相続法の条文解説(相続の効力(総則):896条~914条)

【解説】

(相続の一般的効力)

第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

 

◆ 遺骨の所有権

判例1 被相続人の遺骨は(遺産)相続人の所有に帰する。(大判大10.7.25

 

◆ 遺骨の帰属

判例2 (最判平1.7.18

 

◆ 即死の場合の損害賠償請求権 相続

判例3 被害者即死の場合にも、被害者に損害賠償請求権が発生し、相続人がこれを承継する。(大判大15.2.16

 

◆ 即死の場合の損害賠償請求権 原始取得

判例4 被害者即死の場合には、被害者に損害賠償請求権は発生しえず、それが相続されるのではなく、被害者の死亡により相続人に原始的に発生する。(大判昭3.3.10

 

◆ 慰謝料請求権

判例5 (最大判昭42.11.1

 

◆ 保証人たる地位

判例6 継続的売買取引について将来負担することあるべき債務について責任の限度額ならびに保証期間の定めのない連帯保証契約における保証人たる地位は特段の事由のない限り、当事者その人と終始する。(最判昭37.11.9

 

◆ 事実上の養子と賃借権

判例7 家屋賃借人の事実上の養子として待遇されていた者が賃借人の死後も引き続き家屋に居住する場合、賃借人の相続人らにおいて養子を遺産の事実上の承継者と認め、祖先の祭祀も同人に行わせる等の事情があるときは、その者は、家屋の居住につき、相続人らの賃借権を援用して賃貸人に対抗することができる。(最判昭37.12.25

 

◆ 生活保護受給権

判例8 朝日訴訟上告審 生活保護法に基づく保護受給権は、被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であって、相続の対象とならない。(最大判昭42.5.24

 

◆ 占有権

判例9 被相続人が死亡して相続が開始するときは、特別の事情のない限り、従前その占有に属したものは、当然相続人の占有に移ると解すべきである。(最判昭44.10.30

 

◆ 他人の権利の発生

判例10 他人の権利の売主が死亡し、その権利者が相続しても、信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り、右相続人はその売買契約上の売主としての履行義務を拒否できる。(最大判昭49.9.4

 

◆ 養老保険

判例11 養老保険契約で、被保険者死亡の場合の保険金受取人が相続人と指定されたときは、特別の事情がない限り、被保険者死亡の当時相続人たるべき個人を指定した「他人のための保険契約」と解するのが相当であり、当該保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に、相続人の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱している。(最判昭40.2.2

 

◆ 傷害保険

判例12 (傷害保険の)被保険者死亡の場合、保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う旨の保険約款は、特段の事情のない限り、被保険者の相続人を保険金受取人に指定した場合と同様に解すべきである。(最判昭48.6.29

 

◆ 保険金の受取割合

判例13 死亡保険金の受取人を「相続人」と指定した場合、各相続人が受け取るべき権利は相続分の割合による。(最判平6.7.18

 

◆ 死亡退職金

判例14 死亡退職金の受給権は相続財産に属さず、受給権者たる遺族は、自己固有の権利として取得する。(最判昭55.11.27

 

◆ 公営住宅の使用権

判例15 公営住宅の入居者が死亡した場合に、その相続人は、その使用権を当然に承継するものではない。(最判平2.10.18

 

◆ ゴルフ会員権

判例16 預託金会員制ゴルフクラブにおいて、会則等に会員としての地位の相続に関する定めがない場合でも、譲渡に関する定めがあるときは、会員の死亡によりその相続人は、譲渡に準じて、会員としての地位を取得することができる。(最判平9.3.25

 

◆ 所得税の還付請求権

判例17 被相続人の所得税等に係る過納金の還付請求権は、被相続人の相続財産を構成する。(最判平22.10.15

 

◆ 無権代理と相続

判例18 (最判昭63.3.1

 

 【解説】

本条は、相続の一般的効力について、定めている規定です。一身専属性のもの(本人にしか帰属しない権利)以外は全て相続人に承継するという大原則を定めています。

1債権の相続については帰属上の一身専属の債権を除き、債権は相続によって相続人に承継されます。しかしながら生命を侵害された場合の損害賠償請求権については判例の変遷があります。民法896条本文に「相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定しています。が、果たし損害賠償請求権は被相続人の死亡前に相続したといえるかどうかで見解が分かれています。その中でも慰謝料請求権は、さらに一身専属性があるのではないかとする議論があります。判例1は、慰謝料請求権の

(祭祀に関する権利の承継)

第897条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

 

1 遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属する。(最判平1.7.18

2 遺骨の所有権(大判大10.7.25

 

(共同相続の効力)

第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

 

◆ 使用貸借の解除

1 共同相続人が相続財産たる家屋の使用借主に対してその使用貸借を解除するのは、252条本文の管理行為に当たるから、共同相続人の過半数決を必要とする。(最判昭29.3.12

 

◆ 共有の性質

2 相続財産の共有は、民法改正の前後を通じ249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではない。(最判昭30.5.31

 

◆ 遺産を構成する不動産の売却代金債権

3 共同相続人が全員の合意により遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸脱し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる。(最判昭52.9.19

 

◆ 遺産確認の訴え

4 共同相続人間において特定の財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えは、適法である。(最判昭61.3.13

 

◆ 同居相続人の使用貸借権

5 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきた場合は、特段の事情のない限り、被相続人死亡時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人を貸主、同居相続人を借主とする建物の使用貸借契約が存続する。(最判平8.12.17

 

◆ 預金口座の取引経過開示請求

6 共同相続人の一人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。(最判平21.1.22

 

◆ 共同相続と登記

7 共同相続財産につき、単独所有権移転登記を受けた第三取得者に対して、他の共同相続人は、自己の持分の登記なくして対抗しうる。(最判昭38.2.22

 

◆ 相続不動産の賃料債権

8 (最判平17.9.8

 

第899条 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

 

◆ 可分債権

1 相続財産中の可分債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する。(最判昭29.4.8

 

◆ 金銭

2 相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできない。(最判平4.4.10

 

◆ 定額郵便貯金

3 定額郵便貯金債権は、相続開始と同時に当然に分割されることはなく、その最終的帰属は遺産分割手続によって決定される。(最判平22.10.8

 

◆ 投資信託・国債

4 ①株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し、株主は、株主たる地位に基づいて、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利などのいわゆる自益権と株主総会における議決権などのいわゆる共益権とを有する。このような株式に含まれる権利の内容および性質に照らせば、共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。②委託者指図型投資信託の受益権は、口数を単位とするものであって、その内容として、法令上、償還金請求権および収益分配請求権という金銭支払請求権のほか、信託財産に関する帳簿書類の閲覧または謄写の請求権等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており、可分給付を目的とする権利ではないものが含まれている。このような投資信託受益権に含まれる権利の内容および性質に照らせば、共同相続された投資信託受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。③個人向け国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、一単位未満での権利行使が予定されていない。このような個人向け国債の内容および性質に照らせば、共同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。(最判平26.2.25

 

◆ 投資信託の相続開始後の収益分配金

  共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき、相続開始後に発生した元本償還金または収益分配金が預り金として販売会社の被相続人名義の口座に入金された場合にも、預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の一人は、販売会社に対し、自己の相続分に相当する金員の支払を請求することはできない。(最判平26.12.12

 

◆相続分を超える債権行使

6 共同相続人の一人が、相続財産中の可分債権につき、その相続分を超えて債権を行使した場合には、他の相続人の財産に対する侵害となるから、侵害を受けた相続人は、侵害した相続人に対して、不法行為に基づく損害賠償または不当利得の返還を求めることができる。(最判平16.4.20

 

◆ 連帯債務

7 連帯債務者の一人が死亡し、その相続人が数人ある場合に相続人らは被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において本来の債務者とともに連帯債務者となる。(最判昭34.6.19