相続法の条文解説(遺留分:1028条~1044条)

(解説)

遺留分とは、遺言によっても奪うことのできない最低限度の相続をいい、相続人の生活保障がその目的であるとされています。

 

(遺留分の帰属及びその割合)

第1028条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

(解説)

本条は遺留分の割合について定めています。遺留分権利者を兄弟姉妹以外として、割合については法定相続分の三分の1(直系尊属の場合)、又は二分の一と定められています。 


(遺留分の算定)

第1029条 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

 

◆ 貨幣価値の換算

1 遺留分算定の基礎となる財産に特別受益として加えられる贈与財産が金銭である場合、相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価するのが相当である。(最判昭51.3.18

 

◆ 遺留分侵害額の算定

2 遺留分の侵害額は、遺留分額から、遺留分権利者が相続によって得た財産額を控除し、その者の負担する相続債務額を加算して算定する。(最判平8.11.26

 

◆ 全部の財産を相続させる場合の債務

3 相続人のうちの一人に財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言の趣旨等から相続債務は当該相続人にすべて相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され、遺留分の侵害額の算定にあたり、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。(最判平21.3.24

 


第1030条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

 

◆ 「遺留分権利者に損害を加えることを知って」の認定

判例1 家督相続開始約一九年以前の贈与が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものと認定するには、当事者双方が、贈与財産の価額が残存財産の価額を超えることを知った事実ばかりでなく、なお将来被相続人の財産に何ら変動がないことの予見の下に贈与があった事実を判示しなければならない。(大判昭11.6.17

 

◆ 特別受益に当たる贈与

判例2 903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化を考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、本条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。(最判平10.3.24


 

(遺贈又は贈与の減殺請求)

第1031条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

 

◆ 形成権

判例1 遺留分権利者が本条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、いったん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずる。(最判昭41.7.14

 

◆ 遺産分割事件における主張

判例2 遺産分割事件において、分割の前提として遺留分減殺請求権行使の事実およびその効果を主張することは、遺産の範囲を明らかにし、これを明認した上でその分割手続を進めることが必要である以上、当然許される。(東京高判昭44.7.21

 

◆ 減殺請求した財産の帰属

判例3 財産全部の包括遺贈に対して減殺請求した遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。(最判平8.1.26

 

◆ 遺留分減殺請求と時効取得

判例4 被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利はその限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るものであり、受贈者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではない。(最判平11.6.24

 

◆ 債権者代位

判例5 遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債構者代位の目的とすることができない。(最判平13.11.12

 

◆ 保険金受取人の変更

判例6 自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、本条に規定する遺贈または贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできない。(最判平14.11.5


 

(条件付権利等の贈与又は遺贈の一部の減殺)

第1032条 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とした場合において、その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは、遺留分権利者は、第1029条第2項の規定により定めた価格に従い、直ちにその残部の価額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。


 

(贈与と遺贈の減殺の順序)

第1033条 贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。


 

(遺贈の減殺の割合)

第1034条 遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 

◆ 「目的の価額」

判例1 相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合には、その遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、本条にいう目的の価額に当たる。(最判平10.2.26


 

(贈与の減殺の順序)

第1035条 贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。

 

◆ 同日贈与・同日登記

判例1 二個の贈与が同日に行われ、贈与不動産について同日に登記され、登記受付番号に先後を生じても、該贈与が同時に行われたものと推定することができる。(大判昭9.9.15


 

(受贈者による果実の返還)

第1036条 受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。

 


(受贈者の無資力による損失の負担)

第1037条 減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

 


(負担付贈与の減殺請求)

第1038条 負担付贈与は、その目的の価額から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができる。


 

(不相当な対価による有償行為)

第1039条 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。

 


(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)

第1040条 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。

2 前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。

 

◆ 譲受人に対する減殺請求

判例1 受贈者に対し減殺の請求をしたときは、その後受贈者から贈与の目的物を譲り受けた者に対して、さらに減殺の請求をすることはできない。(最判昭35.7.19

 

◆ 譲渡価額による弁償

判例2 遺留分減殺請求を受けるよりも前に遺贈の目的を譲渡した受遺者が遺留分権利者に対して価額弁償すべき額は、譲渡の価額がその当時において客観的に相当と認められるときは、その価額を基準として算定する。(最判平10.3.10


 

(遺留分権利者に対する価額による弁償)

第1041条 受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。

2 前項の規定は、前条第1項ただし書の場合について準用する。

 

◆ 個別財産の価額弁償

判例1 受贈者または受遺者は、本条1項に基づき、減殺された贈与または遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還を免れることができる。(最判平12.7.11

 

◆ 価額弁償の基準時

判例2 遺留分権利者が受贈者または受遺者に対し本条1項の価額弁償を請求する訴訟における贈与または遺贈の目的物の価額算定の基準時は、右訴訟の事実審口頭弁論終結の時である。(最判昭51.8.30

 

◆ 現実の履行の必要性

判例3 特定物の遺贈につき履行がされた場合、本条の規定により受遺者が遺贈の目的の返還義務を免れるためには、価額の弁償を現実に履行するかまたはその履行の提供をしなければならず、価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りない。(最判昭54.7.10

 

◆ 裁判所の定めた額による弁償

判例4 減殺請求した遺留分権利者からの遺贈の目的物の返還請求訴訟において、受遺者が、裁判所の定めた価額により弁償する旨の意思表示をすることは認められる。(最判平9.2.25

 

◆ 遅延損害金の起算日

判例5 遺留分減殺請求を受けた受遺者が価額弁償する旨の意思表示をし、遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償請求権を行使する旨の意思表示をした場合には、その時点において、当該遺留分権利者は、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権および所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い、これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得する。価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は、受遺者に対し弁償金の支払いを請求した日の翌日になる。(最判平20.1.24) 

 

◆ 弁償額の確定を求める訴え

判例6 遺留分減殺請求を受けて価額弁償する旨の意思表示をした受遺者等は、判決によって確定されたときは速やかに支払う意思がある旨を表明して、弁償すべき額の確定を求める訴えを提起できる。(最判平21.12.18


 

(減殺請求権の期間の制限)

第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

 

◆ 目的物返還請求権の不消滅

判例1 遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は、本条所定の消滅時効に服しない。(最判昭57.3.4

 

◆ 贈与の無効主張

判例2 遺留分権利者が、減殺すべき贈与の無効を訴訟上主張していても、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは、その無効を信じていたため減殺請求権を行使しなかったことにもっともと認められる特段の事情のない限り、右贈与が減殺できることを知っていたと推認するのが相当である。(最判昭57.11.12

 

◆ 遺産分割協議の申入れ

判例3 被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合に、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれると解すべきである。(最判平10.6.11


 

(遺留分の放棄)

第1043条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。


 

(代襲相続及び相続分の規定の準用)

第1044条 第887条第2項及び第3項、第900条、第901条、第903条並びに第904条の規定は、遺留分について準用する。

 

◆ 指定相続分と持戻し免除の遺留分減殺請求

判例1 (最判平24.1.26