させることも可能です。
さらに、株価が低いタイミングを見計らった生前贈与や譲渡も重要な戦略です。業績が一時的に落ち込んでいる時期や、類似業種比準方式による評価額が下がっている局面で株式を移転させることで、将来の相続税負担や遺留分対策としての効果を高めることができます。この際、暦年課税制度や相続時精算課税制度を適切に選択し、税務と法務の両面からスキームを構築することが求められます。
これらの対策は、それぞれ単独で行うよりも、企業の状況に合わせて複合的に組み合わせることで真価を発揮します。親族間トラブルは一度発生すると、解決までに数年単位の時間を要し、その間の経営停滞は避けられません。トラブルの火種が小さいうちに、あるいは火種が生まれる前に、弁護士や税理士などの専門家を交えて法的な予防策を講じることが、現経営者の最後の、そして最大の責務と言えるでしょう。
































