相続法の条文解説(総則編:882条~885条)

相続法の条文解説(総則編)

民法は出生から死亡まで規定していることから、一番身近に感じられる法律であります。その中でも、相続は人生の中において誰でも1度は関わることになる制度であると思います。

1、この相続という制度が認められている根拠は何でしょうか。相続のその存在する根拠として挙げられるのは「私有財産制度」に基づくものであるとされています。しかし、私有財産制度だけが根拠であるならば、個人が自ら稼いで貯蓄することについては認められるが、死後は国庫に帰属するという処理をすることも論理的には考えられそうです。では、なぜ本人だけでなく、その子供にまで財産を引き継がせる制度があるか。現在の有力的見解では、親族的共同生活関係に基づく生活保障、被相続人の意思の反映等が言われていますが、統一的な根拠づけは難しいとされています。

2、日本の相続制度は明治時代に制定されたいわゆる家父長制・家督相続権を基にした規定がなされていました。しかし資本主義の発展と共に家督相続権が弱くなり、第一次大戦後より家制度が形式的なものとなってきました。そこで大正8年より、相続法についての法制審議会により相続法の改正審議がなされました。ところが第二次正解大戦勃発により、改正がなされませんでした。終戦の後、現行憲法が制定され、憲法24条に基づきて民法が改正されるに至りました。この改正により、婚姻家族が念頭に置おかれ、配偶者への相続権、血族相続人間の均分相続が原則とされました。

3、現行民法の相続法の総則規定は、相続の発生要因、及び相続取消権の時効規定が定められています。


(相続開始の原因)

第882条 相続は、死亡によって開始する。

 

判例1 推定相続人は、将来相続開始の際、被相続人の権利義務を包括的に承継すべき期待権を有するだけで、現在においては、いまだ当然には被相続人の個々の財産に対し権利を有するものではない。(最判昭30.12.26

 

【解説】

1、相続開始の原因についての規定です。相続の開始する原因は「死亡」とされています。この死亡は、医学的に呼吸が停止した瞬間をさしています。しかしその死亡の日時が不明の場合は死亡推定時刻が死亡日時となります。

2、しかし、死亡したら直ちに相続に関する権利が発生するわけではありません。というのも、本規定は、厳密にいうと被相続人の相続財産の範囲、相続人の確定、遺留分の確定、遺言書の開封など、相続に関する各種法律の「基準時」が死亡時であるということを言っている条文になります。そしてその後の手続きによって、具体的に誰がどれくらい相続するかを算定することになり

ます。したがって、判例1にあるように、具体的な相続財産の確定、算定、分割が行われるまでは個々の財産に対して権利は有しないということになります。

 


 

(相続開始の場所)

第883条 相続は、被相続人の住所において開始する

 

【解説】

本条の規定は、前条が「相続の開始の時期」を定めているのに対して、「相続開始の場所」を定めたものです。この規定により、相続事件に関する裁判管轄が決まることになります。具体的には家事事件手続法に基づく家事審判事件は、相続開始地の家庭裁判所で行われます。

 


 

(相続回復請求権)

第884条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。

 

◆ 個々の財産の取戻し

判例1 相続による所有権取得を理由として個々の財産に対し取戻しを請求するのも、相続回復の請求である。(大判明44.7.10 

◆ 包括的行使

判例2 相続回復請求は包括的に行使することができるから、目的たる財産をいちいち列挙する必要はない。(大連判大8.3.28)

◆ 援用権者

判例3 表見相続人に対し特定の相続財産の承継取得の効力を争う場合でも、相続の無効を理由とする限り、一つの回復請求権の行使にほかならないから、真正相続人が回復手続をしない限り、第三者はその効力を争いえない。(最判昭32.9.19 

◆ 共同相続人間

判例4 共同相続人のうち一人または数人が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分についても自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し、真正共同相続人の相続権を侵害している場合について、本条の適用を否定すべき理由はないが、その者が悪意であり、またはそう信ずることに合理的理由がない場合には、侵害されている他の共同相続人からの侵害の排除の請求に対し相続回復請求権の時効を援用しえない。(最大判昭53.12.10

◆ 立証責任

判例5 相続回復請求権の消誠時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、右の相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつこれを知らなかったことに合理的事由があったことを主張立証しなければならない。(最判平11.7.19)

◆ 第三者の時効援用

判例6 単独相続の登記をした共同相続人の一人が、本来の持分を超える部分が他の共同相続人に属することを知っていたか、または単独相続したと信ずるにつき合理的事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用できない場合には、その者から不動産を譲り受けた第三者も消滅時効を援用できない。(最判平7.12.5 

◆ 取得時効との関係

判例7 相続回復しうる間は、僭称相続人は相続財産たる不動産を占有しても、時効取得することはできない。(大判昭7.2.9 

◆ 転得者の取得時効

判例8 表見相続人から相続不動産を転得した第三者は、前者の占有をあわせ主張して時効取得できる。(大判昭13.4.12

◆ 二〇年の時効

判例9 相続回復請求権の二〇年の時効は、中断と時効利益の放棄が許されるが、相続権侵害の事実の有無にかかわらず、相続開始の時から進行する。(最判昭23.11.6

【解説】

1、本条は相続回復請求権の短期消滅時効を規定したものですが、「相続回復請求権」という特殊な請求権の存在を前提としています。しかし、「相続回復請求権」という用語は民法上ではこの1条のみであり、「相続回復請求権」の内容については何も規定されておりません。そのため、「相続回復請求権」の性質、発生原因、当事者などの細かい点は全て学術的な議論によって構成されています。

そもそも相続回復請求権とは、その名の通り、相続人たる資格ー包括承継した相続権を保護するため、被相続人の財産を元に戻すことのできる権利です。具体例としては①見ず知らずの第三者が相続人である旨を勝手に詐称して相続手続きに乗り込み利益を受けた場合②共同相続人の一人が、本来の自己の持分割合を超えて占有管理し、「自己の物である」と主張し利益を受けた場合(判例4)に元に戻すことができます。

相続回復請求権は真正相続人本人が主張しなければ効力が生じません(判例3)

2、この相続回復請求権は、遺産分割の結果等をひっくりかえす様な効力を持つことから、5年または20年という短期消滅時効が定められています(判例9)。相続回復請求権が主張されると、相手方としてはそれを阻止する主張(時効の援用)を行うことになりますがその立証責任はその相手方にあります(判例5)。

 


 

(相続財産に関する費用)

第885条 相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。

2 前項の費用は、遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって支弁することを要しない。

 

【解説】

本条は、相続財産に関する費用を相続財産の負担とすることを規定したものです。「相続財産に関する費用」とは相続財産の清算や管理に必要な費用」を意味しています。具体的には相続の承認、放棄までの管理費用、遺言執行の際の管理費用はこれにあたります。なお、問題となるのは「相続税」と「葬式費用」が本条にいう相続財産に関する費用に含まるかどうかについて学説上争いがあります。通説は含まれるものと解しております。

本条の規定が除外される場合が1項ただし書きと2項です。が本条2項については文言の意味内容が不明であり法学者が説明に困っている規定です。文言上の意味では、遺留分の減殺によって取得した財産を諸経費の引き当てとしなくてよいという意味であると考えられています。